一歩引いてみる?

息子と夏の計画を立てていたある日、タイムテーブルをマックで作成していると、ぽつりと伝えてきました。「なんで人ってこんなに時間に追われているの?」自分から手書きで記入をしていたのに、2ページ目になってふと冷静に伝えてくるので、思いっきり笑ってしまって。あんたが具体的に書いていきたいって言ったんじゃ!!でもまあ、言いたいことは分かる。もっとざっくり歩んでいけたらいいね。時間を気にしないでいい生活、いつかトライしてみようか。そんな息子と、前世や来世ってあったりするのかなあと二人で盛り上がっていた日、これまた珍回答が待っていました。「Rは、今度もし生まれ変わるとしたら何になりたい?」「うーん、コアラとかリスとか、可愛らしい動物。でね、できれば動物園で飼われたい。」「どうして?」「大事にされるから。」自分でエサぐらい取ってこ~い!!と笑った夏の夜。守られているという安心感、現実世界の彼は、何を思っているのだろう。お腹の中にいた時からママの顔が見えていたというのは、本当なのかもしれないな。

天気の急変で相変わらずやられてしまうここ最近、そんな時だからこそ、過去の気持ちがダイレクトで自分に届く瞬間があり、何かストンと落ちるものがありました。アメリカ育ちの元彼は、日本支社に転勤になり、そのタイミングで私と出会ったので付き合うことになったのだけど、日本にいてどこか苦しそうだなと心の片隅で感じていて。アメリカの文化の中で生きている方が、彼は自分らしくいられる、そう思いました。だったら私がテキサスについて行き、幸せになれるかと言えば、やっぱりそれも違っていて。彼が多少なりとも自覚してくれていたワーカホリックは、私と別れ、アメリカに戻ったら落ち着いてくれるような気がしました。ただの勘、でもそういう予感は結構な確率で当たることも知っていて。恋愛中、マブダチK君の話をすると、笑って聞いてくれました。「高校1年の時に出会った男友達がいたんだけど、8時に起きて8時4分に家を出た!って、慌てて自転車を漕いで高校に来たことがあってね。4分で何ができるの?男の人って準備早いなってそれだけでも笑えたんだけど、学ランの下はパジャマだったの!」そう話すと、膝を叩いて大爆笑。「言いたいことをはっきり言ってくるから喧嘩もしたし、連絡する回数もぐっと減ったんだけど、今でも大事な友達。」「異性の友達、大切にするといい。良い関係だったんだろうな。」そう言って、微笑んでくれました。私が大切にしていた人やものを大切に思ってくれていた、それなのに私は彼の仕事を好きになれなかった、なんて小さいのだろう、その苦しさが自分の中で渦巻き、段々と大きくなっていったのかもしれません。私ができるのは、彼のアメリカ行きを応援すること、それは別れを意味する。最後のハグは、それはもう言葉にはならない程の優しさに満ちたものでした。まだなんとかできないだろうか、お互いがそんな気持ちでいて、でも言葉にしたらまた辛い時間が延びることも分かっていて、だからこそ離れました。こんな別れもあるんだな、一人で号泣した涙は今の私に繋がっています。
元夫との離婚を考えている話をネネちゃんにすると、カフェで言われました。「Sちんは何とかしていくの。それは私が知っている。」と。その“何とか”という言葉に、姉は私の歴史を見てくれていて、泣きそうになりました。大阪やカナダに行っている時も、Sちんは一人で家族を支え続けた。辛い別れも経験した。それでも妹は何度でも立ち上がった。そんなSを私は知っていると、姉の目の中に過去の自分がいるようで、なんて強く優しい時間なのだろうと思いました。一人で沢山流した涙を、姉は気づいていたんだなと。

「ママのお財布、ずっと使っているから変えたら?」と息子が最近伝えてきました。「まだ使えるから大丈夫。」これはね、妹を名古屋に置いてきてしまったと後ろ髪を引かれる思いで、毎日関空で働いていた姉が使っていたお財布なの。そのルイヴィトンには、ネネちゃんの汗と涙が染みついているから、簡単には捨てられないんだ。弱音を吐かない妹に、新しいお財布を買うからと言って、さりげなく渡してくれたもの。こんなことぐらいしかできなくてごめんね、そんなメッセージを感じて、胸がいっぱいになった。ママの原動力は、誰かが届けてくれた“想い”なのかもしれないね。だから、永遠になくならない。図書館で働き、沢山の本に出会い、本当にいつの日か書いてみたいと思った。その願いが叶い、白紙を前にすると、気持ちが溢れた。こんなにも助けられてきたんだなと。一歩引いた所から見えた世界、どれだけ季節が巡ってもやっぱりここは春です。