独自のルール

プログラマーのMさんと真面目な話をしていても、最終的に落ち着くのはやっぱり野球の話。甲子園には昔ラッキーゾーンというエリアがありホームランが出やすかったと二人で大盛り上がり。なんで取り外してしまったんだろうね、特別感があって好きだったと言いたいことを言って終了。野球の話題を出したらペナルティなんて言われたら、思いっきり無口になっていたかも。
そんな私はどうやって野球のルールを覚えていったのだろうとふと思い出してみると、ファミコンの『ファミリースタジアム』が頭を過り、なんだか懐かしくなりました。友達に男兄弟がいると、大体は持っていたので、借りることもしばしば。時にはお兄ちゃん、時には友達のお父さん、本当に色々な人に野球のルールを教えてもらったのだと一つ一つが優しい思い出です。

オーストラリアに短期留学をした時はさすがに野球から離れていただろうなと思っていたら、蘇ったのはすっかり忘れていた記憶。ホストパパが、同じフィリピンからの移民の家族と親しく、一緒に遊びに行くことになり、会いに行った時のこと。一人っ子の男の子がはにかみながら遊ぼうと誘ってくれて、小さな丸いボールでキャッチボールをすることに。父から教わっておいて良かった。その子のお父さんがその光景を見て微笑ましそうに伝えてくれました。「うちの子は遊び相手がいないから、こうやって遊んでもらえてとっても嬉しかったと思う。」と。私の下手な英語で会話をするよりも、何か一緒に遊べるスポーツを楽しんだ方が打ち解け合えることもある。野球はインターナショナルだよね。チェスをうまくかわせてこっそり安堵。小さなボール1個で繋がるよ。暴投で笑い転げられるよ。「Thank you.」と最後に握手をした時には、もうその言葉だけで十分でした。

そんな愛溢れるホストファミリーに出会ったのは小さな奇跡。予め決まっていたホストファミリーが親戚の都合で急遽変更に。こんなこともあるのだと冷静に受け止めたふりをして、私なりに動揺しました。それでも、飛行機に乗る頃には気持ちを切り替え、新しく変わった家族に期待と不安の入り混じった心境でブリスベン国際空港へ。かなりなまりのある陽気なドライバーのおじさんが、学校のバッジを付けた私を見つけてくれて、同じ学校へ行く日本人の仲間と相乗りをし、ホストファミリーの自宅まで送ってくれました。到着すると、こぼれそうな笑顔で迎えてくれたホストパパ。「Welcome!」そう言って手が折れそうなほど握手をしてくれた時、こんなにも温かく迎えてくれる家族がいるのだとそれだけでもう泣きそうでした。中に入ると、山のようなお菓子がテーブルに並べられ、家族皆で興味津々。「Why will you study English here?(なぜあなたはここで英語を学ぶつもりなの?)」大学図書館で留学生の方に沢山出会い、自分の語学力の無さを感じたから。異文化を知りたかった。日本を一度出たかった。きっとそんなことを練習してきた英語で目いっぱい話したような気がしています。それでも、本当に伝えたかった気持ちは、“あなた達のような家族に出会うため”。直前でホストファミリーが変わった、その理由がここにあった。神様のいたずらにあったんだよ、なんだかちょっと試されながらここに辿り着いた気がしました。多分ね、ものすごい確率で、出会ってくれたんだよね。そんな感動に毎日包まれながらの帰国。

「お姉ちゃん、私のホストパパね、同じ誕生日だったの。自分と同じ誕生日の人に初めて会ったよ。」「S、私ね、カナダに留学した時、そこの息子さんと同じ誕生日だったんだよ。そしてね、直前にホストファミリーが変わってその家になったの。全く同じ。」辛い思いを沢山してきて出会った家族。神様のいたずらではなく、神様からのご褒美だったんだね。その温もり、一緒に忘れないでいようね。言葉も文化も違う彼らにもらった愛情は、何があっても消えることはない。