素顔を見せて

相変わらず息子を学校へ送り届けている朝、高校生の野球部男子君達がゴミ拾いをやっていて、すれ違いざまに挨拶をしてくれました。「おはようございますっ。」その声を聞いて、前に尾崎豊さんの『I LOVE YOU』を熱唱していた学生さんだと分かり、嬉しくなってこちらもにっこりご挨拶。その後、息子を学区内まで見送り、再度来た道を戻ると先程の男子君達が大きな袋を持って歩いていたので、「ごくろうさまです!」と自転車で通過するとこれまた気持ちよく返事をしてくれました。「あざ~っす!」そう言われ、思わず吹き出しそうになりながら、彼らは私が毎日送り届けていることをなんとなく知っているなと、何とも言えない親近感が伝わってきて。野球部の爽やかさに気持ちを上げてもらった明るい一日の始まり。

自宅に戻り、パソコンを広げ、クラス写真をネットから選ぼうとクリックすると、そこにはマスクを外した担任の先生の柔らかい笑顔があって泣きそうになりました。白い歯を見せて、先生の内面がそのまま表に出ているようで胸がいっぱいに。先生との面談で楽になったのは、私の痛みに気づき、先生の経験をそっと届けてくれたから。根拠のない“大丈夫”ではなく、先生が歩んできて負ったものすべてを包括して伝えてくれた“大丈夫”は、消えることのない自信になりました。小さな負が今は大きく見えるかもしれない、でもそれはいずれ大きな器に変わっていくでしょう。お母さんとR君からそんなことを感じます、だから私は心配していません。そんな気持ちを思い出し、改めてぐっときました。
クラス写真と言えば、二年生の時は休校中だったので、体育館でかしこまった写真撮影はありませんでした。その後、学校は6月に再開されたものの、まだ分散登校で正規の授業に戻ったのは6月中旬頃。秋の遠足もバス移動はなくなり、市内の散策に変わり、そこでクラス写真が撮られ、マスクを外し溢れる笑顔のみんなを見た時、感極まりそうになりました。このクラスは、9.5か月を共に過ごせただけ。それでも、その短い期間に凝縮された喜びが沢山詰まっていて、慣れない生活でストレスが高かったと思うのに、学校の外に出てこんないい表情を向けてくれるんだなと、こちらの方が励まされたようでした。2種類の写真を購入し、1枚はアルバムの中へ、そしてもう1枚はいつもパソコンバッグに入れて持ち歩いています。その時の気持ちを忘れない為に、そして、ダブルピースの息子の笑顔がこのまま輝き続けるようにと願って。いつも持ち歩いていると担任だったT先生に話したら、笑ってくれるだろうか。変わった人認定はきっとされているので、今さら何を言っても驚かれないかもしれない。保護者のみんな、先生に助けられましたよ、そんな気持ちが届いていたらいい。

ネネちゃんに会った時、この際なので自分の特性をぶちまけようと気づいたことを色々と話してみました。「私ね、合コンに行ってイエーイ!というノリで初対面でも盛り上がれるの、ジンジャエールで。だけど、二次会はカラオケじゃなくて、できればカフェでゆっくり本を読んでクールダウンして帰りたい。」そう話すと大爆笑してくれて。「分かるよ、どちらもSちんだよね。そういうの丸ごと分かってくれる人だと楽なんだろうね。」「うん。実家にいた時、次の日試験なのに、おじいちゃんが私の部屋に入ってきて話し始めるから困っちゃったりしてね。お母さんもそうなんだけど、個室なのに境界線がなくて今思えばそれがかなりのストレスだった~。」「そうだね。私はお母さんの周波数もだめ。」と姉が言うので一緒に笑ってしまいました。ネネちゃんが以前言っていた玉突き事故の話。お父さんが何かやらかし、母がおかしくなり、私達姉妹が被害を被った。それだけでなく、祖父の厳格さによって母のいら立ちは私にぶつけられていたんだなと。ネネちゃんが母にそっぽを向けば、母はその寂しさを私に投げつけ、結局私じゃん!と今さら冷静に笑えてきました。そのどろどろを息子にぶつけて、玉突き事故の再来がないように、自分の本音と向き合いながらゆっくり進もうと思います。

そんな息子が、ぽつりと私に伝えてきました。「ボク、一軒目に見に行ったおうちの担当者の人、冷たくてなんかいやだったんだよ。でも、このマンションの担当になってくれた人はとっても優しかった。だからボク、この家に住めて嬉しい。この家が良かった。」思いがけないことを言われ、はっとなりました。一軒目はネット検索でなんとなく見つけた物件を見に行った。あの時、息子は途中でぐずり出し、急な展開に動揺しているのだろうと思い、学校まで遠かったこともありお断りをしたのですが、それだけじゃなかったことに気づきました。“人”だ。その人の中にある温度を大切にしているんだなと。以前、母と姉と姉の子供達と遊んだ時、帰ってから教えてくれた話があって。「伯母さんが空のペットボトルで○○ちゃん達の頭を軽くたたきながら、“おばあちゃんにわがままばっかり言っちゃだめだよ!“って言っていて、ポンポンやってるから、ボク笑いを堪えるのが大変だった!ずっとポンポンしているんだもん。」そこに愛があること、息子は感じ取っていたんだなと嬉しくなって。一見、冷たい人だと思われそうなところもあるネネちゃん、でもその奥にあるぬくもりを息子はちゃんと分かっていて、一緒に笑ってしまいました。
「負の連鎖、私達の代で断ち切ろうね。」そう約束したから、息子と一緒に、年表を明るい色に変えていく。水色のスーツケースを買ったよ。息子と見上げる空の色。ふんわりと自由に飛ぶために。