流れるプールのように

息子が友達と遊びに行ってくれた日、今がチャンスと思い、自転車屋さんへ直してもらった愛車を取りに向かうと、ただのパンクだと分かり、男性の店員さんがお会計の後伝えてくれました。「もうすぐ雨のようなので、気を付けて帰ってくださいね!」このひと言なんだよな。思いがけない場所で1UPキノコを受け取り、にっこりお礼を言ってお別れ。その後、気持ちよく自転車を走らせていると、歩道でお財布を拾い慌てて近くの交番へ向かいました。よく見ると男の子のお財布、若い女性警官の方がお礼と共に中身を確認すると、出てきたのは小銭と図書カード、本好きの子だったのね!となんだかほっこり。色々聞かれ、笑ってその場を後にした翌日、今度は息子と歩いているとショッピングモールの駐輪場でカギを拾いました。これは自宅のカギではないか、交番とサービスセンターどちらがいい?と思考を巡らせた後、後者を選んで届けることに。店員さんに説明し、有難く受け取って頂くと帰りながら息子がひと言。「ママ、どこかでいいことあるかもね!」「うち達のメダルが大損しないのは、そういうことかもしれないね!」とわいわい。巡っているんだよ、本当に。お母さんは、プチハピで十分。そんな日常の中で、一緒にかき氷を作ると、息子が聞いてきました。「金のスプーンと銀のスプーン、どっちがいい?」金の斧銀の斧か~い!どっちでもいいわ!!イソップ寓話ではどちらでもないと正直に伝えるのだけど、それではかき氷が食べられないので、「金のスプーン!」と勝手に一人で大盛り上がり。息子との物語はまだまだ続く。

パリオリンピックを毎日のように二人で観て、歓喜していた時、時々胸がぎゅっとなるのはどうしてだろうと思っていたら、ようやくその感情の理由に気づきました。前回大会は、三年前の東京オリンピック、まだ前のマンションに住んでいて、とても苦しい時期だったな、その時のことが自分の中に残っていて、完全に越えた訳ではないから痛みが疼いたのだと。まだ時間はかかりそうだけど、元夫と過ごした10年という月日を大事にしまっています。心身共に状態はあまり良くない中、前だけを見ようと思い、勢いで引っ越し準備をしました。その時、なんの躊躇もなく、ダンボールに結婚式のアルバムを入れました。悲しいこともあったけど、彼と過ごした時間を肯定していて、離婚調停に入るけどそれはそれ、これはこれだと大事にくるんで新居へ。いつの日か、自分の心が癒えた時、開けることができたらいいなと思っています。パリオリンピックに出ていた男の選手が敗戦し、本当は苦しかったと涙と共に本心を伝えてくれた時、東京オリンピックからの三年間、とんでもないプレッシャーの中で戦っていたんだなと、なんだか私も頑張ってきて良かったなと、深夜に一緒に泣きました。溢れ出る汗と涙は、その人にしか分からない沢山のものが詰まっているんだろうなと。そんな心が動く日常の中、顎関節症は、もしかしたら子育てがひと段落するまで治らないんじゃないかと思えてきて。以前、ネネちゃんが伝えてくれたことがありました。「Sちんは、次の日なんの予定も無くなったら自然と寝れるようになるかもしれないね。常に何かを考えているんだよ。頭の中が空っぽになったらきっとぐっすり眠れるよ。それまでがんばれ!」いかにも姉らしいエールに笑ってしまって。そして、直球しか投げてこないマブダチK君。「Sさあ、自分に疲れるだろ。」なかなか痛い所を突いてくる。息子が、精神的自立を始めてくれて、幹が太陽に向かって伸びてくれた時、ゆっくり治り始めてくれるのかもしれないなと思いました。両親のことではない、母親としての私が緊張感の中にいてしまっているのかもしれないなと。それでも、そんな時間が愛おしいんだ。

テニス部に所属した中学時代、春に臨時で招集される陸上部になぜ1年生の時から入ったのか、その動機が具体的に思い出せなくて。走りたいと思った、純粋な気持ちからだったのかも。陸上部顧問は、体育の教師で野球部の監督でもある怖い男の先生でした。陸上部員はみんな部活を掛け持ち。トラックを何周も走り、それぞれの競技を練習した後、クールダウンをし、グラウンドに横一列で並びました。一番端の部長が先に挨拶。それにみんなが続くと顧問がひと言。「揃ってない!もう一回!」すると、カラスがびっくりする程の大きさで、みんなが一段声を上げ、グラウンドに頭を下げながら「ありがとうございました!」と言った時、鳥肌が立ちました。テニス部が弱いのは、こういった気持ちが足りなかったかもしれないのだと。もう夕暮れも近く、みんなへとへと。日に焼けるわ汗は止まらないわ、疲れはピークを越えている中、まさか挨拶のやり直しがあるとは。グラウンドに感謝しろ、教えてくれた先生達、仲間達に感謝しろ、その気持ちを徹底的に叩き込まれました。大会は一日だけど、共に過ごした時間を忘れるな。苦しい時、きっと思い出すから。そんなメッセージが恩師の中にいつもあって、その想いは今の私も支えてくれています。

トマトが嫌いな息子。隣でミニトマトを食べていたら、伝えてきました。「ボク、嫌いなんだよ~。なんで赤いの?!」トマトに失礼や!!夏野菜で栄養満点じゃ!と思いながら大爆笑。トラックを何周も走っていた中学時代、どんな未来が待っているだろうと思った。走っていると、もやもやがすっきりしてくる感覚が好きだった。心の中に溜めてしまった負の感情を誰かにぶつけるのではなく、自分で分解していく。その作業が、スポーツでならできるような気がした。そんな私が母親になった。たまには流れに乗って、息子とぷかぷか浮いてみようか。どこに降り立っても、笑っていたい。