引っ越しする日まであと少しとなりました。やることが盛り沢山で感慨にふけっている場合でもないのですが、それでもこうしてパソコンの前に向かうと、いろんな思いがこみ上げてきます。声を上げたら助けてくれる人がこんなにもいるのだと、胸の中が熱くなったこの期間を忘れることはありません。
夫はこちらの引っ越しと同日に実家に戻ることになったので、その日にマンションを空にすることになり、廃棄物と毎日戦っています。迷ったら捨てるの精神でいても、残したいものが結構出てきて自分に笑ってみたり。引っ越し見積もり三社目のあたたかい営業の方の言葉が蘇ってきました。「ぼっちゃんの作品は世界に一つだけのものです。電化製品などは壊れても買えばいい、でもその作品は壊れたら元には戻らないので、そういったものがあれば大切に運ばせてください。」気持ちがどこまでも優しいな。「このご仏壇は?」「夫のお義父さんのものです。」そう伝えた後、何とも言えない寂しさがこみ上げてきました。ずっと守ってくれていたお義父さんとももうすぐお別れ。別居したらかえってうまくいくと望みそれを伝えた妻、だったら離婚した方がいいと言った夫。その決断をお義父さんはどんな目で見てくれていたのだろう。結婚式の日に、夫の胸ポケットにお義父さんの写真を入れたらきっと喜ぶからと伝えてきた母。彼女のそんな情の深さが大好きでした。約束通り、夫はポケットに入れて牧師さんの近くで待っていてくれました。その写真はずっと仏壇の中へ。毎朝手を合わせる度に、こちらが元気のない時は悲しそうな顔をされているようで、その逆もあって、沢山の話を聞いてもらったなと思うと胸がいっぱいです。お義父さんと同じ誕生日の息子は、あなたの魂を持ってこの先も生きていってくれると思うから、寂しくないし、守られていくんでしょうね。残りの時間で精一杯の気持ちを届けようと思います。
そして、担任の先生に電話を入れました。すると、とても驚かれたのですが、同時に率直な感想を伝えてくれて。「R君、いつも通りで全然そんな素振りを見せないんです。無理しているようでもなく、本当にみんなと仲良くやっていて。今日も、国語の授業頑張っていたのでノートを見てあげてくださいね。」「ありがとうございます。Rにもきちんと伝え、状況をよく分かってくれているので、意外と大丈夫なようです。こちらも気を付けてみているのですが、先生には本当に助けられています。」そう伝えると、一緒に電話の向こうで微笑んでくれました。この親子なら笑って乗り越えるだろう、そんな判子を押してくれただろうか。明日世界がどうなるか分からない、でも一艘だけ逃げ切れる舟があったとしたら迷わず息子を乗せる。お母さんはいいから行きなさい。それでも息子は乗らないかもしれない。自分だけ生き残るのはやだ、ママと一緒がいい。もっと大きくなったら、自分が残るからかあさんが乗ってと言うのかも。親が子供を全力で守る、でもいつの間にか守れる人になっていて、そんな心が育ってくれたらと、そんな生き方を二人でしていけたらと思うと困難さも幸せに繋がっているような気がしています。どこまでも鋭い息子、中途半端に隠すよりも、正直に話した方が前に進んでくれる気がして伝えました。「パパは、心の病気を患っているの。だから、Rやお母さんに強い言葉や態度を見せてしまうことがあって、それはこちらの努力でどうにかできることでもなくてね。パパは自覚がないし、このことを伝えたら傷つけてしまうから内緒ね。外で会う時は楽しい時間だからそういったこともないと思うの。パパと笑って会おう。」本人そのものではなく、障害に苦しんでしまったこと、でもそれは外なら引っ込むから安心して会おうよ、そんなメッセージを分かってくれました。そう、息子にとっても大事なのは“理解すること”。なんで?どうして?ではなく、点と点だったものが線になった時、あっさり次に進めることがある。「お母さんね、心の問題って本当に難しいんだけど、勉強していきたいと思っているよ。」最後にやんわり伝えると、ぼんやり頷いてくれました。だからかあさん、大学で心理学を学んでいるのか、そんな気づきにいつの日か笑ってくれたなら。
自宅に戻ると、まだ組み立ててもいない段ボールがてんこ盛り。息子に一つ作ってもらったら、ガムテープを底辺全部に貼るので、二人で笑いながら剥がしました。「ここまで頑丈にしたら、引っ越し先で剥がすのが大変だよ。」「え~、でもボクのぬいぐるみが途中で落ちちゃったらやだもん。」「まさか、全部持っていくの?!」「そうだよ、大切な家族だから。」この言葉を聞いて、じーんと熱くなった週末。離婚が悲しいことだと誰が決めた?埃を被ったぬいぐるみ一匹一匹に名前が付き、思い出が残っていた。胸がはち切れそうなほど辛いのではなく、胸がいっぱいの記憶を持って、また新しい旅に出るんだ。飛び立つ日まであと10日、助走は始まった。