プラスを自分の中へ

梅雨の末期、自分の状態が思ったよりも悪く、睡眠も思うように取れなかった日曜日。息子が仲良しのD君と午後から遊ぶ約束をしてくれていたので、助かった~と思いながら、笑って玄関まで送り届けました。「雨が降ってきたら帰っておいでね。もしいなかったら近くの○○に買い物に行っているから、あまりにも遅かったらそこまできてね。行ってらっしゃい!」そう言ってバイバイ。買い物を先に済ませようか、少し休もうか迷ったものの、あまりにも目が回っていたので一旦休むことに。それでも、なかなか寝付けないでいると、玄関でガチャガチャ音がしたので慌てて起きると、息子が帰ってきたことが分かりました。「どうしたの?」「D君に会ったら、神社でお祭りがあるって教えてくれて、お金を取りに来たの。早く戻らないとママが買い物に行ってしまうと思って慌てて帰ってきて、いてくれて良かった~。」「それは自宅にいて良かった!せっかくのお祭りだから楽しんでおいでね!」そう言ってお金を渡すと喜んでまた出かけていきました。小銭を握りしめて友達と向かったお祭り、その音は、そこで見た景色や匂いは、大人になってふとした瞬間にきっと思い出すから。年中の時からのD君、息子のそばにいてくれてありがとう。まだそこまで仲良くなかった頃、私がいつも遅めに幼稚園までお迎えに行くと、D君とお母さんが下駄箱でさりげなくこちらの様子を伺っていました。こちらの都合もある、ぐいぐいいったら迷惑になるのではないか、そんな配慮が感じられ、それでも明らかに待っていてくれるのが分かったので、話しかけてみることに。すると、「うちの子がR君と遊びたいと言っていて。」と控えめにお母さんが笑いながら教えてくれました。「あら、待っていてくれてありがとう。せっかくだから一緒に遊んできて。」そう言うと、私に荷物を全部預け、二人して猛スピードで園庭へ。その時育まれた友情は、5年生の今も変わらずそこにあってくれて。そのまま社会人まで続いてくれたら素敵。

翌月曜日、重い体を起こし、息子を送り届け、気持ちを上げて行こうとエンジェルスの試合を点けてみたもののオールスター前でやっていないことが判明。さあどうしようとチャンネルを変えると甲子園の予選がやっていて、懐かしい記憶を連れてきてくれました。高校3年生の夏、野球部が活躍してくれて、愛知県大会をどんどん勝ち進み、友達と制服を着て応援へ行くことに。電車に乗り、3塁側の内野スタンドに入ると、吹奏楽部がコンクールに出ていて不在だということが分かりました。すると、ベンチには入れなかった野球部のユニフォームを着た1年生や2年生がその場を仕切ってくれることに。「応援に来てくれてありがとうございますっ。僕達が前の方でメガホンを持って応援するので、それについて来てください!一緒に盛り上げましょう!!」なんて頼もしいんだ。2年生の時に担任だった野球部監督の先生、いいチームを作っていたことが内野スタンドで分かり、胸がいっぱいになりました。そして、野球部の声援と共に黄色い声を上げると、チームはサヨナラ勝ちで大歓声の渦に。次の対戦では、吹奏楽部のみんなも駆けつけてくれて、今度は1塁側の内野スタンドへ。サウスポーであるエース君の表情がマウンドで見られて、みんなが安心しました。そして、試合の途中で演奏してくれたのは、校歌でなんだかぐっときて。学校全体でなんとなく不評だった校歌、その曲が野球のグラウンドにまで響き、みんなが肩を組み一緒に歌うと、学校がひとつになったようでした。とても厳しい進学校、毎朝のように小テストがあり、進学するのは当たり前の風潮。ギタリストになりたいとある先生に話した男友達は、もっと現実を見ろと言われたんだそう。このガチガチの校風に、みんなどこかで嫌気がさしていて、でも3年間の我慢だなんて思っているところがあって、そんな毎日の中で、全校生徒だけでなくOBやOGまで駆けつけ、みんなで校歌を歌った時、この高校の生徒でいることを誇りに思いました。入学できて良かったなと。我慢の3年間ではなく、心が震えるそんな時間があって、野球部が一段上の世界にみんなを連れて行ってくれたようで、堪らないひとときでした。その感動を持って大学へ。

4年生になり、中学へ1か月の教育実習へ行くことに。始まる数日前、中学へ挨拶に出向くと、社会科の30代の男の先生があたたかく迎えてくれました。すると、教室の窓を開け、外にいた野球部男子に何やら叱っていて。「すみませんね~。実は僕、1年A組の担任で野球部顧問なんです。」出た!野球部!!やった~と心の中で小躍りしたのを気づかれないように、にっこり自己紹介。そして、実際に実習が始まるとクラスの男子に野球部員が多く、どさくさに紛れて顧問への不満をこちらに話すので、聞かなかったことにすると笑いながら応対しました。感激の時間はあっという間に過ぎ、大泣きしてみんなとお別れ。その後、野球部の練習試合の日程と場所を聞いていたので、車で出向き、観客席に入ると、ユニフォームを着た1年生の男子君が気づいてくれて、何やらひそひそ。「あれ、○○先生じゃね?」「あ、ほんとだ。この間、めっちゃ泣いていたよね。」聞こえているわ!!と思いながら、様子を伺っていると1人の部員が近くにいた顧問の先生に知らせてくれました。「来てくれたんですね!1年生はまだレギュラーじゃないんだけど、良かったら観ていってください。」そう言っていつもと変わらない温度でご挨拶。すると、また男子達が「お前が行けよ。」「え~。」と何やら作戦を立てながら、1人の部員が飲み物を持ってきてくれました。「あの・・・これどうぞ。」ほんの数週間前まで一緒にいたのに、随分照れながら渡してくれる少し大人びた姿に笑いを堪えながら、お礼を言って受け取ることに。なんでもない優しい時間、それでも私にとって教育実習のエピローグである大事な一日でした。そのストーリーの最後はどう締めくくろうか。

澄み切った空の下で、彼らのユニフォームが輝いて見えた、それは私の目が潤んでいたからかもしれないし、夕日のせいかもしれない。野球が好きだという気持ち、お互い持ち続けようね、じゃれ合っている彼らを見て心の中で呟いてみた。先生、これで本当のお別れ、ありがとうございました。頭を下げ、球場を後にし、車の中で微笑んだその時の想いはずっと続いていたんだ。野球場は私の宝石箱、今までもこれからもずっと。