なかなか来られていないシェアオフィスに行き、エレベーターのドアが開いた瞬間、そこで談笑をしていたのはラガーマンTさんと不動産関係のHさんでした。なんだか久しぶりの再会に感激してしまい、ノートパソコンを持ったまま会話に混ぜてもらって。「7人制ラグビー、最初の二試合は観られたのに、後は見逃しちゃって。」そう話すと二人に笑われてしまいました。その中にはTさんが所属していたチームのメンバーも選ばれていて、絶対に観ます!!と言い切ってオリンピックが始まったので、なんだか悔しくて。それでも、フィジー戦とイギリス戦は息子と二人で観ることができ、負けてしまったものの応援していた選手の雄姿を目に焼き付けることができ、感動の時間でした。そう、その選手はTさんが病気と向き合う私を励ますために用意してくれたTシャツに、サインを書いてくれた一人でした。汗だくになり、全力で走る姿に元気をもらえたよう。画面の向こう側ではなく、今度はまた試合を観に行くよ。
そんな熱い時間の中で、思い切って姉に連絡。『ネネちゃん元気~?』とLINEを送ると、私からの連絡を待ってくれていたのか、優しいキャッチボールが始まりました。数年前の家族会議で妹を深く傷つけたことをずっと反省し、そして謝ってくれて。文字のやりとりではなく、直接会いたいと思っていたよと伝えると、ほっとしてくれました。私に投げてきたとんでもなく鋭い刃は、それだけ姉が苦しんでいたということ。私が痛いと感じたその痛みはお姉ちゃんが長年抱えていたものだと気づいた、だから怒っていないよ、そんな言葉を直接会って伝えたいとずっと思っていました。両親のことで出口が見えなかった姉、音信不通になり、唯一連絡をしてくれたのが手術当日の私へのLINEでした。それでも、また半年ほど間が空いてしまい、思い切って近況を聞いてみると、そこにはこちらの想像を超える彼女の葛藤がありました。カウンセリングに1年通ったこと、それでも闇が深すぎて、生涯通い続けないといけないと感じ、自分から卒業したこと。そして、元々姉が勧めてくれた心療内科へ母のことで相談に行き、同じ場所でカウンセリングを受けた私を知っていたので、妹はどうやって卒業したのか聞いてみたこと。守秘義務があるから教えてもらえなかった~と話してくれて笑ってしまいました。姉は、答えを必死に探していたんだろうなと。7回目のカウンセリングで言われた心理士の先生の言葉が蘇ってきて。「あなたは惜しい所にいる、大分わかっているはずです。答えはあなたが持っていますよ、最後は自分で探してください。それが、何よりのカウンセリングだと思っています。」こんな突き放され方もあるのだと驚きました。それなのに、姉は“闇の中”にいると伝えてくれて。この違いはなんだ?何がそんなにお姉ちゃんを苦しめているのだろう。そう思う度に頭を掠めた一枚の絵。姉が随分前に心理テストの一環で描いた絵は海でした。海の中、隣でしっかりと妹の手を握り、きっちり線を引いた浜辺にはうちの両親がいたという。その絵を見たわけではないのですが、心理士さんに姉の心理そのままだと言われたそう。「家族はいつもSだけだから、あんたがいてくれたらそれでいい。」私にいつも伝えてくれた言葉が、何よりの姉の本心だったのかもしれないと思えた時、会えなかったこの数年沢山苦しんだのかもしれないと思いました。そして、両親のことで闇の中にいる姉を救えるのは、もしかしたら私なのかもしれないなと。心の問題は、その人の中にあって、なかなか分からないことも、難しさもあるけど、少なくとも私は姉と同じ時を過ごし、彼女が浴びせられた罵声を間近で感じてきた。幼少の頃に受けた傷、姉と妹それぞれにあって、自分の痛みは姉の痛みだと思った。そんなことを沢山繰り返し、大人になり、今があるから、私が持っている球を全部用意して、秋に会いに行こうと決めました。
これまでも、何度か泣かせてしまって。姉の心の一番奥に私の言葉が届くから、そこがじわっと温められ、涙となって出てくれるんだろうな。この場で姉に伝える練習をさせてもらおうか。
「オリンピックの野球、子供の優待チケットで日本戦が横浜スタジアムで当たったんだよ。でも次の日に無観客になっちゃってね~。横浜スタジアムで、お姉ちゃんが高校野球の神奈川県大会の決勝に誘ってくれた時、やっぱり一緒に行きたかったなとか、いつか行けたらいいなとか今元気にしているかなといろんなことを思ったよ。お母さんに、お姉ちゃんから連絡途絶えたのはなぜだろうって何度も聞かれたから、推測だけど伝えておいた。『“今”のお母さんではなく、“過去”のお母さんのことで掘り下げてきっとまた辛い思いをしているのだと思う。自分ととことん向き合うって時にどうしようもなく苦しい時があって、その痛みはお姉ちゃんにしか分からないものだからそっとしてあげてほしいって。』お姉ちゃん、ここまでくるの大変だったよね。親になるって、私達にはあまりにも難しかった。でも、試行錯誤しながら沢山失敗して、笑って、なんとかなっていて、そんなことを幸せって呼んだりもしてさ。周りの人達ではなく、私はお姉ちゃんと1対1で向き合い、時に大泣きして、喧嘩もして、お互いの豊かさを尊重し合えたことを誇りに思う。大して悪いことをした訳じゃないのに、暗くて狭い押し入れの中に入れられて、悲しかったよね。おかげで私は閉所恐怖症。それでも、お姉ちゃんと一緒にいられて不安は和らいだ。その辛さ、分かるよ。だって妹だもん。沢山守ってくれたから、お姉ちゃんが辛い時にはそばにいる。」真ん中のでっかい氷に向けて、でっかい愛を投げたら、溶けてくれるだろうか。