胸の奥に残っているもの

冬休み、ようやく時間ができたので、息子の卓球用ラケットのラバー替えをしに行く為、長距離のサイクリングが待っていました。顧問の先生から、そこのお店がいいよと提案されていたので、予め調べ迷わず向かうことに。そして、ようやく到着すると、ご年配のご夫婦と常連の男性が談笑をされていて、昔ながらのお店にほっこり。ラバーを張り替えたいと伝えると、奥様のマシンガントークが待っていました。圧倒される息子、思考が追い付かず困惑しているのが分かったので、まずは二人で相談させてもらうことに。どうやらスピードや回転など、何を重視するかで選ぶものが変わってくるよう。すると、これだと思うものが見つかったらしく、あっさり決めてくれたので赤と黒で両面をお願いしました。手際よくその場で張り替えてくれたご主人、半年ぐらいで替えに来てねと色々世話を焼いてくれた奥さん、その様子を微笑ましく見ていた常連さん、あたたかさをもらったいい時間でした。お会計を済ませ、新しくなったラケットを受け取り、お礼を言ってお店を出ることに。「ママ、ありがとう!」それなりに高い出費だったのだけど、その言葉で十分。冬の大会前に連れてきてあげられたら良かったね、息子のおかげでまたひとつ世界が広がったなと嬉しくなって帰宅しました。怒りをラケットにぶつけるのではなく、苦楽を共にして一緒に戦う、そのマインドがあればきっと大丈夫。

今日は、息子と早めの昼食を食べていると、ピンポンが鳴りモニターを見ると父が映っていました。慌てて玄関に行き、ドアを開けると伝えてきて。「今から一緒にランチに行かないか。美味しい定食屋さんがあるんだよ。」「ごめんね。もう食べ始めているの。」「そうか。じゃあこれ。」そう言って芋けんぴを渡され、食事中ごめんな~とあっさり帰っていきました。手にはスマホがあり、相変わらずポケモンGOをやりながら様子を見に来たらしい。車でいきなり来るのではなく、まずはワンクッションと思ってくれたことが有難く、何かしら和菓子を届けてくれる父の配慮に変化が見られました。仕事を完全に引退し、何かホールができたのだろうと。その気遣いを母に向けてあげてねと思った優しい昼の出来事でした。父が知らないことも、本当に随分あるんだよな。
息子が直前になりあれがないこれがないと騒ぎ出す日常の中で、ポンと過去の出来事が映像と共に流れ出しました。それは、私が中学1年生の時のこと。課外学習であらかじめ持ち物の一覧をもらっていたものの、前夜にレインコートの見落としに気づき顔面が蒼白になりました。どうしよう、忘れていたと大慌て。今さらそんな話をしても、母は助けてくれるどころかあなたがなんとかしなさいと怒鳴ってくるだけだ、だったら自分で解決しようと頭をフル回転させました。お小遣いはいざという時の為に貯めておいた、持っていて良かったと安堵し、近くの文房具屋さんに行ってくるとだけ伝えさっと家を出ました。日は落ちたけど、ぎりぎりやっている時間だと自転車を漕ぎ、急いでお店の中へ。すると、30代のご夫婦が営むお店がちょうど閉まるところで、なんとか間に合い説明させてもらいました。「明日遠足でレインコートがいるんです。ありますか?」と。すると、申し訳なさそうに伝えてくれて。「ごめんね。うちでは取り扱っていないの。それでは困っちゃうよね。」そう言ってご夫婦が何やら話し始めて。「あのね、ここから近くの文房具屋さんにもしかしたら置いてあるかもしれない。もう閉まっていたらごめんね。今なら間に合うかもしれないから、行けたら行ってみて。」二人に何度も謝られ、わざわざお店の外まで出て道を教えてくれました。その好意が本当に有難くて。お礼を言い、急いで別のお店へ。暗いし雨は降ってくるし、心細いしで泣きそうだったのだけど、それは悲しいだけじゃなくて、母は冷たいのに赤の他人がこんなにも優しくしてくれるんだなとそのギャップにいろんな気持ちがこみ上げたものでした。その後、教えてもらった文房具屋さんはやっていた中、レインコートは見つからず、さすがに諦めようかと思ったその時、急に思い出して。いつも行くコンビニの入り口辺りに置いていなかったっけ?そう思い、だめ元で入ってみると、直感はあたり2軒の文房具屋さんよりも家の近くであっさりゲットでき、自分に笑ってしまいました。灯台下暗しだな、でもすぐに見つけていたらご夫婦の優しさに気づけなかった。悲しかったことよりも、嬉しかったこと、その割合が9対1だったとしても助けられたことを覚えていたいなと思いました。そうしたら、私の心はひねくれないんじゃないかと。
その後、遠足は無事に終えることができ、楽しく帰ってきました。そして、後日また文房具屋さんへ行き、その日のお礼とコンビニで見つけることができたとご夫婦に話すと、一緒に笑ってくれて。私達もその視点は持てていなかった、いい遠足になって良かったねと。人のぬくもりをこの場所でも教えてもらいました。いつも鉛筆から、木の匂いが漂う店内で。時代が進み、私も成長し、いつの間にか文房具屋さんは閉店してしまっていました。何とも言えない寂しさと、消しゴム一個を買いに来ただけなのに優しく迎えてくれたご夫婦がいて、その気持ちは忘れないでいようと。中1の息子がいて、中1の自分を思い出した、木の匂いが好きだった理由がここにもあったね。

高校時代、部活で茶道の表千家を学ぶ中、不完全なものを美とする考え方を教わりました。内面の豊かさとはどういったものなのか、ずっと考え続けてきたような気がしています。大学図書館勤務時代、傷んだ本の装備をすることもあり、和紙を使った時に何とも言えない味が出た時がありました。人の心もうつろい、四季があり、色があり、温度があり、それぞれに違っていて、一生をかけて自分のストーリーを完成させていくのかなと。その時々に、傷んだ箇所があり、でも時間をかけて向き合い不格好でも和紙が貼られた時、またそこにらしさが表れたりもするのかな。自分の中にあるもの、きっと全てが大事なオリジナルだ。