まだ夜は肌寒いので着ているのが、長袖のパジャマ。真ん中に小さな雪だるまが付いていて、なぜか息子はその絵が好き。
全然色気のないデザインなのですが、愛着があり、なかなか手放せないでいます。
母が以前、用事でうちのマンションに来た時、たまたまそれを着ていたら、とても驚かれました。どうやら、姉がカナダに留学中、ホストママが誕生日プレゼントに買ってくれたものだそう。そんなことを全く知らず、姉がくれたものなので、全然気にしないで愛用していました。
思い返してみると、確かにカナダにいる時着ていたな。そして、雪だるまをよく見てみると、なんとなく欧米風?!
姉が帰国して少し経ってから、渡されたような気がします。今思えば、カナダを忘れる為に現地でのものを身の回りから無くしたかったのかも。
カナダ人の彼は、姉との結婚を強く望み、日本まで来てくれて。姉は断り、とても冷静に私に話してくれました。
「彼のことはまだ好きだし、とっても優しいから、一緒になったら幸せになれると思う。あんなに居心地がいい人に初めて出会ったよ。でもね、カナダに永住したら、彼に頼りきりになるし、そんな自分が嫌いになりそうなの。それと、私が日本にいなければ、うちの両親はSにずっと甘え続けることになると思う。役に立たないかもしれないけど、存在があるだけで、ブロックできることもあると思うから。」
それを聞いて、姉の深い愛を感じました。そして、私のことは大丈夫だから、それが大きな判断材料になっているのであれば、気にしないでカナダに行ってねと伝えると、「私のこれまでのキャリアを大切にしたいから決めたの。」と言い切ってくれて。
その時、思いました。姉にもし妹がいなかったら、行っていたのではないかと。大阪にいる時も、カナダにいる時も、実家で色々あった時、近くにいられなかった。だからせめて、帰国してからはそばにいる、そんな気持ちが本当に嬉しくて切なかった。
母とカナダに遊びに行ったのは、教育時実習後の9月。生徒達に最後に宛てた手紙を指導教官に渡し、その写しを姉に読んでもらったら、普段泣かないのに、とても優しく泣いてくれました。「私がいない間、辛いことが沢山あったと思うのに、自分の道をしっかり歩いていたんだね。Sに会えて、生徒達は幸せだったと思う。よくここまで頑張ったね。お母さんといるととても大変そうに見えるけど、大丈夫?」
こんなに穏やかに話してくれたのは、この時が最初で最後だったんじゃないかな。姉の優しさがあまりにも柔らかくて、一緒に泣いた夜。
姉がどんな思いでカナダ永住を諦めてくれたのか、多分私だけが知っています。だから、古くなっても、なかなか雪だるまのパジャマが捨てられない。とても居心地良さそうにホストファミリーや彼に甘えて、心から笑っていた姿を思い出すから。
捨てる時は、姉の決断がこれで良かったのだと思えた時。あの日の夜は、そっと胸にしまっておく。