憎めない存在

母や姉によくこの件について言われたのですが、私はいつも父に甘いらしい。もっと怒るべきところを簡単に許してしまっているよう。
少しだけ自覚はしていて、理由はいくつかあるのですが、結論から言うと憎めない人なんです。あとは、単純に相性がいいことと、私が人の気持ちを分かりすぎてしまうことと、異性だからなんとなく許せてしまうところもあるのかも。

大学時代の女友達に、「Sの優しさに甘える男の人は、絶対に選んじゃダメ。」と言われ続けていたのも、なんだか納得。

まだ実家にいた頃、週末父は接待ゴルフなどもあったのですが、それ以外はパチンコに行くことが多く、その合間に行く喫茶店も好きで、なぜか私も連行されていました。それは、父なりに証拠を残す為の作戦。
一日中パチンコをしている訳ではなく、喫茶店でも寛いでいたと母に証明する為に、わざわざ一旦自宅に帰り、私を誘い近くのお店へ。

父の気持ちがまだぼんやりとしか分かっていなかった頃なので、喫茶店に行っても暇で仕方がなく、早く帰りたいと連発。誘ったのなら話しかけてくれたらいいのに、店内の漫画を読みだすので、やむを得ず私も少年ジャンプのドラゴンボールを読む羽目に。
せっかく二人の時間が持てたのだから、「学校はどうだ?」とか聞こうよ~。そう思っていても、父の世界観があり、なんだかそれを邪魔したくなくて、ジャンプの向こうにいる父をそっと見ていました。

大学生になり、肩を並べて飲んだ夜、二件目のお店に誘ってくれた時のこと。行きつけのバーだったらしく、ドアを開けると綺麗なママさんがご挨拶。そして、こちらの様子を伺い、「もしかして娘さん?」と嬉しそうに言ってくれました。
「そう、一緒に住んでいる大学生の娘。俺は、居候なんだけど。」笑いながら言っていたけど、その言葉を聞いてとても胸が痛かった。

父は、ここでは本音を話し、母と結婚して祖父母と一緒に住む家は、父にとって居候の場所でした。そんなに居心地が悪かったのかと思った時、一緒に行った喫茶店でのことがよみがえりました。早く帰りたいなんて言わずに、もっと長居して、お父さんに寛いでもらえたら良かった。気づいてあげられなくてごめんね。

終電を逃し、その日は一緒にタクシーに乗って帰宅。すでに、母とは険悪だったので、私と二人で飲んだことは黙っておこうと車内で言われ、私だけ先に帰ることに。何事もなく、父が帰宅してきた姿を見て、何も考えていないふりをして、母の心を守ろうとしていることに気付きました。

腹が立つのにいつも許してしまうのは、本当は人の気持ちが分かる人だから。母や姉に見せないから、私だけが気付いている憎めない性格。
そして、父親としても夫としても大いに問題ありだけど、立派な銀行員であることも知っている。