息子がキャンプからへとへとで帰ってきて、お互いほっと一息。「疲れた~。」と連発していたものの充実感のある表情を見せてくれたので、嬉しくなりました。が、山の中で寒かったらしく風邪をややぶり返してしまったよう。「明日の朝練はお休みする?」「行きたい!ボク、部活の為に中学校へ行っているんだよ。」結構な心意気で、ちょっと笑ってしまいました。私も、部活と社会科の授業の為に中学へ行っていたことが懐かしくなって。すると、思い出したかのように息子が伝えてくれました。「そういえば、合宿に行く前の給食セットの中に、ランチョンマットじゃなくて靴下が入っていたんだよ。ボク、冗談かと思った!」とまさかのクレーム。「ごめんね。お母さん、Rが持って帰ってきた給食セットを開けたら靴下が入っていたから、なんでこんな所に入れるのよ~って最初は思ったんだけど、よくよく考えたらお母さんが間違えていた!」「間違え過ぎでしょ!」これはもう一緒に笑っておこう。「いやあ、言い訳にしかならないんだけど、男の子のアイテムって青系が多くて、うっかりしてしまったの。これからは疑ってかかってね。」とわいわい。何はともあれ、何事もなく大事なイベントに参加できて良かった。お母さんね、いろんな時の旅に出ていたよ。一人になったら急に音が減った、賑やかな毎日に包まれていたんだなと改めて思った淡く優しい時間でした。息子の寝顔に微笑んでみる。あと何日あなたと過ごすのだろう。
週末は、風邪の症状を落ち着かせるために在宅していたものの、サイクリングに行きたいと言われ、天気も良かったので思い切って遠くの公園まで行ってきました。フリスビーを楽しみ、気持ちのいい運動をして帰宅。週が明けて元気に学校へ行ってくれたので、久しぶりに美容院へ行くことにしました。すると、前回と同じおしゃれな男性美容師さんで、ばっさりと髪の毛を切りたいと話すと、一緒にスタイリングを考えてくれました。なんかね、自分の中にある石の塊が少しでも軽くなるといいなと願って。カラーリングの後、バサバサ切ってもらっている鏡を見ていたら、急に大学時代の居酒屋でのことが蘇ってきました。それは、マブダチK君と子供の頃にお父さんを自殺で亡くした友達のY、女友達の二人、みんな高校一年の時に同じクラスだったので、プチ同窓会のような日の出来事でした。モスコミュールとファジーネーブル、カシスオレンジが好きで、気心知れていたので気持ちよく飲んで盛り上がっていた中、お酒が自分を緩ませてくれたのか最近あった悲しい事件を聞いてもらうことに。母が、私の郵便物である銀行からの残高通知を開けて見ていたことがかなりショックだったと。父が家を出て行き、母と祖父と三人暮らしをしていることはそこにいるみんなは知っていました。本当は大学どころじゃないということも。それでも、なんとか卒業できるようにとバイトの予定を入れられるだけ入れ、その合間に彼らは気分転換になるならと誘ってくれた訳で、そんな時に母が私のお金を当てにしていたのかなと、情けなくなった気持ちを素直に話すと、あまりにも柔らかい時間が流れて。K君の目は相変わらず鋭くなり、Yは下を向き言葉を探してくれているのが分かり、女友達の一人はSの気持ち全然分かっていないよねと言ってくれて、もう一人の友達はよく話してくれたねと。「みんな、高校の時からSが家族のことで辛い思いをしているの、薄々気づいていてさ。でも、言いたくないことあるよねって、Sは随分前から大人のようでなんの力にもなれないなってみんなどこかで思っていたんだよ。でも絶対に苦しいよねって。おばさん、どうしてもSに頼ってしまうから銀行からの手紙、開けられたのはかなりショックだったと思う。お酒、3杯までしか飲めないって言っていたけど、たまには記憶無くなるまで飲んだ方がいいって。ちゃんとしていないS、私達大歓迎だから。今日は飲もうよ!」と友達が言ってくれると、みんなそうだそうだと盛り上がり、4杯目が頼まれていました。半分ぐらい飲んだところで、やっぱり無理~と断念しても、もちろんみんな分かってくれていて。Sにはもっと緩和が必要だよ、その気持ちはもらった。その後、女子三人でトイレに行くと、いつもなら慎重に置くバッグを雑に置いてしまった反動でチャックをしていなかったこともあり、携帯電話だけがチャポンと落ちてしまいました。あ~!人脈が~!と騒ぐ私に友達も大慌て。事情を話すと、笑いながらエアドライヤーで乾かしてくれて、それでも電源は全く入らずかなり凹んで男子と合流すると、女友達がひと言。「Sの携帯が水没しちゃったから、新しい携帯になったらすぐにみんな電話して。私達とは途切れないから大丈夫だよ!」とお酒が入りハイテンションな友達を見て、K君がニヤリとこちらを向いてアイコンタクトを送ってくるのが分かりました。な、お前の心配をしているのは俺だけじゃないぞ。なんか悔しいけどありがとうしかないな、そう思いました。母は元々銀行員だった、手紙に書かれた『親展』の意味ぐらい分かるでしょうよと思った。そして、勝手に開封しないでほしいと言ったら、何がいけないんだと逆切れされたような気もする。その頃の母に、何を言っても話が通じず、ただただすり減るだけで、それでもそんな私に安らぎの場を用意し、心を痛め、一緒に笑ってくれたその時間が、この歳になりどれだけ大きなことだったのか改めて気づくことができました。4杯目は何を飲んでいたのだろう、彼らの優しさの味がした。
ふと現実に戻ると、顎ラインまで切った自分がいました。そして、美容師さんになぜこの道を選んだのか聞いてみたくなって質問することに。「僕、高校を卒業したらパンを作りたくて、パンの会社とファーストフードのお店二社受けたんです。そうしたらファーストフードのお店ですぐ採用になって、気が付いたらダスターで机を拭いていました。で、髪の毛も染めたいし、手に職つけたいなって思って美容師の専門学校に行こうと思ったんです。二年働いてそのことを伝えると、人が足りないから今は辞めないでって言われてまた一年働きました。でも、専門学校の子達と三年以上離れるの嫌だなって思って、そこで分かってもらいました。僕、本当は女性と話すのが苦手だったんですけど、ファーストフード店で大分慣れました。美容師も、器用じゃないと無理だなと専門学校の時は思っていたんですけど、なんとかここまで来られました。」「会社のことを考えて、専門学校へ行くタイミングを一年延ばした、なかなかできることじゃないですよ。誠実だし律儀な方なんだなって。」そう伝えると、嬉しそうに微笑んでくれました。人が歩く道にはいろんな理由があって、いろんな背景があって、それが時に滲み出るんだろうな。今ではトップスタイリストさん、その謙虚さも含めて素敵だ。お互いが1UPして笑ってお別れしました。外は雨なのに、笑顔になれるのはハートが晴れたから。虹がかかるよ、その一瞬を胸に抱こうよ。