余韻の中に

ようやく学校が始まった日、まだ半日授業だった息子は慌ただしく帰宅し、すごいスピードで友達と遊びに行ってくれました。今年の夏休みは、想像以上にパソコンに向かう時間が取れず苦戦。そんな時、久しぶりにプールの約束をして出かけた息子が残念そうに帰ってきました。「今日ね、行ったら大会をやっていて入れなかったんだよ~。」「あらあら、それは残念。また行けるといいね!」「うん。だから他の日にまた約束してきたよ。」と教えてくれた日にちを見て大慌て。その日は都合が悪く、きちんと伝えておけば良かったなと本気の反省。事情が分かった息子はがっかりしたものの、意外と切り替えが早く理解してくれました。「待ち合わせをしたのはD君達だよね。お母さんには行けなくてごめんねという連絡と、だめ元で次の日は空いているから良かったらまた遊んでねと伝えておくね。」と話し、その会話は終了しました。すると、D君のお母さんから返信が。他のみんなとは予定通りの日程でプールに行くけど、次の日も息子と二人でプールに行ってくれるとのこと。きっと彼は、プールの前で本気でがっかりしていた姿を見ていて、二日連続になっても一緒に行ってくれようとしているんだなと。そのことを息子に伝えると大喜び。「D君はRに深い優しさを向けてくれた。だから、今度は何かあった時、RがD君に返してあげて。プールで会ったらありがとうと伝えてね。」そう話すと微笑みながら返事をしてくれて。そして、お母さんにもお礼のメッセージを送ると、『こちらこそだよ。遊んでもらえて嬉しいです。』と花柄の絵文字と共にあたたかい返事をもらいました。二人に感謝、このご縁を大切にしよう。

そんな友達の助けもあり、なんとか乗り切った長期連休。やれやれだと思っていた夕方、ピンポーンと音が鳴りました。ん?この時間に誰だと思い、ディスプレイを見てみると、何やら怪しい人影が・・・と思っていたらお父さん!慌ててドアを開けると、おう!といういつもの挨拶が。相変わらず唐突なんだよなと思いながらも、ストレスがないのはあっさり去って行くのを知っているから。「どうしたの?」「これ、Rに渡しておいて。」そう言われ、手渡されたのはクオカード。なんだかどこまでも父らしいなと笑ってしまいました。やることなすことがさりげない。「ありがとう。あ、お父さんこれおみやげ。Rと大阪旅行に行ってきたの。」「今から買い物に行くから、また今度取りに来る。」「え~、今日持って帰ってよ。」かごなしの自転車でふらっと来たのは分かるけど、持って帰りなさいよ!という心の声が聞こえたのか、なんとなく受け取ってくれて。「お父さん、体の方はどう?もうすぐ手術だよね。」「どうもなっとらん。」そんな訳ないやろ!と思いつつも、その返事には心配するなという気持ちが込められていることも分かっていて、別れ際にはおみやげを軽く掲げ、サンキュと小さく言って本当にあっさり帰っていきました。どこまでも父は父なんだよなと。今回の大阪旅行は、父の前立腺がんの手術の日程と思いっきり重なってしまいました。何事もありませんようにと祈っていると、手術の日程が病院の都合で3週間後にずれたと母が連絡をくれて。不思議なものだな、そう思いました。母のお兄ちゃん、生後一週間で亡くなった伯父さんは、養子に入ってくれた父のことをずっと守ってきてくれたのではないか、最近特にそう思うようになって。ネネちゃんがよく言っていた“お父さんは強運の持ち主”という言葉は、そこにも繋がっていくのかなと感じるようになりました。別居していても、祖父の葬儀で立派に喪主を務め、参列してくれた方達に敬意をもって頭を下げ続けた父の姿を、伯父さんは見届けてくれていただろうなと。本当は自分の役目だった、俺の代わりにありがとうと、その気持ちが父をどこかで守ってくれているような気がしています。

随分と時が経ち、まだ別居中で、姉はどうでもいいと思っている中、私が両親のことを諦めていない実情を呆れながらもその理由を聞いてくれました。「うちの両親がどうなろうと勝手にすればと思っているのだけど、Sちんはそうじゃない。どうして?」「お父さんもお母さんも、スタートラインにも立っていないんだよ。養子に入ったとか、養子娘だったとか、二世帯で住んでいたことがいつも先に言い訳としてくる。でも、岐阜の社宅で核家族として生活した時も結局うまくいかなかった。ネネちゃんも私も、勝手に育ったところがあって、きっと子育ての悩みとかそれこそあまり経験しないまま時が過ぎて、本当に彼らは二人で真剣に向き合ってきたことがあるのかなって。別れるとしたらその後じゃない?とりあえずやってみなさいよって思うから。最後は二人で考えろって、その時に見えて来るものきっとあると思う。それでもだめなら私も諦めるよ、でもあの二人は別れを選ばない、そんな気がしているよ。」そこまで話すと、姉はふっと笑いながら伝えてくれました。「Sちんの言う通りになるだろうね。Sが両親と旅行に行く姿が見えたよ。あの二人、今までどれだけ助けられてきたか、もっと考えた方がいいね。ここまで思ってくれる娘がいるんだよ、それってすごい幸せなこと。Sちんが思い描く未来になっていくよ、あの二人は大丈夫。喧嘩しながらもやっていくでしょう。だから、もう自分のことを考えてもいいんだよ。」何度も渡してくれた卒業証書。今が第三次反抗期だと姉が知ったら、安心してくれるだろうか。それでもSは、いざとなったら両親の所へ向かう、そんな妹を知っているよ。もう言葉はいらない、それぐらい姉とは心を通わせてきた。

USJの中で、息子が最後におみやげを買う列に並んでいると、急にほしいものが頭に浮かび、少し店内を探してみることに。すると、彼が購入していたはてなブロックの中に1UPきのこが入っていることを思い出して。それがあれば元気になれる、そう思いました。そして、息子がルイージのぬいぐるみを握りしめていたら、ネネちゃんと散々やっていたスーパーマリオが蘇ってきました。いつも姉はマリオ、私はルイージで果敢に攻めていくネネちゃんの動きをいつも目で追っていて。そんな姉妹が今は小学生のお母さんか。父は、今何を思うだろう。振り返った時、いい人生だったと言ってくれるだろうか。「銀行員になって良かった?」この質問をいつか投げかけてみよう。大変だったけど同期や仲間に助けられた、父が言いそうなこと。答えはもっと先の未来で聞くことにする。