誰かのぬくもり

息子と電車に乗って出向いたゲームセンター。前回、メダル落としでどんどん増え、その場所に保管をしておいたので、喜んでまた引き出し、いつもの席に座りました。が、今回は全然うまくいかず、あんなに沢山あったメダルはほとんどなくなり、息子が少しずつしょげ始め困惑していると、一人の男子学生さんが声をかけてくれてびっくり。「あの、もしよかったら使ってください。僕達時間がないので、帰るところなので。」そう言ってカップを丸ごと渡してくれるので、本気で驚きました。「こんなに沢山いいんですか?ありがとうございます。」そう言って頭を下げると、後ろにいた二人の学生さん達も一緒に微笑みながら会釈をしてくれて、胸がいっぱいになりました。類友なんだろうな。その後、もらった50枚ほどのメダルは、また運が巡りうまく増えだし、今回も保管できる量になって終了。メダル預け入れに流し込み、枚数を確認するとちょうど100枚になっていて、息子と本気で喜びを分かち合いました。「ぴったり100枚ってなんだか嬉しいね。お兄さん達がくれた気持ちが倍に増えて、ありがとうの気持ち忘れないでいようね。」「うん、お兄さん達にもらってからうまくいったもんね!なんかすごいね!」そう言って、わいわい盛り上がりながら上階のボウリング場に向かうと、近くのレーンでお兄さん達が大人数でボウリングを楽しんでいてほっこりしました。あたたかい雰囲気がこちらにまで流れ込んでくる。いい出会いに今日も感謝。

その数日後、息子がすっかりはまってしまった工作ができる公園に行くと、今度は船が作りたいと言い出し、また体力勝負の時間が待っていました。構造は彼が練るものの、木を切るのは私が大半を占めているので、太い木材を真剣に切っていると、通りかかった40代のご夫婦が話しかけてくれました。「左利きなんですか?そののこぎり、あまり太い木には向いていないので大変ですよね。」とご主人。「はい、かなり苦戦しています。のこぎりって右利き専用とかないですよね?」「それはないと思いますね。僕、実は大工なんですよ。色々と角度を使って切っている姿を見ていたのですが、同じ速度で同じ角度を根気よく切った方がその木は切れますよ。」「大工さんだったんですね!やってみます。このまま切っていたら日が暮れそうで。」そう言うと、奥様も一緒に笑ってくれました。僕が手伝いたいところだけど、お子さんとの合作に誰かの手が加わるのは良くないから見守ることにしますね。そんなご主人の気持ちを感じ、優しい時間に包まれました。「頑張ってくださいね!それじゃ。」「ありがとうございます。」そう言ってお別れ。すると息子が、「あの人だれ?」と聞いてきました。「大工さんだよ。お母さんが切っていたらアドバイスをくれたの。」「え~!すごっ!」至近距離にいたでしょうよ。そう思いながら、また二人で盛り上がってしまいました。一期一会、毎日がそんなことの繰り返し。

それから、帆の付いたなかなかの船が完成し、恒例のサッカーを楽しんで疲れ切った状態で帰宅。大好物のエビフライを作り、ようやく椅子に座り、食べ終わる頃に大事なことを改めて聞いてみました。「今はまだパパとの話し合いが行われているけど、パパと二人で会う?」と。「・・・ママと三人がいい。」前回もこの言葉を言われ、それが難しいことが分かるとぐずってしまったので一旦保留にしていました。三人で笑って会おうと息子に伝え、家を出たのは紛れもない事実。それでも、別々の家になると辛かった時のことがフラッシュバックされ、とても会える状態にはない自分に気づかされました。「すぐに会うことは、今はできなくてごめんね。」そう伝えると、「だったら一生ママは会えないの?」と言われ困惑。「今はまだ辛い気持ちの中にいて、Rに寂しい思いをさせてしまって申し訳なく思っているよ。」すると、ずっと堪えていた息子の涙が溢れ出し、抱きしめると声を上げて泣き始めました。家を出よう、私が伝えた時からぐっと我慢をしていた気持ちがはち切れたのだと思うと、なんて酷い母親なんだと自分をどうしようもなく責めてしまい、一緒に泣けてきて大変でした。それでも、苦しかった休校中のことが蘇り、子供の為にとぐっと堪えて生活していた結果の卵巣腫瘍摘出は、私の中で同じことを繰り返さない為のブレーキにもなっていて。あのまま、また辛い生活を続けていたら今度は右側の卵巣も摘出することになったかもしれない、それを思うとやはりこの判断は正しかった。「三人でまた会えるよと伝えたのはお母さん。それが今は実現できなくてRを悲しい思いにさせてごめんね。お母さんのことをどれだけ恨んでくれてもいい。嫌いになってもいい。今のように感情を出してくれてもいい。それでも、お母さんはどんなRも好きよ。あなたのことが大好き。何があっても嫌いになったりはしないから、安心してね。この先どんなことがあっても、あなたのことを守り抜く。」ハグしながらそう伝えると、大泣きしながらぎゅっと抱きしめ返してくれました。ママ、あの時三人で、公園で会おうって言ったじゃん!ボクその日をずっと楽しみに待っていたんだよ。約束が違う!ボクは子供だから簡単には気持ちの整理なんてつかないし、三人でやっぱり会いたいよ。みんなの家族みたいにパパとママには笑っていてほしい。でも、ママが辛そうにしているのも分かるから、僕の頭の中ぐちゃぐちゃしてるんだ。ただ今、ボクのそんな気持ち受け止めようとしてくれて嬉しかった。泣き叫ぶ息子の体から、抱きしめたぬくもりから色んな感情が驚くほど伝わってきました。そして、私も子供の頃、こんな風に泣き叫んでおけば良かったかなと。息子の背中をさすりながら、彼の胸の痛みを一生忘れてはいけないなと思うと同時に、感情をむき出しにしてくれるのは私の前だけかもしれないなとも。本音でぶつかること、どうにもならない気持ちを吐き出し、受け止めてもらうこと、その先にある人のあたたかさ。思い通りにいかないことの方が多い、なんで、どうして、そんなことに悩み、自分の愚かさを目の当たりにし、俯いてしまった時に、今日という日を思い出してくれたらと思いました。
お互いが辛くなってしまい、その晩はあまり話さず就寝。ほとんど眠れなかったので、今日は送り届けられなくてごめんねと伝え、玄関まで見送りました。「信号気を付けてね。ゆっくり行くのよ。帰りは、行けそうならお迎えに行くね。」そう言いながらハグをすると、息子がほっとしてくれたのが分かりました。そして、バルコニーからも手を振ると、何度も何度も振り返って手を振ってくれて。いつもそこにある糸電話。あなたの心の声を逃さない。でも、お母さんが譲れない気持ちもある。(いつか)三人で笑って会おう。かっこの意味、いつの日か届いてくれたらいいな。