時がゆっくり流れて

夏休みも終わり、8月最後の週末、息子が友達と遊びに行かないことが分かり、伝えてきました。「今日、鬼滅の刃の映画を観に行きたい。」と。夏休み前、もしお友達に誘われることがあったら、お母さんのことはいいからそちらを優先してねと言ったことがあって。「どうして?ママも観たいでしょ。」「そうだけど、友達との関係を大事にしてほしいよ。お母さんは二の次。」その言葉をどう受け取ったのか、彼の中でいろんな気持ちが巡ったよう。自分の世界を広げて行けっていうことでしょ、それでもママと過ごす時間も楽しいよ、ボクにはどちらも大切。表情から息子の心の声が聞こえてきて、それを敢えて言葉にしなかったこともまた意味があるのかなと思いました。沢山勉強の壁にぶつかった夏休み、結局友達とは映画に行かず、最後の締めくくりにお互い頑張ったご褒美として鑑賞することに。『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』、息子といろんな気持ちがこみ上げ、善逸のキーホルダーを二つ購入し、余韻と共に帰ってきました。やっぱり二人で行けて良かった。

そしてふと、姉から何度も言われたことを思い出しました。「私がいなかった実家での間、Sちんはこちらが思っているよりもずっと大変な思いをしてきた。誰にも話せないこと、まだ沢山あると思う。本当は実家を出て行きたかった大学もあったし、大学院も家族のことで諦めた。なんか、私まだ悔しくて。妹はまだまだやりたいこと一杯あって、違う環境にいたらもっと伸び伸びいられたんじゃないかなって。でもSは、両親のこともおじいちゃんのことも何一つ恨んでいなくて、感謝してる。なんで?」なんで?!この手の質問は、いろんな人にされてきたんだよなと改めて思いました。私の思考パターンはどうなっているのだと。きっと至ってシンプルなんだよ。
夏休み中に、息子と実家へ行くと、父が中学校生活を質問してきました。すると、「疲れている。」と彼がひと言。それを聞いた父は、「中学生で何が疲れてるだ!」と笑っていて。その会話を聞き、この人は本当に何も分かっていないなと思いました。大人になって社会で揉まれたらもっと大変なことはある、それはそうだろう、でもそれは父の視点だよなと。頭痛持ちで思うように睡眠が取れず苦戦する夜もある、集団生活でいろんな刺激の中、その流れに乗ろうと必死に頑張っている息子を知っている、その視点で会話ができなければそれ以上心は開かないだろうなと。子供の時から父親としてはそういう人、でも、こちらが本気で一対一で向き合えば父の一番奥に届くことも知っていました。一番最後は親と子ではなく、人対人、ここ一番で伝わった気持ちがある、それを信頼と呼ぶのだろうか。
随分前、9.11同時多発テロの後、カナダに留学していた姉の所へ母と向かうことになった時、国内線にまで影響が及び、成田空港までは自力で向かってとネネちゃんに言われ、車の旅をしていたマブダチK君にお願いしたという話は何度も書かせてもらったこと。彼のおかげで成田空港には無事到着し、帰りも何かあればすぐに連絡しろと言われ、笑顔でバイバイしました。その後、帰りの便にまで影響は続き、バンクーバー発の飛行機は機内点検でどんどん出発が遅れ、成田に着いた時には名古屋空港行きの便は飛び立ってしまっていました。すると、母は大混乱。姉のファインプレーで祖父には連絡がついたものの、自分達はどうしたらいいんだと睡眠不調もあって八つ当たりしてきて。そして、言われました。「送ってくれた時、K君がいつでも連絡してって言っていたじゃない!帰りも迎えに来てもらえばいいじゃない!交通費は出すから。」いやいやそういうことじゃないんだよな。大学を中退して車の旅に出た、後ろめたさは半端じゃなかったはず、それでも一旦地元に戻り、私達を成田空港まで送ってくれた。見慣れた景色の中で、彼の胸が痛くなかった訳がない。全然知らない土地で、ひとりになって安らいでくれたらと思った、とてもじゃないけどもう一度お願いする気にはなれなくて。お金じゃないんだよ、お母さん。人にはいろんな事情も思いもある、上がってくる言葉が全てじゃない、そのことをどう伝えたらいいんだろうね。結局空港近くのホテルに一泊し、翌日名古屋行きのフライトへ。いろんなことを考えさせられた、初の海外旅行でした。美しさも切なさもほろ苦さも、そして優しさも全部。
何週間後だったか、地元にふらっと帰ってきたK君に再会。お礼とお土産と共に帰りも苦戦した話をすると、案の定、どうして俺に連絡しなかった?と聞いてきました。でも、彼はすでにその答えを持ち合わせていて。コイツは俺のことを気にかけたのだろうと。「S、そんなに人のことを考えていたら、苦しくないか?」こんなにど真ん中に投げてくるのはきっとK君だけ。「Sには何が見えているんだろうな。気づかなくてもいいことに気づいてしまうから、誰かの荷物までお前が背負っていたりするんだよ。でもSは自分が抱えているものを自分でなんとかしようとする。なんか違わないか?」そう言われた時も、言葉が出てこなかった気がしていて。でもね、嬉しかったんだよ。そんな風に、真横にいようとする人にいっぱい助けられてきた、そういう方達への感謝がいつも自分を明るい方へと動かしてくれている。

大学費用は、父が若い彼女に貢ぎ、支払いが滞った。父は出て行き、祖父には中退してくれと言われ、母は常に不安定な状態。それでも、ぎりぎりの所で父が払ってくれて、貯めたバイト代はそのままに。そして、結婚式の当日、実はお父さんが出してくれた学費、少し足りなくておじいちゃんがその分を出してくれていた、Sが気にするから今まで黙ってたと母が話してくれました。彼らが本当はあたたかい人達であることを、きっと誰よりも私が知っている。それでも、この話をしたら姉はまた別の角度から心を痛めるような気がして、まだ伝えられていなくて。何をどう話しても、Sちんの青春時代は一度きりだったんだよ!とブチ切れてくれるのが分かっていて、それも愛で、だからその柔らかさに包まれ、だから毎日を精一杯生きたいと思っています。思いの丈をここに残し、また前へ。秋はまだ来ないけど、時間は今日もやさしく流れていく。もう一度大学のキャンパスを学生として歩けた時、ネネちゃんの痛みは和らいでくれるのかもしれない。