1時間だけに集中した授業参観ではなく、学校へ行こう週間というものがあり、気楽に授業を見に来てくださいという1週間のイベントを学校側が用意してくれました。毎年行われるものの、今年は密にならないように、予め希望の時間を記入する用紙が配られ、そんな配慮に感謝しつつ、当日を迎えました。
「お母さんね、一緒に帰ろうと思って5時間目にしたの。お友達と帰りたければそれでもいいから帰りに聞くね!」「うん、学校でね。」そう言ってお別れ。なんだか、こういったイベントがとっても久しぶりな気がして、終わったらどんな気持ちになるのだろう、どんな言葉を書き連ねたくなるのだろう、そんな想いが押し寄せてきました。パソコンを開き、翌日公開の記事の確認をし、ストライプの綿シャツを着て、スリムパンツを履き、いざ学校へ。すると、天気が急変し、大粒の雨に打たれ、決めたはずのメイクが若干崩れ、小さく凹みながら2年生の昇降口へ向かいました。そこで話しかけられたのは、6年生のお母さん。偶数学年の昇降口なので、なぜだかすっかり私が6年生のお母さんだと勘違いをしたお母さんは、マシンガントーク開始。「修学旅行あるみたいですね。嬉しいんですけど、心配もあって。でもきっと子供達にとってみたらいいことなんですよね。」「そうですね、やっぱり思い出を作ってきてほしいですね。」となんとなく話を合わせてみる。とても感じのいい方だったので、言い出しづらくなってしまったものの、このままではよくないと思い、「すみません、私2年生の母親なんです。」と恐る恐る言うと、一緒に笑ってくれて。「やっだ~、私勘違いしちゃって。」休校になってから子供と自宅にいることが多く、ようやく来られた学校のイベントで誰かと話したくなる気持ち、分かりますよ。そんなことを心の中で呟きながら、笑顔でお別れ。今日という日がお互いにとっていい日になりますように。今この時が、45分の授業が修学旅行とはまた違った思い出となりますように。
そして、早めに行った教室の前にいると、休み時間に汗をかきながら戻ってきた息子が小さく手を振ってくれました。約束の時間に来たよ、いつも通りでいい、そんな姿を見にきたから。そして、先生に軽くご挨拶をして、教室の中へ。こんな時だからなのかな、クラスのみんなが集まり座っていることだけで、その目の前に担任の先生がいるいつもの日常に感動してしまいました。途方もなく長く感じられた3か月間の休校。9月入学になった場合、どうなるのだろう、色々な情報が交錯し、仲良しのKちゃんと不安を口にした日々。そんなトンネルから抜け出してみると、そこには溢れる笑顔があって、その後ろに立っていられることが堪らなく嬉しくて。誰かが私を幸せにしてくれたのではなく、ただその空間にいられただけで、溢れそうでした。
授業は、算数。mLなどの水のかさの問題。自宅のペットボトルで水をジョボジョボ入れながら息子と練習したものの、分かっているのだろうか。そんなことを思っていると、片手に牛乳パックを持ち、消しゴムで作った1mLの立方体を片手で持ち歩きながら見せている先生がいて、この先生の授業は平面じゃないんだなと感激してしまいました。板書は平面であっても、物を使い、ご自身が机の合間を歩き、飛び出して来てくれる。教室全体が立体的になり、そこに輪ができたような、教室の枠に収まらないような軽やかなざわざわ感があって混ざりたい衝動に。ねり消しのような、自分の消しゴムを丸めたものを先生に見せて、一緒ぐらい~と絡む男の子。かわいいな。
そんな時頭を過ったのは、教育実習中に1年生の数学を担当していた若い男の担任の先生でした。「今度の授業、グループ学習でゲームのようなことをするんです。是非、生徒達に混ざって一緒に遊んでください。」そう言われ、喜んで入れてもらいました。すっかり慣れていた1組の生徒達はあまりにも自然に私を輪の中へ。「先生、足引っ張らないでよ~。」「はいはい、楽しくやろうよ!」そんなことを言いながら、皆でワイワイ。50分間笑い転げ、授業終了と共に数学の先生と歩きながら職員室へ。「とても楽しかったです。いつもとはまた少し違った生徒達の表情が見られて嬉しくて。」「いつもガチガチな授業だと、やらされている感が満載になるから。たまにはこうやって数学という教科も楽しいんだって知ってもらいたくて。なんていうのかな、緊張と緩和みたいなもの。まだ若いから僕自身ガチガチになりがちで、だから生徒達との信頼関係も大切にしているんです。」授業中とはまた一味違った、少し肩の力が抜けた先生の空気がとても好きで、努力を惜しまない方なのだと思いました。今どうされているのだろう、グループ学習の間を歩く度、相変わらず微笑んでいるのだろうか。
そんなことをぼんやり思っていると、私に近づきそっと説明をしてくれたのは担任の先生でした。えっ?授業参観に解説を入れてくれるの?!と慌てていると、伝えてくれました。「子供達に“量感”を教えているんです。」と。なるほどなるほど。黒板にチョークよりも、教科書の活字や絵よりも、はるかに分かりやすい。私も2年生になってこの授業を受けたかったな。
そして、計算問題を周りの席の子達と相談タイム。全体を見ると、孤立していそうな子がいなくて、その和やかな雰囲気に嬉しくなりながら息子を見ると、斜め前の男の子と何やらぼそぼそ。心配しなくても彼の世界は温かく、やはり私の方が元気をもらっているのだと思いました。あっという間に、終わりのチャイムが。もう少しここにいたかったな、楽しい時間は呆気なく過ぎる。だから、貴重なんだ。引っ込み思案な息子が、皆と一緒に手を挙げている姿を見て、彼の成長を手助けしてくれているのは私ではなく、先生なのだと思いました。できないことができた、それをどれだけの気持ちで、どれだけの優しさを持って本人に伝えてくれたのだろう。自信を積み重ねていく分だけ、強くなれるのだろうか、でもその過程の中で応援されるから温かさも加わっていくのかな、そんな学校にこれからも助けられていくのだと思いました。
帰りの支度をした息子にあっさりバイバイされ、廊下にぽつん。ママよりも友達。そんな成長が嬉しいやら寂しいやら。もう少しゆっくりでいいよ、でも参観日の授業は楽しめたからそれでいい。赤いランドセルの私ではなく、“今”の私が全面に出てきた。「休校中、子供達だけでなく、支えてくださったお母さん達もケアしていきたいと思っています。」そんな言葉を学校が始まる前に伝えてくれた先生がいてくれたからこそ、今日立ち止まれた。頑張っていますよ、お子さんもお母さんも。言葉はなくても、伝わってくる先生の想い。だから、この気持ちを誰かに届けたくなるんだ。