息子の風邪が移ってしまった時、いつもより薬の量が増えていたことだけでなく、代謝もガクッと落ちてしまい、食欲がないのになぜだか少し太ってしまいました。その後、徐々に良くなり、体も動きやすくなると食欲も出て体重計に乗ってみると、逆に痩せていてびっくり。元々燃焼系だとは思っていたのだけど、代謝次第でここまで数字に表れるなんてね。1日5食を小分けに食べている話を、随分前に通っていた若い接骨院の先生に話すと、そういえば面白い表現をしてくれたなと思い出して。「薪のようなイメージでお伝えすると、○○さんの場合、燃やしきってから次の薪を入れていると思うんですよ。だから、脂肪が蓄積されづらいんじゃないかと。それって体にいいことですよ!」なるほどなるほど。1食が少ないから息子には心配されるのだけど、1日トータルで見た時、そこそこカロリーは取っているんだよな。風邪を引いたことによりリズムがちょっと崩れ、せっかくなので自分の体と向き合ってみました。ということは、体質の似ている息子も燃焼系?スポーツ観戦をしていると、熱狂してお腹が空くのはきっと心にも体にもいい証拠。
よく食べていたといえば、二十歳の頃。大学が終わって自宅に帰る前に、名古屋駅のマックでハンバーガーを二つ食べてから戻る時もあったと息子に話すと驚かれました。「ママがそんなに食べるの、信じられないんだけど。」そりゃそうだ、その当時は今よりも10kg太っていたのだから。実家は冷戦状態で、それだけのカロリーを取って、よし帰るかと気合を入れないと戻れなかったんだよ。ホームとは、もっとあたたかい場所でありたい、そんなことを思いながら揺られた電車内。そして、家を出て大学に向かう途中、それが2限目から始まる日などは、またパン屋さんに立ち寄って、疲れ切った気持ちを糖分で補っていました。泣いてしまうよりも、詰め込んでしまえば辛さが半減する、そんな願いを込めながら。そして、日本料理店でアルバイト中、個室で接客をしていると、お酒に酔ったスーツを着たお客様から言われました。「女子大生がこんな所で深夜まで働いて、親はどう思っているだろうな。」と。私にとって大切な方達がいる職場をこんな所とは言われたくない、そう思いながらも、ぐっと堪えてその時言える言葉を伝えました。「父は仕事人間ですから。」と。「この子は、親に感謝しない子だね。」こちらが嫌な態度を取れば、お店に迷惑がかかる。唇をそっと噛み、精一杯の笑顔で伝えました。「ここで働くお金は、大学の費用の為です。」すると、そのお客様はしまったという表情をし、上司らしき方が私に謝ってくれました。「うちの者が、嫌な気持ちにさせてしまってごめんね。」いえ、そう言って小さく微笑みました。そんなことには慣れている。表面だけを見て判断する人にはならないでおこう、本当の辛さは、人はきっともっと奥に隠すから。そして、またある日、先輩と個室でお料理を運んでいると、これまた酔ったお客様が肩を抱いてきました。戸惑っている私をそっと見て、なんとかその場を一緒に離れ、声をかけてくれたのは後に小料理屋を出したママでした。「Sちゃん、今夜はお仕事が終わったら空いているかしら?」誘い方が、なんとも優しい。その後、カウンターのある居酒屋で乾杯し、お店の中でのことには触れず、自分の話をしてくれました。シングルママで二人の男の子を育ててきたこと、お金の苦労があったこと、スナックで働いたこと、今は、昼間は事務の仕事をして夜は時々日本料理店でお世話になっていること。その話を聞き、ママが伝えてくれようとしたことが分かりました。私もお酒を扱ったお店で働いたから、Sちゃんが今日受けたショックは分かる、その気持ちを少しでも癒せたらと思って誘ったの。直球を投げたら、もしかしたら傷つけてしまうかもしれない、だからママにしかできないやり方で守ろうとしてくれたのだと、それを思うと泣きそうになりました。先程嗅いだビールの匂いとは全然違う、あたたかい匂い。自分が覚えておきたいのは、間違いなく後者の方。悲しかった後に、神様が用意してくれた“出会い”というプレゼントでした。心の母、彼女に出会っていなければ今の私はいません。
その後、なんとか教育実習までこぎつけました。ここまで来た、それはもう言葉にはできない景色でした。4週間は集中したいから連絡はしないでとマブダチK君にも伝えていて、実習が終わった週末に待ってましたと言わんばかりのタイミングで会いに来てくれました。「S、どうだった?」お前がどんな学生生活を送ってきたか、どんな思いでその日を迎えたか、きっと一番近くで俺は見てきた。だから、今のSの表情が見たくて車の旅から一旦戻ってきたんだ。いろんな気持ちが流れ込み、感無量でした。「いい4週間だったよ。全然時間が足りなくて、思い出すだけで泣きそう。社会科の恩師には、教員に向き過ぎていて向いていないって言われたの。なんだかもう笑ってしまってね。繊細な所とかきっとバレていたんだと思う。結婚して、子供を持って、子育てがひと段落した時に、もう一度教育現場に戻ってきてくれないかって。未来の子供達に経験したことを伝えてやってくれないかって。」その話をすると、何とも言えない嬉しそうな表情で言ってくれました。「なんだか、Sが羨ましいよ。本当に大変だったと思うんだよ。でも、こうやって実現させた。お前の芯に触れてくれる人にも出会った。Sが教員にならないのはちょっと残念だけど、俺がお前のような先生に出会っていたら俺の人生またちょっと違ったのかなとか思うけど、どんな道に進んでも応援する。ただな、沢山の人に出会えよ。」その時の約束は、きっと果たされた。そして、自分の生が終わるその時まで忘れない。
教育実習先で出会った一人のかわいい中学生の女の子が、小説家を目指していて、その夢を語ってくれました。もし小説家になれたら、先生のこと書くね!そのお礼に、彼女のことをここに記しておく。さあ、息子はもうすぐ中学一年生。小料理屋のママが通ったシングルママの道、そして自分が通った教育実習の道、さらには中学生の私、どんな場面が蘇りもう一度誰の優しさに触れるだろう。どれだけ歳を重ねても、ありがとうは胸の中に。1日の重み、噛み締め続けることにしよう。