変わらないぬくもり

ヤクルト観戦の今季二戦目の前夜、ワクワクしながら女子バレーのネーションズリーグを観て熱狂し、なんとかクールダウンをして眠りにつきました。すると、朝方見たのは両親の夢でした。あまりにこちらが顔を出さないので、別の場所に引っ越そうかと言われたちょっと切ないストーリーで。夢の中の私はと言うと、YesもNoも言わずただ黙っていて。45年分の痛みも感謝もある、そんな簡単に答えが出るものではないんだよなと、いろんな気持ちの中で起き上がりました。いつものように息子とドジャース戦を観ながら朝の準備をし、グッズを詰め込んでいざ出発。その日は、後半戦最初の試合で、燕プロジェクトの日でした。2年前の縁日で、息子が引き当ててくれた緑色の燕パワーユニを着られる日が来るなんてね。私は、村上選手の復帰を願い去年のクルーユニ、『55』の水色を着て神宮へ。すると駅の近くで父に偶然会い、驚きました。「今からヤクルト戦を観に行くんだよ。中日戦!」「こんな暑い中行くのか?!」とびっくりされて。「うん。来月のお盆に、住職さんがお見えになる時は顔を出すよ。」「6月の13回忌で来て頂いたから、お盆はお断りしたよ。」ああ、連絡がなかったのは父の配慮だなと反省やらありがとうやら、いろんな思いがこみ上げて。「夏休み、どこかで顔を出すね。」「おう!いつでもいいぞ。」そう言われ、息子とバイバイ。夢を見た後だったので、とても不思議な気分になりました。ここに繋がっていたんだね。今の暮らしを守ることで精一杯だけど、心はそばにいるよ、両親に伝えることができたなら。

