ほんの数分

この間、マンションの断水が掲示されていたので、その時間帯は図書館に行こうと息子と約束。当日になり、かなり暑い日だったのですが、バタバタしながら玄関前にあった自転車を引っ張り、エレベーター前まで行くと、息子がガーンという顔をこちらに向けてきました。「ママ、エレベーターが止まっているよ!」なぬっ!!慌てて確認に行くと、表示が消え、全く反応していなかったので、やむを得ず歩いて階段を降りることに。ぶつくさ言っている6歳児を無視してエントランスの掲示を再度見てみると、『断水・停電』の文字が。やっちまった。停電も一緒に書いてあったのね。仕方がないので、そのまま15分程の距離を歩き、汗だくのまま図書館へ向かいました。

館内は快適。頑張って来て良かったと思っていたのも束の間、一緒に本を探そうと言われ、重たい絵本を何冊も抱えることになり、腹が立っていたら伝えてくれました。「この本ね、年長のY先生が読んでくれたよ。あっ、この本もそう。これもだ。」中身を読まなくても、表紙を見ただけで、インプットされていた記憶が一気に蘇ったよう。嬉しそうにしている息子の表情を見て、私も嬉しくなりました。こんな風に、優しい思い出が届く。先生、今どうしているだろう。同じように、目を輝かせた園児達相手に、柔らかい声で読み聞かせているのかな。そんな感傷に浸っていたら、「『ぐりとぐら』の他の本が読みたい!」と騒ぎ出したので、検索をかけてみました。すると、思うように見つからず、二人で騒ぎながらカウンターにいた司書の男性の方に聞いてみると、一部始終聞こえていたらしく、半笑いしながら教えてくれました。「ちょうどカウンターにあったので、こちらはどうですか?」と。「病院で見たものでも、ママが好きなカフェで見たものでもないけど、これにする~。」と選んだのは、『ぐりとぐらのおきゃくさま』(中川利枝子作、福音館書店)でした。この親子、相当な通だなと思われたのか、司書の方が微笑ましく渡してくれて、なかなかいい時間でした。あと少し遅かったら書庫に行ってしまっていたかも。本とのそんな出会いも大切にね。

どっさり雪が降った数年前、エレベーターで相乗りしたのは、小学3年生ぐらいの男の子でした。サンタクロースのように大きな袋を抱えていたので、気になって見てみたら、中に入っていたのは雪!思わず笑いながら聞いてしまいました。「これ、どうするの?」と。すると、ちょっと照れながら、「バルコニーで雪だるまを作ろうと思って。」と話してくれて。「頑張ってね!でも、風邪に気を付けてね。」と笑ってバイバイ。男の子の発想って面白いなと思っていたその数年後、ひょろっとしたメガネの似合う男子中学生とすれ違い、何メートルか歩いた後、まだ少年だった雪だるま君が彼と見事に重なり、胸が熱くなりました。あんなに可愛かった男の子が、こんなにもメガネの似合う好青年になるなんて。時の流れは、本当に早いですね。それでも、たった一瞬の優しい時間を連れて来てくれます。あと3分早ければね、雪を詰めた可愛らしいサンタには会えなかったよ。

K君が大学中退を考えていた頃、思いがけないことを聞いてきました。「もしSが俺の母親だったら、どんな言葉をかける?」「せっかく入学できたんだから、できれば卒業してほしい。そんな本音を言ってしまうと思う。」「お前から、そんなありきたりの返事は聞きたくなかったよ。」「そうだよね。言いたいことは分かる。でも、友達としてならはっきり言えるよ。とことん考えて出した答えなら、正解だと思う。その答えはK君しか分からないけど、選んだ人生なら全力で応援するよ。それだけは何があっても言える。」そう伝えると、ふっと微笑んでくれました。
高校入学前のクラス分け試験の時、選択音楽ではなく、なぜ私は選択書道を選んだのだろう。数分迷って選んだ道。そのクラスに字のうまい彼がいた。選択音楽のクラスであれば、一生の友達には出会っていない。