次のステージへ

重い体の中で、少しずつ体力を付けるためにも家事こなそうとしていた夜、姉からの大きな荷物が届きました。開けてみると、てんこ盛りの焼き菓子が。その量が、これまた彼女らしい。そして、お礼のメッセージを送ると、伝えてくれました。『多すぎるかなと思ったけど、毎日家にいるからティータイムの楽しみにして貰えると嬉しいです。なくなる頃には全快してますように。』優しさも箱の中に詰め込んでくれたこと、知ってるよ。そして、退院前に私がアクセルを目一杯踏まないように、気遣って伝えてくれた言葉を思い出しました。『母ちゃん業、多少手を抜いても子供は元気で笑ってるママが大好きだから大丈夫』母ちゃん業って・・・。本当に大切なことをピンポイントで届けてくれる姉の心には、妹を想う気持ちがいつもあってくれたのだと嬉しくなりました。会ったら、話したいことが溢れ出しそうです。

そして、改めて担任の先生にも無事に退院をしたご連絡。詳細を話すと、とても安心してくれました。「R君とも二人で話しました。自主勉強も頑張って毎日出していましたよ。実は、おばあちゃんからもお手紙をもらったんです。」は?「お返事を書いたら、またその返事を頂きました。とても嬉しかったです。」なに孫の担任の先生と文通しっちゃってるの?と思いながら、先生と笑えてきて。「またこれから薬物療法に入るので、Rのことは自分でできているし、放っておこうと思います。」「いいと思いますよ!まだ大変だと思うので、お体お気を付けくださいね。」そう言われ、お互いを労い通話終了。影の応援団、人の気持ちがこうやって輪になって広がっていく。自分の経験を話すことで、また別のお母さんの助けに先生がなってくれたなら。

その後、天気のいい日にはお散歩をし、調子のいい時には記事を書き、外来の日がやってきました。お気に入りのコートを着て、メイクもバッチリ。検温もして、病院へ向かい、待合室で待っていました。前に来た入院前は、毅然としようと必死だったな、そんなことを思いながら。すると、近くに座っていたのは、そこの病院の女医さんでした。婦人科の先生に用事でもあるのかなと思っていると、名前を呼ばれ診察室へ。仕事の合間に患者さんとしてきたのかと思うと、誰にでも起こりうる病気なのだと痛感させられて。どうか、元気になってまた患者さんを助けてくださいね、出てきた女医さんの背中に向かって心の中で呟いてみる。そして、先生に呼ばれご挨拶。「どう?痛みは?」「大分落ち着いてきました。」笑顔で伝え、超音波検査へ。画像を見せて頂く中で、小さな卵巣を指してくれた時、息子がまだお腹にいて悪阻で苦しみ、辿り着いた産科でくるまっている赤ちゃんの画像を見せてもらい、泣きそうになった時のことが蘇ってきました。「右側の卵巣も、問題なさそうだよ。」「はい、良かったです。」安堵と共に先生に伝えると、私の気持ちを察したのか微笑んでくれました。今からお腹押すよと言われ、ぐっと左側の下腹部を押されたのですが、痛くなくて驚きました。あんなに痛かったのに。何人もの先生に押され、その度に激痛が走り凹んでいたことが嘘のように、痛みが無くなっていました。喪失感よりも、感謝がこみ上げてきて。そんな気持ちでいたのも束の間、「足に何付けているの?」と聞かれ、「足用カイロです!」と答えると、「そんなのあるの?」と笑われ、近くにいたご年配の看護士さんも、「先生、今あるんですよ!」と会話に混ざってきて大盛り上がり。「へえ!」と先生。「冷えるとさらに痛みが悪化していたので、使っていたんです。」「冷えると循環しないから、そりゃ痛いよね。」と納得され、その痛みを解放してくれたのは先生ですよと拝みたくなりました。さらに、傷口のテープを豪快に剥がしてくれて、手術が少しずつ遠くなっていくようで。「今日から湯船に浸かっていいよ。」「やった~!待っていたんです~。」と素直に答えると、また笑われてしまいました。

改めて診察室で面と向かい、正式な病理検査の結果も良性で、一緒に喜んでくれました。いい先生だなと。そして、予告通りの薬物療法へ。「子宮にまでくっついてしまっていて、とにかく酷かったから、右側の卵巣がまた悪化しない為にも、一年間ホルモン治療をするよ。副作用は、不正出血や吐き気などがあるかもしれない。でも、服用してもらうしかないから、まずは様子を見て行こう。」先生が残してくれた道だから、頑張らなくては。どこまででも付いていきますよ、そんなことを思っていると、退院問診で伝えてくれた言葉が蘇ってきました。「色々な患者さんがいるよ。」と。その言葉に含まれていた意味が分かり、胸が潰されそうになりました。あなたは良性で本当に良かった。でもその裏側には、がんで苦しみながら頑張っている沢山の患者さんがいるのだと。
血液検査の腫瘍マーカーの数値で、ここからはがんの可能性であるという数字がくっきり出てしまっていました。それを、初対面の時に先生が見せてくれた時、ある程度覚悟を決めました。そして、実際に結果は良性。それでも放っておいたら悪性になっていたかもしれない腫瘍。紙一重とは、そういうことなのか、それを重く受け止めなければと。先生を通して感じる沢山の患者さんを思い、泣きたくなりました。私に何ができるだろう、そのことを考え続けようと思っています。

「じゃ、4週間後にまた来てね。元気でね!」先生と仲良くなりすぎと思いながら、笑ってお別れ。この先生のこんな穏和な笑顔で、一体どれだけの患者さんが勇気をもらったのだろうと、そのまま家に帰りたくなくて、勢いでスタバへ。カフェラテを飲んだ時、体中に沁み込み、その一口がどうしようもなく美味しくて、大きな山を越えたのだと思いました。そして、夕飯の後に飲んだ最初の薬。一気に目が回り、気持ちの悪さに襲われ、久しぶりの湯船もいまいちでした。それでも、次のステージへ。沢山の応援の中で、用意された道だから副作用がきつくても進んでいく。
「○○さん、良性!良かったね!」手術室で麻酔から覚めた時に、かけてくれた先生の、優しさに溢れた言葉を忘れない。暗いトンネルの先に光が見えた時。その瞬間を包んでくれた麻酔科の先生達の温かい雰囲気も全部、力に変えていく。