秋が深まり、段々と寒くなってきたここ最近、ふと年明けの冬休みを思い出しました。その日は、息子と広い公園へ行き、サッカーをしていた時のこと。周りにはお父さん達もいて、それでもできるだけ気にしないように盛り上がっていた最中、こちらがキックしたボールがふわっと上がったかと思うと、お散歩中だったブルドッグ君がいい感じでヘディングして混ざってきてくれたので、みんなで爆笑してしまって。その後も、息子の元に行ったボールをまだ真ん中で早く来ないかと待ってくれていたので、買主さんご夫婦が邪魔になるからとこちらに会釈し、気を利かせてバイバイ。その様子を振り向きながら見守ると、まだ名残惜しそうなブルドッグ君はこちらを見てくれていて、その表情にほっこりしました。参加してくれてありがとうね、息子と頑張るよ。そんなことを思った冬のひととき。心ってこんな風に通じ合えるんだな。
懐かしい記憶と共に、日常はいつも慌ただしく、夜になり急にコピーが必要になったので、息子に伝えました。「お母さんね、揃えたい書類があって、まだ風邪気味だから明日にしようとも思ったんだけど、失くすといけないから今からコンビニへコピーを取ってくるよ。」そう話すと、あっさり理解してくれたので、ヨガパンツとパーカーのままスニーカーを履き、ランニングをして向かいました。すると、夜の景色がとても綺麗で、急に頭の中で映像が流れ出して。それは、まだ若かりし頃。マブダチK君の車の中で、助手席にいた私と話しながらずっとタバコを吸っているので、ひと言。「車内が雲みたいな状態なんだけど・・・。ちょっと吸い過ぎじゃない?」「うっせ~な。おかんみたいなこと言うな。文句あるんだったら、今すぐ降りろ。」「私、元陸上部だから、10km位だったら走って帰れるよ。」「お前さあ、そういう所かわいくねえんだよ。」そう言ってわいわい。そして、そんな直球しか投げてこない彼が、私に対する疑問をそのままぶつけてきたことがありました。「Sの髪の毛、なんで黒いんだよ。ピアスも開けてねえし。」「親からもらった大事な体だし。」「あのなあ、そういうセリフって親から大切にしてもらっている奴が言う言葉だぞ。なんでSは反発しないのかなって不思議で仕方がない。」ここまで真正面からぶつかってくるのは、これまでもこれからも彼が最初で最後かもしれないなと思いました。お前のことを心配してる、そのことが土台にあった上でごまかしのない直球が飛んでくる。「生んでくれてありがとうって思っているんだよ。うちの両親、自分達のことで精一杯で、でもいい所もあって、自分のことは自分でなんとかしていこうって思った。こうやって話を聞いてくれる友達もいてくれるから。」「・・・なんかさあ、コイツ何か目標がないと生きていけないのかよって、いつもSはそこに向かって走ってる。で、その目標が達成できるとまた次の目標に向かっている訳だ。俺、いつもお前の背中を追いかけていて、ようやく追いつけたと思ってもお前はもう先に行ってる。だから、俺が追い付けることはこの先もきっとないんだよ。高校の時に出会ってから、なんでSはそんな家庭環境で逃げ出さないんだろうってずっと思ってた。でも、俺の目線ではなく、Sの目線で考えた時にちょっとだけ分かったような気がしたんだよ。本当にちょっとだけだけど。そうしたら、俺の世界は広がった。人の価値観ってそうそう変わらない。でも俺は、お前に出会って変わった。そんな考え方もあるんだなって。」「ばかなだけだよ。K君が本気で勉強を始めたら私はきっと勝てない。同じ土俵の上にいないから、お互い見えてくるものがあるのかもしれないね。」こんな時間を何度も過ごし、友情を育んでいったんだよな、久しぶりに名古屋で再会した時、髪の毛が真っ黒でそういえば笑えてきたなと懐かしくなりました。コンビニに着き、コピー機の前に立つと、学生時代に慌ててコピーを取りに来た時のことや、大学図書館でのことが蘇ってきて。学生さん達がテスト前になると急いでコピーを取り、原本を忘れていったことが何度あったことか。私もやったことあるから気持ちは分かるよ~と思いながら、カウンターに保管しておいたものを取りに来た学生さん達に渡していました。大学図書館での勤務が決まったことをK君に報告した時は、伝えてくれて。「Sの夢、叶ったんだな。」と。せっかく入学できた大学も、父のリストラの危機も夫婦間の冷戦もあり、中退が迫っていました。かたやK君は、大学進学後もパチンコ通いでフラフラ。彼は、私に会うことさえ辛い時もあったはず。それでも、何があっても関係は変わりませんでした。社会人になり、もう一度、大学に戻り司書資格を取った後、これまた大混乱の末、遠距離恋愛をしていた横浜の彼の元へ行くことが決まった時、会いに来てくれました。「幸せになれ。Sの幸せは俺の幸せだ。いいか、もう自分のことだけ考えろ。」そう言って送り出してくれて。私の中に、母と祖父を置いていってしまうという気持ちを感じていたK君は、ボンと強く背中を押してくれました。大学図書館での仕事が決まり、夢が叶ったんだなと伝えてくれた彼の想いには、沢山の気持ちが込められています。
さてさて、慌ててまたダッシュして帰宅すると、のんびりとテレビを観ている息子がいました。「おかえり~。」あたたかい日常がここにある。誰かの不機嫌をぶつけられる訳でもなく、穏やかな波が漂う空間。「ただいま。ミッション成功。」私が追い求めていたものがここにあるのかな。なんでもない日常、それに包まれて、いつか息子とのお別れも来る。次の目的地はどこにしようか。もう十分歩いたよ、そんな気持ちで最期の夜を迎えたい。