静養するとトップページに載せたものの、怒涛の夏休みで結局ドタバタの毎日。なかなか眠りにつけない中で、なぜか中学1年生の時の美術の先生を思い出しました。私の絵は、超が付くほど下手くそ。絵を描いて笑いが取れるってすごいなと我ながら思っていたのですが、30歳ぐらいの男性の美術の先生だけは違っていました。1学期は幸いにもレタリングだったので、それがたまたま自分には合っていたらしく、好きな言葉を大きな画用紙にレタリングする授業の中で、喜んで『野球観戦』という4文字を描き始めるとクラスの男子に言われてしまった訳で。「オヤジくさい!!」「野球が好きだからいいよね、先生!」と同意を求めると、私の個性を一緒に笑ってくれました。「○○の目の付け所はとてもいい。段々文字が大きくなるあたりとかな。描く時の捉え方がなかなか他の人には無い視点を持っている。」そう言われ、本気で驚きました。「先生、私とっても絵が下手なんです。この先、世界中どこを探しても、先生のように褒めてくれる人には出会えないと思います。芸術とかじゃなくて、自信を持ってセンスがないって言えるんです~。」と100%本気で伝えると言ってくれました。「上手いとか下手とかじゃないんだよ。自分が持つ視点を大事にしろ、いいもの持っているから。」表現をするということ、その奥に見えたものを大切にしてくれた先生、あの時感じた喜びを忘れたらいけないと思いました。
1年生前期になった議員。名札には議員バッジが付き、クラス代表で男子君と全クラスが集まる議員の集会へ出向きました。1年生から3年生まで各クラスの議員と、生徒会の先輩達が集い、その中には美術の先生もいてくれて。毎回議題が決められ、募金活動を行うことに。毎朝、教卓に瓶を置き、みんなが小銭を持ってきてくれたので、あっという間にいっぱいになりました。期限を迎えた最終日、瓶をしまい職員室に持っていこうとすると、一人のあまり目立たない男子が肩を叩いてくれて。「これ、親から渡されて。」そう言って手渡してくれたのは千円札でした。内気な彼は誰にも気づかれないように、みんなの目につかないよう届けてくれたことが分かり嬉しくなって。「ありがとう。最後の最後でなんだか嬉しいよ。」そう言うと、照れながら笑ってくれました。善意ってそっとするものなんだな、彼から学んだようでした。
そして、美術の時間になり、ざわざわした中でそれぞれが絵を描いていたので、端の方で先生を捕まえ、ひと言。「授業に関係のない話をしてもいいですか?」「ああ、いいよ。」私が突拍子もない話をしないことを分かっていた先生は、こちらの言葉を待っていてくれました。「募金、私達が思っていたよりも集まってくれたんです。みんなの気持ちだから、大切に届けてほしくて。冗談ですけど、まさか先生達の飲み代になりませんよね?!」そう言うと一緒に笑ってくれました。「本当に必要な場所に責任を持って届けるから。」クラス単位ではなく、先輩達と相談し、そこで受け取った思い。お金ってなんだ?ご両親が働いたお金が、子供を通して学校に集まり、先生の手によって届けられる。そんな循環を感じた私に、先生はふと微笑んでくれたようでした。
2学期になり、友達とペアでお互いの人物画を描くことに。私の下手くそ加減に今度こそ先生は気づいてくれるかと思いきや、意外な展開が待っていました。友達が、「Sちゃんの目を描くのが難しい。」と言い出し、先生が手伝い描いてくれることに。真正面に座り、じっと先生が私の目を見て鉛筆を持ちながら伝えてくれて。「いい目をしているな。○○、自分の目を大事にしろ。いろんなものが見えているはずだ。“意志”を感じるよ。真ん中に揺るぎないものがあるんだろうな。」そんなことを言われると思わず、はっとしました。人を描くということは、その人の内側にあるものを沢山見てくれているんだろうなと。そして、友達を描いた私の絵も、なんだかよく分からないまま評価をしてくれました。1年間であっという間に異動が決まった先生、急に寂しくなって。「先生、私ね、絵を描くことにずっと自信が持てなくて図工とか大嫌いだったし、こんなに褒めてもらえたのは最初で最後だと思う。一番苦手なところを先生は褒めてくれたの。それってね、私にとってものすごいことなんだ。本当にありがとう。」「表現の仕方が良かった。他の先生はどう思うか分からないけど、少なくとも俺は、○○が描く世界から内面を感じたよ。いいか、他の人が笑っても、自分が捉えたものを大事にしろよ。」
人物画で、友達の目を描いては消しを繰り返し、周りはみんな次の課題へ移っていました。それでも、先生は途中の作品を提出するように言わず、こちらが納得するまで画用紙に向かわせてくれて。丸顔でそばかすが可愛くて、色白で目がくりっとしたショートカットの友達のふんわり感を出したいと思った。ロングヘアだった彼女がショートにしたその潔さを表したくて。そんな苦戦した私の姿をずっと見てくれていたんだろうな。
笑われてもいいから、自分のペースで内面の世界を表現する。人数じゃなくて、本当に届いてほしい人の所へ届ける。あなたは一人じゃないって伝え続けるよ。下手くそなりにがんばる、ただそれだけ。