人の気持ち

雨の日も体を動かしたい息子をどうするかとあれこれ考えを巡らせ、ボウリングに誘ってみました。「やった~。行く行く!ボク、おもちゃのボウリングじゃ物足りなかったの。」ああ、本物がやりたかったのね!と二人でわいわい盛り上がった翌日、小雨の中最寄り駅まで辿り着き、電車に乗りました。すると、目的の駅に着いてから何やら足取りが重い様子。「どうしたの?」「ちょっと休みたい。」そう言って歩道に座り込んでしまいました。「雨だし気圧の影響もあって辛いよね。ボウリングやめようか?」「行く~。」とここは譲らないので、酔い止めのアメをダメ元で渡すと、それが効いたのか急に立ち上がり復活。一瞬“せんず”なのかと思いました。気圧で目が回っていたのね。その後、ボウリングはまさかの2時間待ちだったので、近くの公園へ遊びに行き、軽く濡れながら戻り、ようやく順番がやってきました。一緒にボールを選び、初めての息子はレーンの前に立つと目がキラキラしていて。店員さんが来て、溝に落ちないようにしましょうかと聞いてくれたものの、そこは本物のボウリングを味わってもらいたくてお断りさせてもらいました。私が投げた後、息子も投げると予想通りガーターで大爆笑。来て良かったな。2ゲームを楽しみ、私のベストスコアは84、息子は64と下手くそコンビ、頑張りました。

その後も、メダルゲームで散々盛り上がり、帰りの電車へ。思っていたよりも混んでいたので、息子を座らせ、斜め前の席に座るねとひと言伝え、ようやく椅子に座ると1人の女性が声をかけてくれて驚きました。「こちらの席どうぞ。そうしたらお子さんの目の前なので。」三席分左に座っていた方がわざわざ席を立ち譲ってくれたその行為に感激し、お礼を言って息子の目の前の席に座らせてもらうことに。すると、それを見ていた右隣の女性から、「だったら私とお子さんが交代します。そうしたら隣同士に座れるので。」と言われ、まさかその方にもそんな言葉をかけてもらえるとは思わず、目の前なので大丈夫ですと会釈をしてそのまま座ってもらいました。日本っていい国だな。全く知らない人達同士で、こんな三角形のキャッチボールができるなんて。それから次の駅で左隣の男性が降りたので、息子を呼び隣同士で電車に揺られ駅に到着しました。席を譲ろうとしてくれた女性に改めてお礼を伝えると驚かれて。あなたのお気持ち嬉しかったですよ、とっても。子供がいるといろんなことがあります。そんなお気遣いに母親は救われます、ありがとう。まだ20代の女性二人にもらった気持ちで、その日の疲れは吹き飛びました。お二人にもいいことがありますように。

私の中でどうしても引っ掛かっていること。それは、祖母のことでした。私が生まれた数か月後に祖母の乳がんは発覚、母は介護に付きっきりになりました。病と闘うおばあちゃんは時に辛そうで、時に優しく、大きな器を感じていたのですが、その話を姉にすると意外なことを言われて。「Sはがん治療をしている丸くなったおばあちゃんしか知らないんだけど、入院する前はちょっと違ったの。私が学校から帰ると、親戚やご近所さんが来ている時は特に厳しかった。体裁をとても気にするから、きちんと挨拶しなさいってうるさくてね。常に親戚の子とも比較されて辛い時もあったの。」それは、私の知らない祖母の姿でした。ネネちゃんが負ったいくつもの傷、それは色んなものが複雑に絡み合っていたのだと思うと、どうしようもなく胸が痛くなって。「おじいちゃん、お母さんに対して厳格だったからそれがかなりお母さんの精神状態を圧迫したのかなとも思っていたんだけど、おばあちゃんとの関係にも何かあるのかもしれないね。」そう伝えると、姉も納得した様子。「おばあちゃんね、がんになってからは娘のお母さんに頼るしかなくて、随分小さくなっていたの。でも、仮退院の時、子供達を放っておいて何やってるんだ!って怒ってくれてね。とても驚いたけど、嬉しかった。病院を理由に、育児をそっちのけだったこと、おばあちゃんは気づいてくれたんじゃないかと思ってね。」4歳しか離れていない姉が私のお母さん代わりだった。その役割はあまりにも重く、苦しかったはず。「お母さんに頼まれていた家事を一つ忘れていただけで、病院から帰ると怒鳴られたの。本当に嫌だった。」母がヒステリックに姉に罵声を浴びせ、何度も叩く姿を目の前で見ました。その頃に戻れたら、私はネネちゃんを守れただろうか。こたつの中で泣いている姉をもっと包むことができたなら。

息子と飛行機の旅を計画中だとネネちゃんに伝えると、喜んでくれました。『私の周り、結構シングルマザーが多くて恋人同士みたいに楽しんでいるよ~。』と明るいメッセージをくれて。できないことよりできること。姉と二人で子供の頃から沢山考えて今があるんだ。周りに流されない自分でいよう、そう誓った大阪。関空から仕事帰りの姉が、南海電車に乗って難波まで送ってくれた20代。ネネちゃんの心の象徴である飛行機に、息子と今度乗るよ。国内線だからあっという間だけど、浮いた時、雲の上を飛んでいる時、あなたと過ごした沢山の時間を思い出すんだろうな。伯母さんが働いていたのは空港、お母さんは図書館、Rは自分の好きな道を行け。一番最後に心に残ったものが生きてくるといいな。