息子とボウリングへ行った年末、案内された席へ座ると、向かいにいたのは一人で来ていたご年配の女性。よく見ると、マイボールを持っていて、黙々と投げるその姿に感動しました。常連さんであることは間違いなく、フォームもとても綺麗で。こんな歳の重ね方、素敵だなと思いながら息子と投球開始。久しぶりだったのでコントロールが定まらず、それでもお互い後半になると感覚を取り戻し、私がスペアを取ると、隣の女性が手を叩いて喜んでくれました。お礼と共に会釈で返すと、彼女も嬉しそうにしてくれて。そして、息子が投げた球が惜しくも1ピン残すと、一緒に悔しがり優しい時間が流れました。気が付くと帰り支度を始めたのが分かったので、去り際にさようならとお辞儀をすると同じ温度で返してくれて。なんだろう、その一瞬に人の気持ちが凝縮されているようで、こんな風に心を通わすひとときにエール交換しているのかなとほっこりした別れ際。こうありたい自分の老後を見せてもらえたのかもしれないな。いつか一人で胸を張って歩き出そう。
今回の冬は、太平洋側は乾燥が酷く、連日重い頭痛に悩まされ、それは息子も同じでした。ということは、ぶつかる回数も増え、本当にもう試行錯誤の連続で。それでも当日中にはお互い落ち着き、ほっとして寝かせると、なぜか随分前の出来事が思い起こされました。それはとても寒い日、母が契約していた保険会社の担当者さんから一本の電話が入った時のこと。母の精神状態が不安定な時、私が既に関東に来ている時に契約したことが分かったので、ちょっと心配になって営業の方には小田原駅で会わせてもらったことがあり、それ以来の友人でもありました。この人は信頼できる人、直感でそう思い、何かあれば連絡くださいとパイプは繋いでおくことにして。その方から、電話が入った時、母のことで直接話したいことがあるから帰省する時に名古屋で会えないかと言われ、待ち合わせをさせてもらいました。良くないことが起きている、それはもう電話の口調で分かって。そして、実家に帰る前に、対面させてもらいました。まず、年末の忙しい時にお時間を作ってくれてありがとうということ、そして、母のメンタル不調は悪化し、よく分からない所に投資しようとしていること、それを止められるのはSさんだけですよと言われ、なんだかもういろんな気持ちがどっと押し寄せてきました。「Sさんがいなくなり、お母さん、本当に寂しいようで話を聞いてくれる人がみんないい人に見えてしまうみたいなんです。でも、ここでSさんが強く反対してしまえば、その反動でお母さんはもっと深みにはまる気がしているんです。だから、優しい口調で、寂しくならないような言い方で今の現状を止めてあげてもらえませんか。」情けなさや、ここまで関わってもらった申し訳なさや、感謝や悲しみなどが大きな渦となり濁流を感じました。そして、目の前に座っているこの人は、こちらの長年の苦悩を分かってくれたんだなと。「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてしまいすみません。父に話しても、きっと母に怒鳴って事が悪い方に進むのでやめます。姉は不妊治療中なので、とてもこの話はできません。祖父の財産は、何もない所から築いたもので大した額ではないかもしれないけど、守りたいって思います。母とはゆっくり話します。○○さんにここまでしてもらって申し訳なくて。」そう言って、目に涙を溜めた私の表情を見て伝えてくれました。「Sさん、友達じゃないですか。小田原駅で会った時から、僕はそう思っていますよ。お母さんといろんな話をして、Sさんがどんな思いをしてきたか、僕なりに分かったつもりでいます。守秘義務があるから、言える内容は限られますけど、今回の話は伝えた方がいいと思いました。」リスクを背負って守ろうとしてくれる人がいて、苦しい時に手を取ろうとしてくれる人がいて、衝撃的な辛さよりもこういう時に届けてくれた人のぬくもりを絶対に忘れないでおこうと思いました。本当になにもかも投げ出したくなった時、きっと思い出すから。
その後、実家に帰り、母の光になればとうちの近くのマンション購入を提案しました。まだまだ祖父の介護で先が見えない中、そのトンネルの先には希望があるよ、そして私もそばにいるよと。せっかく離れたのに、また背負う覚悟でした。それにより、母の心は少し安定してくれました。その決断が正しかったのか、それはまだはっきりとイエスとは言えないのだけど、父も同居し、またひとつの家族の形になったことを祖父はどこかで喜んでくれている、そんな気がしています。保険会社の友達もまた、ご両親のことで沢山悩んできた人でした。だからこそ、寄り添い伝えてくれた深い優しさを、この先も大切に持って進もうと思います。
外に買い物があり、息子が幼なじみのD君と遊んでいる公共施設の横を通ると、二人がテーブルを挟み満面の笑みで会話をしていました。ガラス越しから、そのあたたかい温度が伝わってきて。人とのご縁は財産だ、その意味をもう分かっているのかもしれないな、二人の笑顔を見てそう思いました。そして別の夜、今日は何人で遊んだの?と聞くと、メンバーを教えてくれて。「今日は意外な子が混ざっていたんだよ~。」「え?誰?!」「○○ちゃん!」ああ、学校イベントの受付で一緒にハンコを押してくれた女の子!「ゲーム機持ってきて、一緒にマイクラやったの!」紅一点、なんだかかわいらしいな。男子にまみれて、一緒に遊んだ学生時代の自分と重なった。息子に伝えたいこと、本当はもう届いているのかも。年輪、そこには沢山の人や時間や経験が詰まっている。蜜の濃い木、時々嵐が来るのだけど、どんな時も空に向かって立っていたい。