旅行の前日、そろそろ一学期のテストを、勇気を出して見せてねと伝えると、ようやく目にすることができて。英語に関しては、大部分が空白な上に解答用紙まで無くしてしまったよう。ここにきて、さすがに現実逃避し過ぎでしょうと情けなくなってしまい、怒りの口調で色々言ってしまいました。それが逆効果だと分かっていても、入ってしまったスイッチはなかなか戻せそうになくて。おんぶにだっこ、どこまでも自力で立とうとしない母との生活を思い出し、自分の中に残ってしまっていることに気づき、それを息子に重ねてしまうのは良くないことだといろんな感情がこみ上げ、その日は最低限の会話をして荷造りを終えました。まだまだだなと反省しながら就寝、そんな夜を沢山越えてきたんだ。
そして翌朝、微妙な空気が流れていることを感じている息子は、こちらがパッキングした荷物を自分でしっかり確認していて、少し距離を取ることも悪いことではないのだと感じました。あなたの頑張りをゆっくりと応援しているよ、心の中でそっと届け家を出ることに。スーツケースをガラガラ引きながら駅に到着し、おにぎりを買って特急電車に乗りました。いろんなことを考え、まともに睡眠が取れなかった、だからなおさら言葉が出てこなくて。それでも、新宿駅に着き、せっかくなので息子のスマホで電車を背景に彼を撮ると、ようやく旅らしくなってきました。と同時に、忘れ物を思い出して。「お母さんね、カメラとビデオを忘れちゃったの。Rのスマホで撮ってね!」やっちまったなと思いながらも、まあなんとかなるだろうと待ち合わせの場所へ。今回は、私がずっと行きたかった埼玉の秩父温泉へ、息子が一人で大浴場へ入るのが寂しくないように、プログラマーのMさんに予定を合わせてもらい、改札で合流しました。母のこと、息子のこと、その他諸々それなりに参っている自覚はあったので、Mさんのサポートは本当に有難く、久しぶりに一息つけたようでした。その後、埼京線で池袋駅へ。中学3年の修学旅行で、班ごとに分かれた自由な観光の中、池袋サンシャインが最後のチェックポイントでした。訳が分からない程あらゆる電車があり、混乱しながらも各地を巡って、ようやく池袋に着いた夏の制服を着た自分がいて。サンシャインで、陸上部の顧問でもあり社会科教員の先生が待っていてくれて、その再会がとても嬉しかったことがまだ昨日のよう。今日は先生に会いたかった!とわーわーうるさい私に、いつもは会いたくないのかと笑う先生。そんなやりとりをみんなも笑ってくれて、大切なアルバムを思い出しました。そして、20代になった私は、大学図書館スタッフのみんなと池袋のデザートブッフェへ。その時々のきらめきが、なんだか懐かしくて。年を重ねるってやっぱりいいね。そんなことを思いながら、カフェに3人で寄った後、小さな駅弁を買い、楽しみにしていた特急電車ラビューに乗り込みました。佐賀の祖母の葬儀後、ひとりで乗った特急つばめ、その地域にある特急の心地良さが忘れられなくて、今度の息子との旅は特急にしようと決めました。光が沢山降り注ぐラビューに乗ると、異世界のようで、自分の中にある黒い塊がまたゆっくり小さな粒子になっていって。椅子をくるっとし、対面式になった後、ひとりだけ早弁で寝かせてもらいました。すっと寝落ちした電車内、安心感って大きいな。その後、起きると男子二人はお菓子を食べながら盛り上がっていて、秩父の山が見えてきました。そして、到着。近いようでなかなか行けなかった場所、感慨深いな。その後、バスに乗りホテルへ。息子と私は部屋へ、Mさんはお仕事用の部屋へ別れ、それぞれの時間が待っていました。昨日からのわだかまりは消え、卓球台も別室にあったので息子と本気の勝負。僅差でこちらが負けたものの、十分な練習相手になれることが分かり、驚かれました。元テニス部、コントロールや駆け引き、メンタル勝負にはそれなりの自信があるんじゃ!と教えることは盛りだくさんで、笑ってしまって。そして、Mさんが息子に英語を教えてくれる時間がやってきて、その間ひとりで温泉に入らせてもらいました。露天風呂に入ると、本当に来られたんだなとしみじみ思って。ゆっくり温泉に入るのはいつ以来だろう。それでも、早めに切り上げて部屋に戻ると、おとなしく問題を聞いている息子がいました。かわいい子には旅をさせよ、いつも心得ていることで。勇気を出してもっと冒険をしておいで、それが自信になり大きな経験にもなるから。その一歩目を過剰に怖がる息子、私にできることはなんだろうと考え続けることを止めないでいようと思います。
その日、お部屋に到着してすぐにテレビを点けると、横浜高校対県立岐阜商業高校の甲子園がやっていました。延長タイブレークに入ってもお互い譲らず、白熱した攻防戦に息子と釘付けになって。打たれても取り返す、そのひとつひとつのプレーに、絶対に諦めないその姿勢に胸が熱くなりました。試合終了のその時まで、繋いできた想いがある、だから心が動かされるんだろうな。学ぶことはあまりにも多くて。「ママ、温泉広くて気持ち良かった!」と嬉しそうに伝えてくれた息子。誰かがそばにいてくれる安心感、でも、ひとりが心地いいと思える時が来て、そして誰かを守りたいと思った時自分の強さに気づくのかな。「埼玉の秩父温泉に来られたね!山もいいね~。」と夜景を見ながらハイタッチ。その一瞬を、息子は大人になったどのタイミングで思い出すのだろう。カメラもビデオも忘れたけど、感動は胸の奥へ。苦しくなった時は取り出せるように、ブックマークをしておこうか。緩やかな旅は、次回へと続く。