中学2年生の時、30歳の女の先生が担任になり、結婚し小さな男の子がいる強く優しい方でした。
初日のクラスの挨拶で、「結婚していてごめんね。男子のみんな。」と言ってくれた時、笑いが起こり、さばさばした性格はすっかり皆のお気に入りの先生に。
私もとても信頼している中で、自宅で事件が起きました。両親がとても言い合っているような感じで、姉は放っておけばいいと言っていたのですが、翌日になっても塞ぎ込んでいる母が心配で。
とりあえず、学校に行ったものの、勉強どころではなく、おかしなことを考えるのではないかと気が気でなく、やんわりと先生に伝えました。
「昨晩からお母さんの様子がおかしかったから、先生帰ってもいい?」
冷静な私に、先生はとても冷静に応えてくれて。「S、皆には調子が悪くなったから帰ると伝えるから、今日は早退しなさい。必ず先生と約束して。自宅に帰ったら学校に電話してね。心配していることは忘れたら駄目よ。」
先生は、その時、母と私の関係が普通ではないことを察知してくれました。そして、ぐっと私の心に近づいた。”あなたがお母さんを守るなら、私があなたのことを守るから”
その気持ちを胸に、半泣きしながら走って帰宅。悲壮感が漂ってはいたものの、母は自宅にいてくれて、力が抜けました。無事で良かった。「昨晩から心配だったから、調子が悪いと言って帰ってきたよ。」と話すと、驚かれながらも、和んでくれて。母には、愛されているという実感が必要。そのことを誰よりも知っていた。
安心して間もなく、先生から電話があり、学校に電話を入れることをすっかり忘れていたので、まずは謝り、状況を説明すると安堵してくれて。先生の温もりが、電話の向こうから感じられ、ようやく緩んだ優しい時間でした。
後日、学校の個室に呼ばれた時のこと。
「あなたは良い子すぎるの。人ってね、もっと弱くて脆いものなの。本当のあなたを知っても、誰も嫌いになったりしない。沢山の愛が溢れているんだもん。もっと人間らしくいなさい。Sが苦しい時は必ず周りが助けてくれる。そのことは、どんなことがあっても忘れないで。」
家族以外の人から、家族以上の優しさをもらい、温かい涙が頬をつたいました。良い子でいることを本気で怒ってくれた。それが無理をしていると、もっと自然体でいなさいと。
芯の部分にそっと触れられたその時間は、心が震えました。私もこんな先生になりたい、それが教員を目指したいと思った大きな出来事です。
中学生の頃は、まだアイデンティティ(自己同一性)が確立されていない時期。そんな中で母が不安定で、自分を保とうと必死な時、強い意志を持った先生に助けられました。あの時の私にとってどれだけ大きなメッセージだったか、どれだけ自分らしさを見つける事ができたか分かりません。
中学校教員。私が中学校にこだわったのは、肝っ玉母さんのような先生に出会えたから。
その人を丸ごと包む愛を、教えてもらった場所だから。