懐かしい記憶

春休み中、息子と一緒にいたら、女性の60代の管理人さんに会い、無事に幼稚園を卒園できたことを伝えると、優しく微笑みながら伝えてくれました。「もうそんな年になったのね。あなたと仲良くなった時に息子さんが幼稚園に入ったと聞いたから、私もここにきて3年になるのね。」どんなに急いでいても、雑談が大好きな管理人さんは声をかけてくれて、なんでもない日常を聞いてくれていました。
母が近くに居ても、頼られることはあっても頼ることはできない存在。帰られる実家はないのだと思うようにしています。それでも、“卑屈にはならない”これが自分の目標。人は人、自分は自分、色々な家庭の形がある、それを子供の頃から受け入れてきた。それでも、ふと周りが羨ましくなる時があって、そんな時に声をかけてくれる管理人さんの人柄に救われていました。

ある日、息子と自宅のドアを出て遊びに行こうとすると、ママチャリのかごにハトが一匹。思わず二人で二度見。んっ?えっ?!「ママのかごに巣を作っているよ!」と騒ぎ出した6歳児。よく見ると、木の枝を集めて丸くなった状態の所に、ハトがちょこんと座っていました。いやいや、洒落にならないよと思いつつ、二人で混乱していると、あまりにうるさかったのか、ハトが飛んでいき、その隙に木の枝を回収。漫画みたいな光景に笑えてくるわ、腹が立つわで大騒動。我が家は6階で自転車を置けるアルコーブがあるので、そこに止めていたら、まさかの展開が待っていたわけです。テンション高めの息子と1階に降り、管理人さんに会い、訳の分からない彼の説明を笑いながら聞いてくれた後、伝えてくれました。「実は、胸にしこりが見つかってこの間検査に行ったの。30年も受けていなかったから、行かないとダメね。」そう笑いながら話してくれて、私の方が不安になり、ぐっと堪えてその日はバイバイ。

後日、野球チームへお迎えに行く時、また再会し、明るい笑顔で伝えてくれて。「朝、息子さんがユニフォームを着ている姿が見えて、その姿が可愛らしくて嬉しくなっちゃったわ。大きくなったのね。そうそう、やっぱり乳がんだったの。全摘出に決まったわ。もう若くないから、全部取っちゃってくださいって先生に言ったの。」そう笑いながら話してくれて、胸が張り裂けそうでした。明るい笑顔で心配をかけまいと伝えてくれた気持ちも、全摘出という事実も。そして、もし私が同じ立場なら、こんな風に絶対笑って言えないし、この強いハートに、今まで助けられてきたのだとも。「どうか、ゆっくり休みを取って、手術を受けてきてくださいね。転移していないことを祈っています。無理はしてほしくないけど、落ち着いたら、元気に戻ってきてください。」管理人さんに負けない笑顔で伝えると、ありがとうと言って、いつものように見送ってくれました。

その強さが、なんだかK君のお母さんと重なって。大学時代、ふとおばさんと話したくなり、家に遊びに行くとK君は不在。すると、「あの子が、大学を中退したいと言ってきたから、Sちゃんからちょっと話してみてもらえる?こんなことをお願いしちゃってごめんね。」大丈夫、そっと話を聞いてみると約束し、その日はお別れ。後日、本人に会い、説得を試みたものの思いがけない返事。「俺達の高校ってさ、進学が当たり前でなんとなく勉強して進路が決まって、大学に受かったけど、自分を持っていないまま入ったらしんどかった。決められたレールの上を乗っていただけのような気がしたんだよ。受かって贅沢言ったらいけないのかもしれないけど、そこにいたら自分を見失いそうな気がするんだ。」「後悔しない?」と私。「後悔しそうな選択なら、口にしていないよ。大学って、お前みたいな人が行くところだと思う。」彼の意志の固さにそれ以上は何も言えず、後でおばさんに伝えに行きました。「あなたには本心を話すと思っていた。あの子の気持ち、聞いてくれてありがとうね。Sちゃんが話してくれてダメなら、私も諦めた!」そう笑ってくれたおばさんの顔が晴れやかで。親って、きっとこういうもの。自分の理想を押し付けるのではなく、尊重し、応援する。

K君がいつの日か、子育てに悩んで泣きついてきたら、この時のことを伝えよう。しょうがないわねって笑いながら、そっと背中を見送る愛を。