今日という日を噛み締めて

マリナーズ対ブルージェイズのリーグ優勝決定シリーズ第7戦。3勝3敗で迎え、シアトルが本拠地のマリナーズを応援していたものの、惜敗で戦いは終わりました。今回、マリナーズが今までワールドシリーズに行ったことがないということを初めて知り、その壁を破ってほしいと現地で応援するファンの方達と同じような気持ちで祈っていました。野球殿堂入りのイチロー選手がスピーチで送った、『Seize the moment(この瞬間を掴め)』という言葉は、チームを、そしてファンの心をより強く深く繋げてくれて。勝者がいれば敗者もいる、戦いの世界だからそれはそうなのだけど、今回の敗戦は本当に色々と考えさせられて、いつかその壁を破り頂点に立ってくれる日を願おうと思いました。シアトルまでの長距離フライト、いつの日か行ける日を信じて。

メジャーリーグを観ていたら、ふとアメリカ育ちの彼と付き合っていた頃のことが思い出されました。すでに関東に住んでいて、いとこが東海岸の島で結婚式をするからフィアンセとして一緒に出席してほしいとのこと。カナダには行ったことがあるけど、飛行機酔いがあるんだよなと思いながらも承諾。そして、ロサンゼルスの彼の友達の家に滞在させてもらった後、再度国内線に乗り何度も乗り継ぎをして、ようやく現地に到着しました。すると、休む間もなく前夜祭のパーティに呼ばれ、英語が飛び交い困惑。時差ぼけと睡眠不足と乗り物酔いといろんなものがミックスしている中で、なんとかその日は乗り切りました。そして翌日、ビーチで結婚式は行われ、クルーズ船に乗った後、また夕食のパーティがあって。席は彼と離されてしまい、完全に孤立してしまいました。隣は、日本人の彼の伯母さん。英語は話せた方がいいとばっさり言われ、彼の彼女には相応しくないという烙印を押されたような気分に。そして、彼の隣にはアメリカ人の伯父さんが。私が大学をきちんと出たのか、一流大学を出たのか、そんな質問をされたことが後から分かりました。お医者さんであったり大学教授であったり、一流の方達が集まる親族。自分がちっぽけな存在であることを痛感した、とても苦しいディナーでした。大学を卒業することさえ大変な実家の状態だった、あの時中退していたらこのご家庭では人としても見てもらえないのかと、そんなことも思ってしまって。勇気を出して、母と祖父の元を離れ、遠恋していた彼の近くに来た。でも、その先でこんな思いをしてしまうなんて。いろんな人が幸せになれと願ってくれていた、こんなこと言える訳ないじゃないか。その後、彼といろんな溝を埋めようとお互いが努めたものの、どうにもならないことが分かり、別れが待っていました。「Sといられた時間は、俺の中で一番幸せな時間だった。もうこんな時はやってこないと思う。」そんなことを言われたら、余計に辛くなるじゃないか、それも含めて彼の人柄、どうかいい生涯を送ってねと相手のことを願い選んだ道でした。飛び立ったオーストラリアの短期留学、機内でまともに寝られず、ブリスベン空港に着くと、予め手配をしていたドライバーのオージーの男性が、印を付けていた私を見つけ陽気に声をかけてくれました。そして、他の日本人の学生さんも同乗し、それぞれのホストファミリーの家まで送ってもらうことに。到着したのは、フィリピンから移民のご家族で、ホストパパが車まで出てきて、喜んでスーツケースを運んでくれて、リビングに入ると、みんなが温かく迎えてくれました。テーブルには、フィリピンのお菓子が沢山並んでいて。そして、笑顔が素敵なホストママが紅茶を淹れてくれました。他に娘さんが二人、みんなが私を待っていて、そのウェルカムな雰囲気に溢れそうでした。ご家族から質問攻めに合い、それでも、こちらがゆっくり話す英語を微笑みながら聞いてくれていて。そして、ホストパパが伝えてきました。「Sは思っていたよりも英語が話せる!司書なんだね。ナイスワークだ!」と。アメリカの東海岸で受けた時の温度とはまるで違って、その凍てつくような痛みを経験した後だったので、余計に沁みました。その人そのものを受け入れ肯定する、優しさと大らかさとぬくもりを持って接すること、それをオーストラリアで学んできたんだなと。後から帰ってきたのは長男の一番上の兄ちゃん。現地で携帯電話を手に入れても、手続きがよく分からない私にしょうがねえなという表情をしながら最後まで付き合ってくれました。夜は、妹さん達と共にスポーツバーや夜景が綺麗なスポットに連れて行ってくれて。洗濯物は自分でするからいいとホストママに言っても、必ず畳んで私の部屋に置いてあって。週末は、キリスト教徒の夫妻が教会に行くからと朝から起こされ、仏教徒だと伝えると笑ってまた寝かせてくれて。一番下の娘さんは、たまには日本に連絡したいでしょと自分のパソコンを貸してくれて、毎日彼らの優しさに触れていたら夕飯の食卓で泣けてきて、長女が気づき大騒動。Sが何か苦手な食材があったんじゃないかとかなんとかかんとかみんなで騒ぎ出し、そんな気遣いに余計涙が溢れました。連敗続きじゃなかったね、こんな優しい家族に巡り合わせてくれる未来が待っていたとは。またここから頑張ろうと。何を話しても、「That’s O.K. No worries.」とどんな時も笑ってくれたホストママ。大丈夫、心配ないよ。その柔らかい言葉は、今でも私の中で流れ続けている。

今日のマリナーズ戦、2対1で迎えた今シーズン60号のホームランを量産した捕手のラリー選手が、3点目となるソロホームランを打ってくれました。そのホームランボールをキャッチしたのは、マリナーズのブルペンキャッチャーで、胸がいっぱいに。扇の要であるラリー選手が打った球を、仲間の捕手がノーバウンドで捕球した時、虹が架かったような不思議なものを感じました。捕手から捕手へ。逆転負けにはなってしまったけど、その一発を忘れないでいたいなと。息子が最初に着たのはヤクルトスワローズのクルーユニではなく、背番号『51』イチロー選手のマリナーズのアウェイユニでした。今日の試合は同じユニで選手達が戦ってくれていて、なんだか感無量でした。壁を破ってくれるその時まで、私もこの気持ちを持って応援し続けることにする。