発想の転換

春休みに入り、部屋の端に置かれた何かが匂うと気になったので開けてみると、息子の上履きでした。これはちょっとした害になるなと思い、大きな袋に入れて密閉すると彼が後から聞いてきて。「これ何?」「あなたの上履きです!匂うから袋に入れたんだよ。」「なんだ。危険物かと思った。」「お母さんからしてみたら、十分危険物だってば!」そう話すと一緒に大爆笑。靴下の匂いの正体はこれが原因だったのかとあっさり解は見つかり、賑やかに就寝しました。そして翌日、午後から友達と遊びに行くと言うので、息子に靴を洗ってもらおうかと思ったものの、思考がぐるぐる。コイツに洗わせたところで雑過ぎて汚れが落ちないのはいつものパターン、水に濡らし洗った感を出しただけで終了するのは目に見えていたので、伝えました。「Rの上履きと卓球用のシューズと学校用の靴、3足とも洗っておくから、何か他のことでお手伝いしてね。」「はーい!」と非常に喜んでいる模様。仕方がないのでバルコニーで葛藤しました。一番最後は強烈に汚れている上履きへ。ラスボス感が半端ないなと笑ってしまって。足のサイズまでどんどん大きくなっていく。6人家族だった実家の玄関は、少しずつ靴が減っていき、最後は祖父と母のものだけに。それを見て、わざと下駄箱からほとんど履かなくなった自分の靴を端っこに並べておきました。祖父は気づいてくれただろうか。

大学時代、同じ歴史専攻で教職課程を受けていた8歳上の男友達と親しくなったことがありました。と言っても、友達の友達で彼は西洋史だったので、そこまでの接点があった訳でもなくて。それでも会えば言葉を交わし、卒業してから少し経った頃一緒に飲まないかと連絡をもらい、初めて二人で会いました。すると伝えてくれて。「中学で社会科教員として働き始めてから、俺の周りでSちゃんが一番教員に向いていると思った。なぜ教壇に立たない?」と。「実習先の社会科の恩師にね、向き過ぎていて向いていないって言われたの。」素直に話すと飲みかけていたビールを吹き出しそうになり笑ってくれました。いい先生に出会ったんだなと。その先の会話を、今になって改めて思い出して。「どうして大学在学中じゃなくて、中学校で働き出してからそう思ってくれたの?」「生徒達、いろんな感情を持っていてとても揺れ動く時期なんだなって痛感した。隠すんだよ、いろんな気持ち。でも本当は気づいてほしいことあるんじゃないかなって。Sちゃんはそういうの見抜くだろ。本当はこう思っているんだっていう奥にあるものに気づいてもらう、そういう先生に出会えるかそうじゃないかって本音を話せない子にとって大きなことだと思ったんだよ。」マブダチK君と同じようなことを言うとその時少し驚いたのだけど、歳を重ねてもっと驚いたことがあって。K君とは高1からの友達でそれこそどれだけ語り合ったか分からないなと言うぐらい、長く一緒にいた。でも、教職課程で挨拶ぐらいしかしなかった彼は、どこで見抜いてきた?とあれこれ振り返ってみると、ひとつだけ思い当たったことがありました。道徳教育の講義だと。中学時代の不登校になった友達の話を教壇の上でした、彼女の本当の辛さのそばに私はいられただろうか、この感情を行間から読み取っていたんだろうなと。みんなの前で実際に言葉にした思いと、敢えて話さなかった思いがあった、それをひっくるめて彼は腕組みし、ほう!という表情でその時間そのものを受け止めてくれているようでした。彼女、嬉しかったと思うよ、そういう人が一人いてくれただけでまた歩く勇気がもらえたりするんじゃないかな。だから、教育現場に来ないかって俺から伝えたかったんだよ。大学在学中はいろんな意味で余裕がなさ過ぎて、友達とはあまり深く関わってこなかった、でもたった一回の講義で何かを感じ取ってくれた彼こそ、尊敬する社会科教員だと思いました。ふと知ることになり、教頭先生になっていることが分かって。一度だけ飲んだ日のことが蘇ってくる。喧騒とビールの匂いと、この人と同じ講義を受けられて良かったなと思えた時間がわっと駆け巡りました。教頭先生の椅子から、どんな景色が、どんな感情が見えているのだろう。戦争について、俺はまだそこまで深くは語れそうにない、でも経験や年を重ねた時、もう少し深みのある社会科教員になれたらと思う。軽く酔いながら語ってくれた彼、青春時代を胸に頑張れ教頭先生。そして、校長先生になって自分の心にあるものを全校生徒の前で届けてほしい。いつの日か、反省会にも付き合えたなら。いい教員人生だった、味わい深く話してくれるそんな表情が今から見えてくる。

息子が通知表を見せることに戸惑っていたので、様子を見てこちらから声をかけてみました。下がっていたのは、すでに表情から読み取れていたので小言は一切言わないでいようと決めていて。案の定、一つだけ下がっているのが分かり、伝えました。「3学期は学年評定だから、1学期の成績が響いてしまったのは仕方がないこと。お母さんの感想としては、1年生でいろんなことに気づけて良かったね。目標を持って進み始めようとしてくれている、その気持ちを大事にしてあげて。1年間頑張りました!」そう話すと、やや驚きながらも、本気で安堵しているのが分かりました。種はもう持っているんだよ、人に踏みつけられようが、強風が吹こうが、遅かろうが、咲いてやる!!このマインドを育てていきたい、あなたはあなたでいてほしい。一緒にお酒を飲めるようになった時、どのシーンが流れるのかな。心の中に降る桜は、増えているに違いない。