澄み切った運動会

今年の運動会は、雨の心配もなく、予定通りの日程で行われることになりました。前夜、早く寝かせようとソファにいる息子に声をかけると、顔が赤いことが判明。もしかしてまた熱を出したか?と熱っぽくないか聞いてみると「ないよ。」という返事が。それでもイベント前にまた何かあってもいけないと思い近づきました。よく顔を見ると・・・日焼けかいっ!!と笑ってしまい、息子の頑張りをこのような形で気づくことになるとは思わず、一緒に大笑い。グラウンドで沢山練習したのね。そして、翌日体操服に着替え、元気に学校へ行ってくれた彼の背中を見てほっとしました。行くことができなかった野外活動、イベントに参加できることは当たり前ではないのだと今日という日を迎えられたことに感謝し、学校へ向かいました。二人にとって特別な一日の始まり。

自転車を走らせ、校庭に着くと、ちょうど準備体操の時間でした。最初から最後まで見届けてねと言われていたので、ビデオもカメラもスマホも持って準備は万端。すると、列に並んでいた息子がすぐに気づき、小さく手を振ってくれて。いい時間にしておいで、このひとときを噛み締めよう、糸電話で届けました。それからすぐに、5年生の100m走がやってきて。すると、かかった音楽は大好きだったプリンセスプリンセスの『世界でいちばん熱い夏』(作詞:富田京子、作曲:奥居香)がかかり、一気に青春が蘇り、胸がいっぱいになりました。中学2年の時にテニスのダブルスを組んでいた後衛の友達、そして3年生になり組むことになったもう一人の後衛の友達3人でよくカラオケに行っていました。この曲はもしかしたら一番歌っていたかもしれないなと、疾走感が懐かしくなって。そして、なぜ顧問の先生はコンビを組み直したのだろうと改めて思って。左利きのペアは珍しいからと先生は言った、でもそれだけではなかったのではないか。2年で組んだ阪神ファンの友達は、とても大人しく私と仲良くなってから明るくなったよう。同じクラスになり、担任の先生に、小瓶に花を生けたいからその辺の花を取ってきてと二人で頼まれたことがありました。校庭で蓮華のような花を見つけ、せっかくだから頭に付けて行こうよ!と私が提案すると、乗ってくれて。本当に頭に突き刺して教室に戻ってきた私達にみんなは大爆笑。彼女はそういうタイプではなかった、でもSと仲良くなってから変わったとみんなも楽しんでくれて、いつもそこには笑いがありました。そして、試合でダブルフォルトをした彼女に前衛のポジションから「ドンマイ!」と声をかけても、私に申し訳ないと思ってくれたのか、サーブは上手く決まらず、ゲームセット。それでも、チームプレーだったのでこちらは全然気にしていなかったものの、何かを感じたのか先生は組み替えてきました。3年で組んだ友達は、サーブミスをして、こちらが「ドンマイ!」と言っても聞いていなくて自分の世界の中にいて。それが彼女の持ち味でもあり、強みでもあって、先生の意図がようやく分かったような気がしました。本気で勝ちにいったんだなと。ここ一番になったら、Sは陸上部での経験があるからプレッシャーではなく意地を見せるだろう、最後の試合で後輩達はプレーから感じるものがあるはず、その時組むのは冷静な彼女がいい、そう思ったのではないか。先生の予想は当たり、団体戦1勝1敗で迎えた3戦目、開き直りました。重圧ではなく、目の前の試合に集中しようと。すると、コートにいた私に、個人戦に出場した2年に組んでいた友達の声援が届き、ぐっときて。すべての力が手に集まり、掴んだ勝利。後輩達も泣いてくれて、みんなで手に入れた大きな勝ち星でした。今なら分かる、Sにとってもこれからのテニス部にとっても、絶対に団体戦の1勝は必要だった、それが先生の気持ちだったのだと。

ふと焦点を戻すと、スタートラインに立った息子がいて、ビデオを構えました。あっという間に100mを駆け抜け、本当にもう一瞬で。共に歩くこんな時間を大事にしようね。そして、日焼けする程練習を重ねた、旗体操の時間が待っていました。音楽に合わせ、白旗を持ち、格好良く踊る息子がいて、何度もビデオの画面越しから涙が溢れそうになって。野外活動に行けないことが分かり、大泣きした息子。苦しい時を過ごし、秋の気持ちのいい空の下で、みんなと心が重なり、踊り切ってくれました。そのひとつひとつが尊くて。悲しいことをできるだけ減らそうと思っても、悲しいことはやってくる。それでも、諦めないでいたら、また空が見えて、その青さに気持ちが晴れて、また頑張れるんじゃないかと思う。きっとそんなことの繰り返しで、キラキラを拾い集めて、いつか目を閉じる時が来るのかなと。豊かさってそういうことなのかなと、凛々しくなった息子の表情を見て思いました。あなたの未来は、きっと大丈夫。
その後、騎馬戦があり、これも懐かしいなと小学校時代の運動会が同時進行で蘇りました。紅白の選抜リレーの前にあった地域選抜のリレーに選ばれたネネちゃん。地域対抗なので、祖父母世代の方がヒートアップしていて、それはそれで面白くて。そして、足の速い姉は私の自慢でした。「うちのお姉ちゃんが出るんだよ~!」とクラスのみんなに報告。おばあちゃんの介護でいつも運動会に来なかった母にずっと怒りと悲しみを抱え、母親になったネネちゃん。でも、妹はずっと姉の勇姿を覚えているよ。誰よりも格好良かった。辛さを振り切ろうと前を向いて走るあなたの背中を見て、私も母親になった。長かったね、色々あった。ネネちゃんの目に入る今年の運動会は、カラフルに彩る景色が広がってくれていたらいいと思いました。

そして、騎馬戦は勝利に終わり、満面の笑みで喜ぶ息子を見て、今度は係の席へ。5年生になってライン係になったから、最後まで見ていてね!と約束していました。ボクの働きぶりを見届けろと?!しっかり証拠を残してやると意気込んでいると、一緒にラインを引き始めてくれたのは、DeNAの帽子を被った若い男の先生。どこまでも野球にご縁があるなと笑ってしまいました。そして、グラウンドの途中ですれ違ったのは担任の先生。挨拶をした後、こちらに気づいて何かを伝えてくれようとしたものの、お忙しいのは分かっていたので、笑顔で手を振ると同じように振り返してくださり、それだけで十分でした。聞かなくても分かる、先生が学校で息子を包んでくれていることが。そして、その手が私の肩にも届いていることが。ぬくもりをありがとう。
競技前のアナウンスで、みんなで富士山を登ったことが伝えられました。息子の心がぎゅっとなったことが離れたところでも伝わってきて。それでも、割り切ろうとグラウンドで最高のパフォーマンスを見せてくれました。それが強さなのではないかと、息子に教えてもらった一日。「ただいま!」「おかえりなさい!格好良かったね!Rと一緒にラインを引いてくれた先生、DeNAの帽子を被っていてプロ野球ファンだったね!」「そうなの。牧選手のファンだと言ってた!ボクはヤクルトファンだと伝えておいたよ!」ね、優しい引力があなたを助けてくれるよ。それは自分自身が優しくいることが条件、人を大切にしてほしい、お母さんから言えるのはそれだけ。