道は途切れない

クリスマスイブの前夜、お買いものパンダの本と、タリーズと小田急がコラボしたくまちゃんの第二弾をツリーの近くに置いておくと、それに気づいた息子は大喜び。なぜイブイブの日に渡したかというと、プレゼントが待ちきれず、うずうずしていたので、少しだけフライングをして用意することに。なんかね、息子らしいものであり、自分らしいチョイスをしたかったんだ。それを思った時に、やっぱり本なのかなと。そして、仙台駅で見つけた楽天イーグルスのユニフォームを着たお買いものパンダに歓喜し、連れて帰ってきた延長線上の夢が広がってくれたらいいなと願いを込めて。ママサンタ、小さく頑張った!

そしてイブの明け方、眠りが浅くてまずいなと思い、睡眠サプリを飲んでもう一度寝ました。起きても今日はきつい日だなとなんとか自分を奮い立たせようとすると、息子も天候などの影響でわがまま炸裂。閉鎖的な中で、二人だけの空間で負の感情を爆発させられるのは、いろんな過去を包括し、私の中で怖いこと。息子の抱える問題と、私の問題を分けて考えるにはどうしたらいいだろうとできるだけ冷静に伝えました。負の感情を表に出すのは悪いことではないということ、それでも外ではいいこで言いやすい人だけに集中してとげのある言葉を浴びせるのは、その人が辛くなってしまうこともあるのではないか、お母さんがそれを良しとしてしまったら、この先出会う彼女を傷つけてしまうかもしれない、そうなる前にお母さんの前で練習しよう。負の感情を出して相手をコントロールしようとすることはきっと間違っている、コントロールできるのは自分自身だけなんだと思う。心や体の不調が出た時でも、自分とうまく付き合えたらいいね。お母さんもまだまだだけど、一緒に乗り越えようよ。トライ&エラーでいいんだと思う。怒りというか悲しみの感情をできるだけ抑えて、それでも仏の顔も3度までではなくもう100回は許してるわ!!という気持ちも滲ませながら伝えると、リアクションは薄かったものの伝わってくれたよう。育児がひと段落したら、とびっきり美味しいケーキを食べることにしよう。
その後、慌ててランチを済ませ、予約していたボウリング場に二人で向かいました。電車の中では、喜んで受け取ってくれたお買いものパンダのまちがい探しでわいわい。現地に到着し、2ゲームを楽しむと息子のコントロールが良くなっていて、スコアを超えられ驚きました。自主練でもしていたか?!それからもメダルを楽しみ、ファミレスで夕飯を食べて、コンビニで夜食を買うとミスコミュニケーションでまた軽くぶつけられ、もうへとへとだったので、さすがに怒って反論。なんだか辛くなってきて、あたたかい湯船に浸かると気持ちも落ち着くからと伝え、とりあえず息子を先にお風呂に入れ、何気なくスマホを見るとLINEのメッセージが入っていました。名古屋の小料理屋のママからでした。『メリークリスマス。Sちゃん、元気にしていますか?私は何とか老体にムチ打って店を一人でやってます!Sちゃんもお体大切にお過ごし下さいね。』というにこちゃんマーク付き。強くて優しい人、何かを察知して連絡をくれたのか、タイムリーなタイミングでメッセージが入り、溢れました。この大きな器にどれだけ助けられてきただろう。そして、ママの体とお店のことが気になりお礼の返信を送ると、『よかった』という言葉とくまちゃんが紙吹雪を撒いているスタンプだけ送られてきて、どこまでもママらしいなと嬉しくなって。今年中にお店が入っているビルは解体するから閉店は決まっていた、でもお店をやっていると連絡をくれた。ということは考えられるのは二つ。解体が延期されたか、お店を移転したということ。元々もう一人のスタッフさんを雇い、二人体制でやっていたのを一人でやっているということは後者の可能性ではないか。ママのお店がなくなることを残念に思ったお客さんが、いい物件があるよと声をかけてくれた光景は容易に想像できる。手術もして、早く歩くこともままならないはず。それでも、待ってくれているお客様がいるからと歩みを止めないママの笑顔と、そのエネルギーはどこから湧いてくるのだろうと心の底から尊敬する人の生き様を見せてもらえたことが、サンタさんからのプレゼントなのかと思いました。移転した場所を伝えたら、もしかしたら交通費をかけて来てくれるかもしれない、でも前のような広さじゃないし、何よりR君との時間を大切にしてね。気にかけてくれるだけで十分よ。Sちゃんいい?何とかなるものよ、笑っていたらね。だから顔を上げることだけは忘れないで。『よかった』という言葉にはママのこんなメッセージが込められているような気がして、堪らない気持ちになりました。実在する小料理屋のママ、名古屋で出会い、二十歳から心の母でいてくれた人。あなたがいてくれたから、私はここにいます。注いでくれた愛は、あまりにも大きい。

小学校低学年の頃、祖父は社用車を使って通勤していました。私が学校に行く前に、出勤するおじいちゃんを見送ると数分後にすぐ戻ってきて異変を察知。「あのな、駐車場に停めていた車が無くなっているんだよ。」「えっ?冗談でしょ。」と私。母も近くに来て大騒動。そんな事ある?!とこちらが動揺すると、とても冷静に伝えてきました。「Sちゃん、ちょっとコーヒーを淹れてくれるか。こういう時は落ち着いて考えた方がいい。」そう言ってこちらが淹れたコーヒーをゆっくり飲んで、さらに話してくれて。「運転席や助手席はきちんとカギをかけていたんだよ。でも、トランクだけカギをかけ忘れていたかもしれん。そこから入って盗まれたのかも。でもな、会社の名前が車に書かれているんだよ。会社には連絡するけど、社名が入った逃走車なんてそんな長く乗れるもんじゃないだろう。結構早く見つかるんじゃないか。それに、新車でもないし、結構ポンコツだぞ。」こんな大事の状況の中で、こんな時こそ落ち着けというスタンスに驚いたと同時に、この一大事に“ポンコツ”という言葉を入れてちょっと笑わせてくれたおじいちゃんはただ者ではないと子供ながらに思いました。その数日後、警察から連絡が入り、本当にそんな離れてはいない所であっさり発見。「な、おじいちゃんが言ったとおりだろ。」なんだかもう、スタンディングオーベーション。危機的な状況な時ほど、とことん冷静になれ!その信条、改めて見習いたい。
そんな祖父の背中を見ながら社会人になりました。日本料理店でバイトをしていた頃、出会った先輩は自分の小料理屋を開店。常連として通っていた時、お酒の入った男性のお客さんが私の祖父のことを尋ねてきました。戦争のことを聞かれ、ほんの少しだけ伝えると、ややばかにするような発言が。お酒が入ると嫌な思いをしてしまうことは日本料理店で経験済み、だからさらっと流そうとしていると、たまたまカウンターでその話を聞いていたママがピシャリ。「Sちゃんのおじいさまをばかにするようなことは言わないで。」そのお客さんは大事な常連さんでした。でも、そのことよりママは私だけでなく祖父のことも大切にしてくれました。あまりにも沢山の歴史がある、そのすべてをママは守ってくれたようで強い優しさとはこういうことを言うのだと胸がいっぱいになったお店での出来事でした。彼女の出身は新潟、いつかその地にも行ってこようと思っています。人が歩いてきた道、そして止まらない道、強い足取りの人は迷いがない。私も何か残せるだろうか。