止まらない時計

息子とせわしない夕飯時、彼の好きな韓国のりをテーブルに置くと質問を投げかけてきました。「韓国のりは中国から来たの?」と。韓国や!とさすがにここまで激しいツッコミはしなかったものの、笑いながら説明。「韓国のりなんだから、韓国という国で作られたんだよ。」「ああそうか。韓国のりは韓国からきた韓国のり~♪」と繰り返し歌い出し、吹き出しそうになる夕飯を何とか堪えて無事完食。あなたの単純さが本気で羨ましい。

そして、中国という言葉が出てきてふと頭を過ったのは、チャイニーズカナディアンの姉の元カレでした。今どうしているのだろう。朝になり、まだ自分が弱っていたこともあって、思いついたのが一つのアクセサリーでした。それは、姉がカナダに留学中、付き合っていたその彼が姉にプレゼントをしたティファニーの指輪でした。カナダにいた時は、彼に守られすっかりふっくらした姉が、帰国した時には痩せ細っていて、その姿を見て胸が潰されそうで。名古屋空港に母と私が車で迎えに行くと、無口になって目に涙を浮かべてまともに話もしてくれなかった様子を見て、彼女にとって、現実に戻ることがどれだけ苦しく、母と私に会うことが辛かったのか目の当たりにしたようでした。落ち着いた頃、勇気を出して尋ねてみました。「彼とは別れたの?カナダはお姉ちゃんに合っていると思うから、そっちで暮らした方が幸せになれると思うんだ。私の下手な英語にも付き合ってくれて、この人ならお姉ちゃんは頑張らなくていいって思えた。うちのことは大丈夫だから。」紛れもない本心を伝えると、かなり冷静な姉の返事がありました。「半分別れてきたの。でも彼は日本に来たいみたい。大学に戻って日本語も勉強していたしね。もう少ししたら来日するよ。」「日本に来て、もう一度二人でよく話し合って。時間をかけたらいいと思うんだよ。」その会話の後、彼は本当に1か月日本に来てくれたものの、結局はお別れ。二人の痛みを感じてしまっただけに、私もどうしようもなく辛く気持ちのやり場に困りました。そして、姉から渡された一つの指輪。「これね、彼がプレゼントしてくれたものなんだけど、もう使えなくて、でもSのことをとても気に入っていたから、あんたがもらってくれたら彼も喜ぶと思うんだ。だから、あげる。」二人は別々の国で生きていくことを決めたけど、一つの指輪が、その時繋がっていた気持ちをまだどこかで残してくれているようで、右手の中指に付けると今日は少しだけ元気が出ました。

すると、彼が別れの時に母に渡した手紙の内容が思い起こされて。「○○ちゃん(カナダ人の彼)が最後に手紙をくれたのだけど、その内容を読んで少し腹が立ってね。『もう少し娘の気持ちを考えてあげてください。お母さんの愛を彼女はとっても必要としています。お母さんのことは忘れません。ありがとう。』そんなことが書いてあったの。」それを後から聞いて、泣きたくなりました。英語だから、本当に伝えたい気持ちが彼に伝わらないことがあってそれがもどかしい、そんな話を以前私にしてくれていた姉。でも、逆に言葉を飾る必要がなかった上に、彼の温かい包容力を感じ、一人で抱えていた沢山の葛藤を初めて話せた相手だったんだろうなと。このサイトに、偶然が偶然を呼んで彼が気づいてくれたなら、やはり沢山の感謝を伝えたい。そして、一緒にアイスクリームをまた食べよう。カルガリー大学を案内してくれてありがとう。姉の心を溶かし始めてくれてありがとう。母に真正面から気持ちを届けてくれたこと、忘れないよ。

昨晩、夫が有給だったので、夕飯の準備を早く済ませ、パソコンを持って夜のカフェに行くために車を走らせました。すると、なぜか大学時代に、家に帰りたくなくてナガシマスパーランドまで行き、ずっと夜の観覧車を見ていたことが蘇り、運転しながら涙が溢れてしまい大変でした。そうか、だからみなとみらいの観覧車が好きなんだなとも。私が好きな丸い形、そして本当にゆっくり進んでいく右回りが時計の針のようで。毎日毎日少しずつ進んでいくのだけど、あくせくするだけじゃなくて、“その時”を噛み締めたいなと思う時があって。また同じ所に戻ってきても、前よりも違うことに気づけていたらいいなと願いながら。現実はなかなか厳しいけど、夜の観覧車に向かってまたねと伝え、一つ深呼吸をして帰宅。やっぱり長かったな、ここまでくるの。でも、沢山のものを見つけた。自分の底力と、誰かと心が繋がるという温かさを知った。その“誰か”は、あまりにも大勢の人達。

学校の役員のお仕事、コロナ禍ということでトイレ掃除に仲良しのKちゃんと行ってきました。たまたま日程が重なり、二人一組で7か所を担当。時間も限られて大変な作業なのに、彼女といるといつもワイワイして、全てのことが楽しくなっていく。自分が女子大生に戻ったかのような錯覚、一体何度しただろうか。段取りがよく分からず、もたもたしながら笑い合って、運動不足が出てしまったと弱音を吐き、最後はお決まりのお疲れさまでした~でお別れ。全てが、優しくてほんわかしているのは、お互いがお互いを知っているから。気を使うよりも甘えた方が嬉しいこと、分かっているから。
そして、放課後の遊び場所に行っていた息子が、終了時間に間に合わないといけないので教室待機を担任の先生にお願いしていたこともあり、廊下で偶然合流。先生にお礼を言うと、なんだかもじもじしている息子がいたので、「学校に泊まっていく?」と言われ、即答で「いやだ!」と言っている7歳児がいて大爆笑。それはそれで先生に失礼じゃないか!カチカチカチ。こんな微笑ましい間にも、時計の針は進んでいく。
2年生も、あと4か月。どれだけ心に刻めるだろう。