当たりを引く

毎日シェアオフィスの1階にあるトイレへ行くと、よくお会いするお掃除の優しい女性の方。こちらが、一番左の蛇口で手を洗っていると声をかけてくれました。「そこの蛇口だけ水なんです~。真ん中と右の手洗い場はお湯が出るので、良かったらそちらを使ってくださいね。」「え~!私今までずっと左を使っていて、お湯が出ること知らなかったです。」ははっ。「寒い日に水で洗ったら手が冷たくなりますよっ。」と一緒に笑ってくれて。シェアオフィスに通い始めてかれこれ2年半、まさかずっと外れくじを引いていたなんてね。でも、オフィス内で沢山の友達ができたから、やっぱりプラスの勝ち。

恋愛と仕事と不動産は、縁とタイミングの問題。そう思いながら、ここまで来たのかな。永住予定だったマンションを出て、息子と引っ越すなんて購入した時は考えもしませんでした。そんな変化もとことん楽しもうと思っています。山があって谷があって、湖に辿り着いて・・・。夫と最後の話し合いをする日、睡眠不足が続いていたので、早めに帰宅した息子に短時間だけ寝かせてほしいとお願いをし、仮眠を取らせてもらいました。気が張っていたのでなかなか寝付けなかったものの、すっと眠りにつくとそこは湖でした。いたのは、まつげがくりんくりんの黄色で女の子のあひるでした。ほとんど止まった状態で、それでもほんの少し前に進んだような、ゆったりとした水面を噛み締めているかのような不思議な夢でした。そう、それは紛れもない自分の心の象徴。もうすぐ飛び立つ前の私がそこにいたのだと、起きた時に泣きそうになりました。10年という重み。それを最後に味わっていたのかもしれないなと。凪、その心境は隠さない自分と向き合えるいい時間なのだと思っています。

姉に電話を入れると、ピーンと張った糸がプツンと切れて泣いてしまいそうな自分がいるので、まだ連絡ができなくて。彼女はどんな時も、私が選んだ道を応援してくれました。だから今回も、よく頑張ったねって頭ぽんぽんされるのが分かるので、それを思うだけでうるうるしてきて、今だと思った時に連絡しようと思っています。今回夫と最後にやり合って、ふと思い出しました。これまでの人生の中で、私に本気で怒ってくれたのは姉が一番多かったなと。自分が、間違った思考パターンに陥りそうな時、いつもそれを正そうとしてくれたのは彼女でした。「Sは、お母さんの為に生きているの。自分の為に生きなきゃ。」この言葉を一体今まで、どれだけ心を痛めて伝えようとしてくれたかと思うと、こみ上げるものがありました。ピンチの時に怒ってくれる人って有難いなと。心療内科の先生とも相性がよく、私の繊細さを話すととても興味深い話をしてくれました。「繊細な方は世の中に沢山います。その中で生きづらさもあると思いますが、いろんな情報から自分の助けになるものを選び、カスタマイズしていくことで楽になったり、自分らしく生きられたりするのかなと思います。」この先生の捉え方って優しいな。司書教諭のテキストにもあった『情報を取捨選択する能力』。テレビや本、ネットや人から聞いたこと等々、情報過多の現代社会で、正しいと思った内容を取捨選択していくことの大切さを学びました。自分にとっていいと思ったものを、偏りなく吸収していくことでまた見えてくる景色も変わってくるのかなと毎日が学びの連続です。

まだ20代の頃、姉が誘ってくれた上海旅行で、色んな話をしました。海外に行き、日本にいる自分を思い出しながら、俯瞰してみる。「Sちんの幸せって何?」「綺麗な景色を見て、綺麗だなって思う時。そんな気持ちを隣で一緒に感じてくれたり、ほんわかとした幸せが嬉しいのかもしれないね。お父さんさ、どんどん出世して給与も上がったのに結局そのお金は彼女の為に使われた。だから、あまりお金というものが私は好きじゃないんだと思う。お金があったら好きなことが色々とできるよ。でもそこに囚われすぎず、もっと目の前にあるものを大切にしたいんだ。」そう話すと微笑んでくれました。妹の幸せって安いんだよね、それがSちんのいいところなんだろうな、そんな含みも込めながら。
飛行機代は、姉が貯めてくれていたマイレージから、五つ星ホテルは妹へのプレゼントで払ってくれました。セントレア空港に着き、さすがにやってもらい過ぎだと一万円と手紙を封筒に入れ、お礼と共に渡しました。その金額が妥当だったのかどうか未だに分からない、でも気持ちは十分過ぎるぐらい伝わったのか、姉が目に涙を溜めて伝えてくれました。「なんだか気を使わせちゃったね。S、頑張りなさい。また行こう!」姉との別れ際はいつも、ほんのり切なく、そっと優しく、力強い。姉が幼少の頃に生まれた妹、赤ちゃんだった私の手を重ねたネネちゃん。あまりにも尊い姉妹の絆はここから始まった。どちらもが、かけがえのない存在。