姉との再会以来、色んな気持ちが交錯し、ぼーっとしているだけで泣けてきて。ただ一つ言えるのは、もう一緒に首都高に乗らなくなったということ。同じ所をぐるぐる回り、相手の痛みが分かるだけに共感し合えるのだけど、出口が結局同じでまた同じ景色かと思っていた時期は過ぎ、次のステージに行ったのだと思いました。そう、新しい旅の始まり。
「ネネちゃん、そういえば私、閉所恐怖症なんだよ。」「私もだよ。」え~!!と思ったのですが、一緒に幼少の頃、押し入れに入れられたので、そりゃそうかと変に納得してしまいました。「まだSが生まれる前、両親に甘えられないから、おばあちゃんに寒い日、どうしてもチョコが食べたいとわがままを言って一緒に買いに行ってもらったの。チョコが食べたい訳ではなく、ただ甘えたかっただけなんだけど、それを知ったお父さんが罰として押し入れに入れたの。なんで私がそんなことを言い出したかとかまるで分かっていなくて悲しかった。」私の知らない話がまだまだあって、胸が潰されそうでした。生まれる前からそんなだったということは、私が生まれてから両親の気持ちが私に向いていたとしたら、姉はどんな思いで毎日を過ごしていたのだろうと思うと、本人の目の前で泣きそうになるのをぐっと堪え、そんな中で妹を守ってくれた姉のことがスライドのように蘇り、こうして書いていたらやっぱり泣けてきました。「Sちんがまだ幼稚園の時、家出したでしょ。」すっかり我が家で家出事件になっている、友達とコイを見に行く約束をして自宅から離れていた珍事件。「お母さんはおばあちゃんの看病で毎日病院に行っていて、その事件は笑い話になっているけど、あり得ないよ。幼稚園バスから降りて、玄関の前で待っているはずの園児が、少し離れた池にずっといたんだよ。事件や事故に巻き込まれていても全然おかしくないのに、うちの両親はなんとも思っていなかった。小学校から帰ったらいるはずの妹が玄関にいなくて、本当に気が気じゃなかったんだよ。それが普通の感覚でしょ。私達はずっと寂しい思いをしてきた。だから、自分の子供には寂しい思いをさせたくないっていつも思ってきて、でも、子育てしながら時々思い出して、そういう気持ち両親は分かっていなくて、相変わらずなところを見た時ぷつっと自分の中で切れちゃったんだよ。」辛い中で沢山守ってくれたね。心の中で温かいものが流れ出す。姉の痛みと私の痛みは同じ所と、そうじゃない所があった、そんなことにも気づいていく。なんて柔らかいひとときなのだろう。
大学図書館勤務時代、書庫で暗くて狭い場所があり、分類番号順に並べられたそのエリアはたまたま民俗学の本が並んでいました。他大学と相互貸借をするILL(Inter Library Loan) の業務で、本の貸出し依頼があり、その場所に向かい、複本があったので早くここから出たいなと思いながらも、一番綺麗な状態の本を選びたいと思いパラパラとめくって、これだと決めて慌ててその場を離れました。ぜいぜい言いながらカウンターに戻ったので、先輩がどうしたの?と聞いてくれて。「今日依頼があった本、民俗学の本で、あのあたり狭くて暗いから苦手なんです。実は閉所恐怖症で。」笑いながらそう言うと、一緒に笑ってくれました。「しかも、あのあたりお化けの内容とかもあるしね。本当に苦手だったら、今度私が行くよ。」「大丈夫です、仕事なので。」そう言うと、微笑んでくれました。自分が選んだ図書館という場所、優しい人達に囲まれ、押し入れの中で感じた不安感が和らいでいくようでした。カウンターから見上げた窓から見える広い空。狭くて暗い場所ではなく、無限を感じさせてくれる空が大好きでした。その空に飛行機が飛んでいるのを見かけると、より嬉しくて。そうか、あれはお姉ちゃんの心だったんだね。
「私ね、心理士さんにアダルトチルドレン、愛着障害だと言われたの。」カフェの最後にさらけ出してくれました。大学在学中、学内にある保健センターの心療内科の先生に家庭内のことを相談した数日後、教職課程の児童心理学の講義で先生に話した内容が出てきて、実体験がもしかしたら誰かを救うことになるかもしれないと思った。だから、その講義のプリントの裏に素直な気持ちを残しておいたよ。子供の頃に受けたもの、最近心療内科の先生に言われたことが、講義の中で出てきて、思いがけず自分の辛さと向き合えたこと、今感じているものをいつか役立てたいということ、先生の講義で救われた学生がいたという感謝を半泣きしながら書いた、まだまだ青臭い自分が姉の言葉で蘇ってきました。なぜ、教職課程を学んだのか、なぜ司書の道に進んだのか、全部を包括して、今こうして書いているのか。姉と久しぶりに話し、全てが繋がっていたのだと思うと、こみ上げるものがありました。
愛着障害、姉の痛みの一番奥にあったもの。それが分かったから、方向は見えた。私は姉が好きだし、姉も妹が好きだということ。それは、子供の時から一貫してる。そこを太くするだけ。そうしたらきっと自信を取り戻してくれる。
まだ私が幼稚園の頃、母と姉と三人で歩いた時、母が私に何かを言った途端、姉が泣きながら走り出しました。話の内容を全く覚えていないのに、悲しみに覆い尽くされた姉の痛みと泣き顔だけはしっかり覚えていて。長い時を経て、ようやく分かりました。あの時母は、次女を大切にする発言をした、内容は大したことなかったのかもしれない、それでも姉の中でたまりにたまった悲しみが爆発してしまったのだと。いつも妹ばっかり。そんな姉は、私に意地悪をしたことなんて一度もありませんでした。どれだけの葛藤の中で、妹の幸せを願い、大切にしてくれていたかと思うと、ちょっとぐらい強引にでも、外に連れ出そうと決めました。図書館から見ていた景色を伝えに行くよ。いつもあなたがそばにいた。少しどんくさい妹の手を引っ張ってくれた子供時代の姉。その温もりを忘れたことはないと鬱陶しいぐらい伝えに行く。