心地の良い波

手術後、ホルモン治療を始めた時は、ずーんと上から押さえつけられる辛さがあり、地下5階にいるような感覚がありました。そして、治療が終わると少し上がれたものの、女性ホルモンがあまり出ていない可能性からの更年期症状に悩まされ、乱高下する波に自分が翻弄されてしまいそうになる毎日。これは、私の症状であって息子には関係のないこと、だから辛さをできるだけ出さないようにと小さな波に抑えていた夏休み。ずっと一緒にいるので、さすがにエネルギーが必要だなと思っていた時に、短時間だけ姉と会うことができ、さらっと聞いてみました。「ネネちゃんって更年期の症状出てる?」「ああ、毎日イライラしているよ。もうキレキャラ決定!」そう言って笑ってくれるので、姉らしい表現に一緒に笑ってしまい、少し吹っ切れたようでした。それにしてもキレキャラって・・・。Sちん、もう少し肩の力抜きなよ。その方がR君も嬉しいんじゃない?二人なら大丈夫よ。そんなネネちゃんの心の声が聞こえてきました。どんな時も拠り所でいてくれてありがとう。

今年のお盆は、台風が近づいていたこともあり、住職さんがいらっしゃる日も両親宅へ向かいませんでした。おじいちゃんおばあちゃんごめんねと思いながら、心の中で手を合わせていて。毎年お盆が近づくと、名古屋の実家では祖父が盆提灯を出し、仏壇の前に用意する、そんな時間が好きでした。風に揺られ、ゆっくり回る、そこに亡くなった母の兄や祖母の魂を想い、祖父がその時間や空間をそっと感じている気がしました。そして、その隣にあるテレビには、夏の甲子園が流れ、8月6日、9日、そして15日の終戦記念日には特別な思いでいることを知っていました。祖父にとってのお盆は、亡くなった方との対話のようにも思えて。おじいちゃんから感じられる戦争の色は灰色なのに、盆提灯は綺麗な色をしていて、平和というものを噛み締めているかのような特別な時間でした。おじいちゃん、おばあちゃん、実は今第三次反抗期で、息子との仙台旅行前に振り回されたくなくて、お参りに行けなかったんだ。いろんなことを改めて思ったの。三世代の同居って難しかったけど、おじいちゃんやおばあちゃんから教わったことも多くて、二人からもらった愛情も大きくて、だからなんとかここまで来られたのかなって。そして、強い生命力を受け継いだ気がしています。おみやげを持って、改めて両親宅の仏壇に手を合わせると、祖父母がふと笑ってくれた気がしました。困った両親だけど、彼らの幸せを見届けてね。

まだ二十代の頃、姉が義兄と婚約し、彼のご両親ともご挨拶。義兄は二人兄弟の次男で男の子だけだったということもあり、姉だけでなく私のことも可愛がってくれました。そして時が経ち、姉夫婦が関東に仕事の関係で引っ越すことになり、たまたま私がご両親と三人で夕飯を食べに行くことに。老舗のお蕎麦屋さんで談笑し、本当に楽しい時間が流れました。自分達が築いてきた価値観がある、でもそれを私に押し付けることなく、こういった考え方もあって、Sちゃんが生まれ育ってきた環境の中で、自然体でいられる相手だといいねと。無理に合わせるのではなく、無理して合わせてもらうのでもなく、お互いが心地よくいられること、それが一番なのだと。義兄の大学の後輩であることや私が野球をやれることも知っていて、和やかな空気がそこにはありました。草野球の応援に姉と行った時は、ウォーミングアップのキャッチボールに誘ってくれて、グラウンドの端でやっていたら、彼女に間違えられて、妹の方だとMちゃん(義兄)が言うと、部員のみんなに茶化されましたと話すと、一緒に笑った時間。Sちゃんも幸せになってね、私達願っているよと食事の時に言ってもらい、なんだかぐっときました。コロナ禍に入り、世の中が大混乱の中、ご両親が他界され、本当はまだ私の中で整理ができていなくて。たった一度の夕飯のひとときを今でも大事に持っていると姉に話したら、泣かせてしまいそうなので、黙っておこうと思います。でもね、食事の後、ネネちゃんに伝えたら教えてくれて。「お義兄さんとMちゃんの間に、本当は女の子がいたの。でも流産されてね。だから、なおさら私やSちんのことを可愛がってくれるのかもしれないね。」私に伝えてくれたご両親の言葉は、娘さんに伝えようとした言葉ではなかったか、そう思いました。愛が深かった、だから私の心の奥深くに届きました。会食した時、不思議なものを感じたんだ、うまく言えないけどもっと前から出会っていたんじゃないかという近さのようなもの。ネネちゃんがお嫁に行った時、とてもしっくりきた、土が合ったという表現、改めて感じているよ。

祖父の葬儀の後、少し経ってから行った家族会議でのこと。両親の前で、母のお兄ちゃんのことや私達姉妹の下に男の子がいた話をすると、姉はもちろん、義兄がとても驚いた表情をしたことが分かりました。その時、自分の亡くなったお姉さんのことも思っただろうなと。少しぐらついていた波も、誰かの心と重なるとちょっと安定するところがあって、その波長に助けられることがあって、痛みも弱さも感じられる繊細さをひっくるめて大切にしたいと思いました。義兄と姉の婚約のお祝いにご両親からプレゼントされたティファニーのネックレス、力をもらい、優しさを返そう。届くかもしれない。