天気雨の日

空は明るいのに、なぜか雨が降ってきた、そんな日。息子が学校から帰った後、笑いながら伝えてくれました。「えのぐセットね、僕と同じプロ野球のものを持っている子がいたんだよ。誰だろうと思って見てみたら、○○君だった!」そう言われ、一緒に大爆笑。その子は、息子と同じ野球チームで、お父さんはコーチ、それってもしかしてお父さんの趣味じゃない?日曜日も図工の時間も野球でいいね。もう染まるしかない、野球色にね。まだ息子が幼稚園年長の時、グラウンドへお迎えに行っていたのでそこでそのお母さんとご挨拶をさせて頂いたことがありました。とても気さくな方で、笑いながら伝えてくれて。「今走っているあのコーチ、実はうちの主人なんです。もうほんと、野球バカで。」愛のある悪口ってこういうことを言うんだなと一緒に盛り上がったことが、えのぐセットの話を聞き蘇りました。いい家族に出会えたね。野球で繋がる輪、びっくりする程広がるよ。

学校の帰り道に起こったちょっとしたトラブル。それにより息子の心の中に、わだかまりが残ってしまいました。なんでもないふりをしていても、その傷みを言葉の端々に感じた週末、散々悩み、担任の先生に伝えることを決めました。パソコンを開けると、まだ休校中に用意されていたオンライン教材のメッセージ画面が使えて安堵。状況をできるだけ冷静に的確に報告。事を大きくしたい訳ではなく、ただ先生に知ってもらいたい、それで息子の心は軽くなると思うのでという言葉を添えて。そして月曜日に、連絡帳にメッセージ画面を見てほしいという旨を記し、息子に渡しました。帰宅した後、先生に見せられたかを聞くと、「朝忙しそうにしていてなんとなく見せられなかった・・・。」と俯いて伝えてくれました。「いい?Rがとても苦しそうにしている時、空気を読まなくていいんだよ。渡したら先生読んでくれるから。」「・・・、うん。ママごめんね。明日渡すよ。」私の前では超わがままなのに、ここ一番という時、周りを見渡して動こうとする。もどかしいなと思いつつも、自分もそうだったから人のことは言えない。そんな色々な気持ちが錯綜していた夜、一本の電話が。「担任の○○です。メッセージを頂きありがとうございました。たまになんですけど、メッセージ画面をチェックするようにしていて、今日気づけて良かったです。」なんだかすごいな。テレパシーみたいなもの、本当にあるのかもしれないな、そんな想いがこみ上げそれだけで泣きそうでした。

内容をとても丁寧に読んでくれた先生は、自分の意見をしっかりと持ちながら、いくつかの選択肢を用意し、息子と私にとって一番いい形に持って行きたいと話してくれました。「でも先生、色々なご家庭の考え方があり、相手もあることなので、私達母子の意見だけで先生に動いて頂くのは、何か違うような気がして。私達は先生に知って受け止めてもらうこと、それで十分だと思っています。」「僕の立場からしたら、どちらが良い悪いと決めることはできないです。でも、実際にR君もお母さんも苦しんでいる。そこに嘘はないと思っています。お二人が笑顔になってくれるために、最大限の協力をしたいです。」もうあかん、ダム決壊の瞬間でした。自分さえ我慢すれば、丸く収まる、それでもまだ小学生の子供にとってそれは抱えられない程の時があり、それを経験してきたからこそ同じ思いを子供にはさせたくなくて、それでも我慢しようとしている息子を目の当たりにし、そんな葛藤を丸ごと引き受けようとしてくれる先生の温かい器に溢れました。
「帰り道、僕ともう一人の担任で、交代で見回りも一つなのかなと思っています。」「それでは先生達の手を煩わせてしまうので。先生に頼るのは最終手段だと思っています。まずは、息子と模索し、自分の力で乗り越えたら自信にもなってくれるのかなと。」「お母さん、先生に頼るのは最終手段ではなく、“最初”の手段だと僕は思っています。迷惑をかけてしまうと感じるのはお母さんの優しさもあると思います。でも、これが僕の仕事なんです。頼りにならないかもしれないけど、頼ってもらわないと何のために教員になったか分からないです。」そう言って笑ってくれました。本物の教員がここにもいた。私の教員仲間、みんな見事に苦労人、なるべくした人達がなったな、そして赤いランドセルを背負い、自分の感情をうまく出せないまま重い足取りで帰った岐阜にいた頃の、心の中にあった少女まで助けられた気がしました。もう、一人で頑張らなくていい。

「先生、本当にありがとうございました。先生が心の奥深くで傷みを感じてくれたこと、その気持ちだけで息子も私も頑張れます。きっと、一つのことが解決されても同じようなことがまたどこかのタイミングで起こると思うんです。だから、自分達の力で。そう思っています。見守ってください。そして、残業させてしまってごめんなさい。」だからもう~、これが僕の仕事なんですって。そんな笑いの入り混じった声で最後のご挨拶。「ボクもR君に似た部分があったので、色々なことが思い出されました。本当に何でもいいのでいつでもご連絡くださいね。」だから先生、教員になったんだね。人の気持ちが自分のことのように分かるから。
時計を見たら8時過ぎ。夜なのに気持ちが晴れる。寄り添うってこういうこと。こうやってまた一つ助けられていく。タンクが優しさでいっぱい。