別の世界へ

フードコートへ息子と行き、広いソファ席が運よく空いていたので、二人で座りました。とても気に入っている宮城県のお米を使ったおにぎり屋さん。喜んで二人分のセットを注文し、呼ばれたので受け取りに行った後また席に戻りました。「・・・近いよ~。」「だってママのそばがいいもん!」これだけ広い空間なのだから、もっと離れましょうよと思っても、肘が当たりそうな近さにいる小6男子。沢山濃い時間を過ごしたから、いつ離れていっても大丈夫よと思いつつ、まだそんな気はない様子。息子は、過去よりも未来よりも“今”をいつも大事にしているようでこちらの方が学ばせてもらっていて。ありがとうね、少し先を行っているのはあなたの方なのかも。

母から、父の快復を知らせるメッセージが届きました。姉から状況は聞いていて安堵していたこと、母への労い、助っ人が必要な時は伝えてねと返信すると、また返事があって。『手術遅れている上に、酷い結果だったら、どうやって一人で先生からの話聞いて、耐えられるかしらと、呼ばれるまで不安で仕方がなかった。ちょうど、呼ばれる前にM(姉)が来て、一緒に話聞いてくれてホッとした。』と。手術日の朝、母の自立を応援したいと思った、不安の中にいるのは分かっていたのだけど、支えてばかりいるのはちょっと違うのだと。でも、ネネちゃんは行っていて、それは姉の関わり方だから私がどうこう言うことでもなくて、ただ母のメッセージを読んで、キャッチボールになっていないんだよなとやっぱり切なくなって。その時、マブダチK君が20年以上前に伝えてくれた言葉が映像と共に流れました。「誰がSの気持ち、分かるんだよ!」その想いにまた救われたようでした。深夜にK君から電話がよくかかってきていた学生の頃、何とも言えない辛い気持ちをできるだけ過去形で伝え、もう大丈夫という私をもどかしくも理解した彼から、今すぐ行くぞ!と言われ、こちらが部屋着でもお構いなしに車で迎えに来ました。助手席に乗ると、すでにすごい量のタバコを吸っていて。「吸い過ぎじゃない?」「うるせい。吸わないとやってられっかよ。Sは、みんなのことを考えて動こうとするけど、みんなは自分のことを考えて結局Sが辛い思いをする。そんな事ばっかじゃねえかよ。そんなSの姿沢山見てきたよ。でもお前は、家族のことを思うことをやめない。なんか俺、悔しいよ。」そう言って、実家から遠くの方までドライブ。沈黙があり、K君のタバコはモクモクで、流れゆく夜の景色が綺麗で、苦しさが遠のくような分解されるような、そんな彼の優しさで十分だなと思いました。「なあS、この先もきっと沢山のことで悩むと思うんだ。いろんなこと感じて、それでも表面では平気って言ってみたりさ。でも、俺のようにそんなSに気づいてお前の幸せを願うヤツにも出会っていくんだよ。俺にはお前の未来が見える。そう考えると、コイツ苦労は多いけど、やっぱり幸せなヤツだなとか、危なっかしいから心配にはなるけど、Sは大丈夫だって最後はそう思うんだよ。」20年以上たって、K君の言葉が私を救った。そして、きっと当たっていた。これが、私が得た強さの一つかもしれないなと改めて思った。その時感じた辛さを分かってくれる人が、世の中に一人いてくれた、いいとか悪いとか、善と悪ではなく、自分の物差しで計るのではなく、一般論でもなく、目の前にいる人の悲しみを深く感じてくれたこと、次の段階の話ではなく、ただ外に連れ出し分かるよって言ってくれたこと、それが前を向く原動力になっていたのかなと。タバコ臭かったスカイライン、車から見えた静かな夜の景色はずっと自分の中で流れています。

姉が、関空での仕事を退職し、カナダに旅立った後、留学先で知り合ったチャイニーズカナディアンの彼と付き合うことに。母と私が遊びに行くと、とても優しく接してくれました。その後、ネネちゃんが帰国した後も1か月間遊びに来てくれて。一生懸命日本語を覚えようとする姿に、姉への愛を感じました。カナダへ戻る時が近くなると、彼が聞いてくれて。「お母さんにプレゼントをしたいんだけど、何がいい?」と。髪の毛が長いからバレッタがいいんじゃないかと一緒に買い物へ行きました。そして、Sは何がいい?と。私はいいのと伝えると、後日私の運転で彼が助手席にいる時に伝えてくれて。「Mに聞いたんだよ。Sは何がほしいかなって。そうしたら、ガソリンだって言っていたから、今すぐガソリンスタンドへ行こう!」は?お姉ちゃん、私が物欲ないことを知っているからってガソリンって・・・と思いながらも、絶対に引かない感じだったので、仕方なく一番近くのスタンドへ。「ガソリン、満タンでお願いします。」私の代わりに彼が言ってくれて、本当に満タンにしてくれました。嬉しかったのだけど、もう帰国しちゃうし、せっかくならやっぱりもっと形に残るものをお願いすれば良かったかなとその時思って。それから、何十年も時が経ち、はっとなって。彼が入れてくれたガソリン、empty(空っぽ)になったことはたった一度もないし、これからもないんだなと。私がこれからも走り続けられるように、Sにとって大事な相棒で空間だから一緒にドライブできて嬉しかったとそこに沢山の気持ちを込めてくれていたことに、今になって気づきました。大事な燃料、ゼロになることはないよ、絶対に!
彼も、姉とK君のスカイラインに乗り、4人でラーメン屋さんへ。その後、伝えてきました。「S、K君じゃだめなのか?」と。「ベストフレンドだよ。」と答えると、微笑んでくれて。その言葉の意味を、一番深く理解してくれたのはもしかしたら彼だったのかもしれない。