大学4年の卒業間近、父はすでに自宅を出ていて、姉はカナダの留学を終え、名古屋に就職を決めて、4人で少しだけ落ち着きを取り戻した生活を送っていました。
それでも、私の中で、父に卒業を祝ってもらえないことが少しだけ切なく、袴を試着しても心から笑うことはできなくて。
卒業式当日、美容院で髪の毛をセットしてもらい着付けもし、母に大学まで車で送ってもらいました。生憎の雨、袴も髪の毛も濡れるし、全然気持ちがついていきませんでした。
友達や恩師と記念撮影をし、違う大学で仲良くなった男友達が、車で迎えに来てくれていて。理系の大学で、サバサバしたタイプだったのに、小さな花を用意し、待ってくれていた姿を見て、「似合わないよ~。」と2人で笑い合った時に、少しだけ気持ちが解れていました。
他大学だったから、なおさら話しやすいところもあり、父が別の所に住んでいることを彼は知っていて。関西出身でいつもは笑わせてくれるのに、その日は私の異変に気付いて伝えてくれました。
「本当は親父さんに会いたいんと違うか。」なんだか沁みた。超楽観的な友達だったから、楽に接することができていたのに、このタイミングでそんなことを言われるとは思わず、車の中で素直に頷き、父のいる支店の銀行へ。
すると、時間はすでに3時を回り、シャッターが閉まっていました。「もういいよ。」と小さく言うと、夜まで付き合うと言ってくれて、そのまま名古屋駅でお茶をすることに。
「以前、お父さんに会いに行ったら、女の人に遭遇した時があったから、マンションの下で待ってるよ。」と正直に話すと、「分かった。何時まででも付き合うから。今日会わないと一生後悔するぞ。」そう言われて、泣きそうになりました。
それから、父の帰りそうな時間を狙って、マンション下の駐車場で待ち伏せ。バス停からスーツを着た男性が一人。父でした。袴姿で対面すると、驚いていて。
「お父さん、今日卒業することができました。色々あったけど、学費を出してくれたこと、本当に感謝してるよ。今までありがとう。」泣きながらそう言うと、目を潤ませながら伝えてくれました。
「昨日メールをもらって、Sが今日卒業式だと分かって、銀行の皆に自慢したんだよ。どうしようもない父親なのに、優しい子なんだ。その娘が今日大学を卒業するんだよ。そう言えて嬉しかった。よくここまで頑張ったな。卒業おめでとう。もう行け。」
目を真っ赤にした父は、泣き顔を見られたくなかったのか、私に行くよう促しました。立派な社会人になれ、もう俺の心配はいいから、自分の道を行けと言われているようでした。
友達の車に乗り込み、お礼を伝え、自宅に送り届けてもらうと、祖父は寝ていたのですが、母や姉はカメラを持って待っていてくれて。目を腫らして帰宅したので、私が父にこっそり会いに行ったことは薄々気づいていて、気づかないふりをしてくれました。
友達がカメラマンをやってくれて、私を真ん中に女3人でパシャリ。ようやく卒業できた瞬間でした。
袴姿の女子大生を見る度、父と泣きながら会えたあの時間を思い出し、涙が溢れそうになります。
卒業おめでとう。あの頃の自分にも、これから未来を切り拓く学生さん達にも。