みかんの美味しい季節。毎晩、食後のデザートにみかんを食べることを楽しみにしている息子は、この間もウキウキでむき始めました。「ママ、みかん電車ができたよ。今日はね、三つに分かれた。」「ああ、三両編成なのね!大きいみかんと小さいみかんがあるから、みんな家族だ。」そんなことで盛り上がっていると、一番大きいみかんをパクッ。「お父ちゃんが食べられちゃった~。」と私が騒ぎ出すとツボに入った息子が噴き出しそうになり、大騒動。「ママが面白いこと言うからでしょ!」と怒られてしまい、今度は一番小さい子供みかん。そして、お母ちゃんみかんも食べられてしまい、「みんないなくなっちゃったね。」と言うと、「大丈夫。ボクのお腹でみんな一緒だから。」と言われ大爆笑。粉々やないか!!
そんな微笑ましい時間の中で、ざわざわした気配が感じられた一本の連絡。それは母からのものでした。最近落ち着いていたので、安心していたら、随分マイナスの要素を含んだ内容にすっかり油断していたなと冷静に反省しながらも凹んでしまいました。具体的なことに触れていなかったものの、父とのいざこざだということはすぐに分かり、情けなさが埋め尽くされ、書きながら最後は笑い話になるといいなと願いを込めてパソコンに向かっています。負の雰囲気丸投げの電話を受け取り、重たいメッセージを受け取り、父が冷たい態度を取れば、母が不安定になり、娘の私が全部受け止めてきたことぐらい分かるはず。面倒臭くなると相手の気持ちを見ようとしないのも父のパターンで、私との約束はどこに行ってしまったのだろうと、さすがに今回のダメージは大きかったようです。「お父さん、今度私を怒らせたらもう後はないからね。」最終通告を出し、父もよく分かった上で母との同居を決めてくれていました。
以前、保険会社の営業マンの友達と話した時の会話が蘇ってきて。「父が女性に走っても、100%気づかれない自信があったらそれでいいんです。でも1%でも危ないと思ったら、やめてほしい。外で遊ぶなら徹底してって本気で思います。」そんな話を驚くほど落ち着いて伝えた私に彼は言ってくれました。「もっと上手にやってくれたらいいんですけどね。分かりやすいから余計にお母さんが悲しくなってしまうんでしょうね。僕、どんな親の姿を見ても、Sさんには幸せになってもらいたいです。あなたはあなたですから。」名古屋のカフェで、そんな言葉をかけてもらい、注文してくれたスイーツも、堪えた涙の味しかしなかったのだけど、親と自分を切り離してこちらのことを見てくれるそんな優しさに助けられました。いつもおんぶに抱っこ、私のバックにはどうしようもない両親がいて、一部分だけ見たら腹が立つし情けないけど、いい所もいっぱいあって、だから頑張ってこられたのだけど、それでも卑下してしまう自分がいて、そういったことを全部分かった上で、あなたはあなただと言ってくれたその言葉に張り詰めていた心は、少しだけ和らいでくれました。誰かが同じような状況の時、私もその人そのものを見られる人であろう、そんなことを思ったような気がしています。
そして姉と、父がなぜモテるのかという議題で、本気の電話対談をしたことまで今回のことで思い出されて。「なんでお父さんがあんなに若い女性にモテるのか、さっぱり分からん。」という姉。「私は少しだけ分かってしまうんだよ。お父さんってさ、あまり多くを語らないでしょ。で、話すとちょっと知的好奇心がくすぐられるんだよ。相性の問題もあるかもしれないけど、何気にあの人は女性のツボを知っているかもしれない。」「そお?頭がいい人なんてゴマンといるよ。」と相変わらず辛口の姉。「お姉ちゃんには黙っていたんだけど、K君がね、お父さんと彼女を見かけたことがあって、お姉ちゃんと間違えたんだよ。その後、私もその二人が車に乗っている姿を目撃してしまったんだけど、私もお姉ちゃんに間違えそうになったの。セミロングで、品のある女性だった。」「・・・。なんでもっと早く言わないの!っていうか、どれだけ若い人と付き合っているの?S、本当に気にしたらダメ。真面目に考えている方があほらしくなってきた。私達はさ、家出ができる実家はないけど、一人暮らしができるぐらいの力は付けてきたんだよ。図書館は日本全国どこにでもある。大丈夫だ。何とか生きていける!」と最後はいかにも姉らしい慰め方で締めくくってくれました。
「歯医者さんに行くと、歯をガリガリされるじゃん。あの音がとっても苦手で、いつもガッちゃん二匹を頭の中で思い浮かべているんだよ。そうすると笑えてきて、何とか嫌な時間が終わる!」なんて以前話してくれるものだから、歯医者に行く度に私もガッちゃんが出てきてしまい、一度本気で吹き出し大変でした。いやなことをどう好転させるか、いつも姉にしか投げられない球を私のストライクゾーンに投げてくれていた彼女。今回のことだってきっと知ったら呆れながらも笑い飛ばしてくれるはず。たまたまうちの親だったというだけの話で、あんたには関係のないことだと。
そして、いつもならドロッとした気持ちだけ投げられ、痛い思いだけで終わるはずの母が、メールで伝えてくれました。『一部分だけを見ない、角度を変えて全体を見てみると楽になることもある。あなたのそんな言葉で勇気づけられました。あなたの考え方や、ものの見方が先生になっています。普通は反対ね。親が先生なのにね。頼りない親ですみません。』母の一滴。前よりも私の言葉が届くようになってくれていました。具体的にどんな言動だったかはっきり娘に伝えたら、Sがもっと傷つく、だから弱音は吐いても明言を避けてくれた母。薄い氷一枚の所で堪えてくれたのが分かりました。負のオーラは相変わらずでも、そんな気遣いを何よりも大切にしていきたい。心に残すのは後者の方。
どう?笑い話に変わった?悲しみの淵にいるよりも、面白いことを探したらちょっとだけ元気になった、そんなことの繰り返し。「お父さんが好き勝手やるから、お母さんの心が壊れたんだよ!それをフォローするのは全部私だった。どれだけの思いをしてきたか分かる?これまでの時間、返してよ。」大泣きして電話で父に本気で怒った数年前。「本当に悪かった。辛い思いをさせてごめんな。」その時の父の言葉で全てを許したくなった時。あの言葉が本物だと今でも信じたい。絆ってそういうもの。