その後、電車に揺られ、外苑前の駅で降りると、ラグビー日本代表の桜のジャージーを着た方達が何人もいて驚きました。そして、コンビニに寄り食材を買って、神宮球場の中へ。すっかりはまってしまったじんカラのからあげを、緑のヘルメット付きの商品で購入し、二人で大盛り上がり。美味しいし特別感があっていいねとどんどん満たされていきました。それから、ライトスタンドへ向かうと暑っ!!身の危険を感じたので、荷物を置いてかき氷をゲットし、涼むことができて。これは気合いが必要だなともう一度席に戻り、スワローズキャップを目深に被って早めに夕飯を食べました。うちわで陽ざしを避け、持ってきていたハンディファンで暑さを和らげていると、スタメン発表の時間が。これから熱い戦いが始まるよ!と感じさせてくれる、そのひとときが大好きでした。今回の対戦相手は中日、いろんな意味で胸が高まるな。そして、プレイボール。ヤクルトの吉村投手、中日の髙橋宏斗投手の好投の中、応援グッズのバチが後ろの席に落ちてしまったので、謝りながら拾いました。すると、息子のすぐ後ろにいた60代ぐらいの男性が声をかけてくれて。「失礼ですけど、ブラックラムズのファンですか?」そう言われたので、かなりびっくりして聞き返しました。今日、何か分かるようなアイテムを持っていたっけ?!と頭の中はフル回転。「はい!なんで分かったんですか?」「先程使っていた扇風機にラムズのキャラクターのシールが貼ってあったから。僕、他のチームのファンなんです。」と言って見せてもらったのは、おじさんが仰いでいた東芝ブレイブルーパスのうちわ。ああ!と思わず叫びそうになり、というか半分叫んでいて二人で思いっきり盛り上がってしまいました。「いやあ、本当にいるんだねえ!」とヤクルトファンの中にラグビーファンがいたことがさぞ嬉しかったのか、本気で喜んでくれて。「この間の代表戦も神戸まで観に行ったんだよ~。」「すごいですね!ウェールズ戦、二試合とも観ていたんですけど、九州で勝って神戸での試合も本当に惜しかったですね!」とわいわい。「そうなんだよ~。今日は秩父宮で女子の試合がスペイン戦だよ。」と思いがけない所で、混んでいた答え合わせができて。「奥さんがラグビー好きなの?」いやいや、奥さんは数年前に引退したんですけどねと心の中で思いながら、私が好きだから息子にラグビー観戦をたまに付き合ってもらっていると話すと、いい笑顔を見せてくれました。「ラムズも惜しい試合がいっぱいあったよね。東芝は、ぶつかっていくあのプレースタイルが好きでファンになったんだ。」「ああ、そうなんですね!日本代表のキャプテンいますよね!」「リーチね!」と私の数少ないラグビー知識はここで終了してしまったものの、野球の応援に来て別のスポーツで話に華を咲かせることになるとは思わず、いい時間が流れました。そして、試合は0対1で劣勢の中、5回裏には花火が。胸の中にあるもやっとしたものが分解されるような、感激の時間でした。その後、6回裏に内山選手のタイムリーで追いつくと、みんなが一斉に傘を開き、東京音頭の大合唱。おじさんが、私と息子にグータッチをしてくれてぐっときました。そして、荘司投手がきっちり抑えてくれた7回、赤羽選手のタイムリーで逆転。息子が、「ヤクルト最高!!」と叫び、また綺麗な傘が神宮の夜にキラキラ光りました。チャンステーマを何度も何度も歌い続けた、声が選手の耳に届くようにと願った、その一人一人の力の結集が、その熱量が、何度来ても感激させられて。スポーツっていいな。それから最後の9回、祈るような気持ちで見守っていると2対1でゲームセット。歓声が沸き起こり、息子とおじさんと喜び、あまりにも嬉しかったので左隣にいた女性の方を向くと、私とダブルハイタッチをして「勝ちましたね!」と弾けるスマイルで一緒に勝利を分かち合いました。バックスクリーンには、大きなつば九郎が出現。そこで見届けてくれていたんだねと溢れそうに。そして、プロ初勝利の荘司投手と決勝タイムリーを打ってくれた赤羽選手のヒーローインタビューの後、また隣の女性が声をかけてくれました。「あの、お子さんにもし良かったら、このヘルメットお使いになりますか?」と。それは先程、じんカラをゲットした時に買った商品と同じものでした。みどれの日にしか出てこない特別な物。彼女の隣には高校生らしき女の子もいて、恐縮しながら伝えました。「貴重なものなのに本当にいいんですか?」と。「いいんです、いいんです。」と二人で伝えてくれるので、感極まりそうになりながら、息子と一緒にお礼を伝え、有難く頂くことにしました。自分が小学3年生の時、父と行ったナゴヤ球場のライトスタンド。みんなの気持ちを乗せて大声で応援し、席に座ると周りに座っていた方達も優しい雰囲気で、新しい世界を知りました。45歳になって、その時と何も変わらない温度を今日改めて感じさせてもらったようで、そのヘルメットは何か特別な意味があるような大事なお守りに。いろんな道がある、ドラフトでプロ野球に入っても、結果が残せず、違う道へ行く選手達を沢山見てきました。私自身、物心ついた時から母のことでどれだけ悩んできたか分からないし、今もシングルママとしていろんなことがある、でも、心が折れそうな道の途中で今日のような優しさに触れると、またもうひと踏ん張りできるんじゃないかなって、どんなことが待っていようとも、どの道に進もうとも受け取った優しさは消えなくて、だから人は前に進めるのかな、自分の最期に思い出すのは、こんな瞬間なんじゃないかなと神宮球場の歓声に包まれながらそんなことを思いました。光りの一日。

おじさんが帰り際、私に向かって「お疲れ様~。」と言ってすっかり顔なじみになり、いい表情で帰っていってくれました。実は前回の試合の時は、息子の目の前に座っていた、人の引力はなんて不思議なものなのだろう。そして、隣の女性もまた去り際に、「お疲れ様でした~。」と会釈をして帰宅。彼らにお礼を伝えた、発した言葉以上の深い想いを受け取ってくれただろうか。息子と心地よい疲れの中、ゆっくり特急電車に乗っていつもの景色の中へ戻ってきました。リコーブラックラムズ東京のマスコットキャラクター『ラムまる』、そのシールは3年前に息子のラグビー初観戦で土砂降りの日にスタッフさんからもらったもの。扇風機が二つある中で、ボクのとママのと分ける為だと言って、息子が自分用に貼っていたものでした。私の扇風機を持参していたら、おじさんはラムズファンだと気づかなかった。ご縁とはきっとこういうもの。