遠回りしてみる?

Wordの真っ白な画面をずっとにらめっこして、ふと空を見上げると、曇り空のどんよりとした白い雲が見え、そういえばシェアオフィスの壁紙や天井は白だなとどうでもいいことをぼんやり考えていたら、のんびりとした時間の断片が思い出されました。

それは、大学図書館での遠回り。経理などの仕事に追われ、気分転換に出向くのは、わざと遠いトイレ。書架の端を歩き、学生さん寝てるな~と思いながら、空を見上げ目的地へ。途中で本が乱れている時は直しながら、学生さん達に本が見つからないと言われると一緒に探し、時に教授の方に捕まり、雑談が長引き、遠回りもいいんだか悪いんだかと心の中で笑いながら、そんな時間も楽しんでいました。そして、違う部署の友達が私にプレゼントがあったらしく、仕事の終わりに渡してくれたら良かったのですが、何を血迷ったのか書類の袋に人気店のマドレーヌを詰め込み、事務室にいた私に届けに来てくれました。「書類袋で学内を歩いていると、それっぽいでしょ!」と言われ、大笑い。図書館って何でもありだなと思いながらも、総務的な仕事をやっている私に書類が届くことに違和感がないだろうと判断した友達は、仕事中に危ない橋を渡ってきてくれました。A4サイズの資料ではなく、ややもっこりしていることに誰も違和感はなかったのだろうかと思いながらも、喜んで受け取り彼女のミッションは終了。「うちのお父さんもさ、銀行員でなんだか親近感なんだよね~。お客様を大事にしているから、知らず知らずのうちに私達もそんな親の姿を見て愛想がよくなったのかも!」なんて、笑いながら言ってくれる明るい友達でした。親が結婚しろってうるさいけど、私は一人がいいから気にしていないと公言していた彼女。楽観的に見えて、それでも実は繊細なことを知っていました。帰り道が一緒になると、私の腕を捕まえ、周りを見渡し誰もいないことを確認すると、その日に起こった弱音を吐いてくれて。仕事に対して一生懸命だから悩む、そして溜めないように出して、また笑って頑張る。そんな心の流れをいつも感じていました。だから、彼女との帰り道はいつもアリさんの速度。話しながら立ち止まり、そんなことがあったの!と盛り上がり、実はさ~と言って歩き出し、一体いつ駅に着くのやら。非常勤の先生達を裏側でサポートしてきた友達の話に嬉しくなった帰り道。こんな寄り道ならいくらでも付き合うよ。

ラガーマンのTさん。大学ラグビーの日程を聞くと、ラグビー場だけでなく、大学内のグラウンドで試合が行われることもあると教えてもらい、その時は伝えてくださいと話すととっても喜んでくれました。開催されるかは分からない、私も行けるかは分からない、でもそんな風に楽しみにしてくれて本当に嬉しいです、彼の表情がそう語ってくれていました。実はその大学は、私が一人暮らしの時、唯一学祭に行った場所でした。20代後半、秋の気持ちのいい天気の日に、訪れた大学キャンパス。華やかなチアリーディングのダンスを見て、露店を周り、そこで辿り着いた美術部の学生さんに似顔絵を描いてもらいました。「思ったよりも上手に描けなくて~。」と照れながら渡してくれた女子学生さん。あなたがかわいいから満足です、そう思いながら笑顔でお別れ。敷地が広く、緑が多いその学内は、出身大学を思い出し、堪らない気持ちになりました。そこで、もしかしたらTさんの部員たちが熱く試合をしてくれるかと思うと、それだけで胸がいっぱい。

司書教諭の通信教育の試験で二連敗をした後、頭を掠めた大学での試験。オンラインのテストだからハードルは上がる、都内の指定された大学の試験会場へ行けば、もう少しハードルは下がるのではないか。毎回試験の度に選択肢は用意されていました。大学の試験会場であれば、教員免許を持った先生達との交流ももしかしたらあるかもしれない、話さなくても仲間がいると感じられるだけで士気は上がるのではないか。弱気になっていたこともあり、沢山の事を考えました。丸一日テキストを開かずぼーっとして、一か月丸々サボってしまおうかなんて気持ちにもなり、モチベーションは下降の一途。それでも、大切にしていた自分のルーティンを変えたらいけないような気がして、オンライン試験を選択しました。結果は85点。トンネル抜けた!

そして、最後の試験の前夜、いつもお世話になっている近くの公共施設へ十時閉館までテキストを持って勉強をさせてもらうことに。耳栓をして、ルーズリーフに手書きでどの問題が出てもいいようにひたすら書きました。蛍光ペンと赤ペンを持ち、ポストイットを貼り、準備は万端。そして、事務室前のテーブルを片付け、スタッフさんに伝えました。「遅くまでありがとうございました。明日、最後の試験なんです。」すると、そこにいた男女合わせて4人の方皆さんが立ち、会釈しながら応援してくれました。「頑張ってくださいね。」その声が、どれだけ温かったことか。ずっとあなたの頑張りを見ていましたよ、こんな風に育児の最中に公共施設を利用して勉強してくださり、こちらの方こそありがとう、そんな気持ちが込められていました。あと1つ。

その後、試験に受かったことを伝えに行くと、皆さんが喜んでくれました。「あんなに頑張っていたんだもん、受からないとおかしいですよ。」その言葉をかけてくれたのは、待機児童になり次の目標を見つけた私を、励まし続けてくれた女性のスタッフさんでした。遠回りしてもいつも誰かがいてくれた、だからここまで歩いてこられた。ディスプレイの右上に試験用の秒針まで表示された時計があり、それを見ながら書き続けた50分の論文試験。今は、右下の小さな時計を気にしながら記事を書く日々。息子の帰宅に間に合わせなければ。
それでも、本当に伝えたいことを残しておく。どんな時も諦めない。