どこかで繋がる道

梅雨時期の息子のテスト勉強は、分かっていたのだけど苦戦していたので、一人になった時、少し遠回りをしてから仲良くさせて頂いている住職さんのお寺へ向かいました。前回は、きゅうりやトマトをもらい、なんだか気を使わせてしまったなと思っていたので、今回はお賽銭を入れた後、そうっと綱を取りほんの少しだけ音を鳴らしました。シャリン、出るか出ないかぐらいの小さな音、するとドアが開き、住職さんが迎えてくれて笑うしかなくて。音というより、人の気配を感じたのではないかと。温度?そう思っていると、こちらの顔を見るなり、「元気~?」と笑顔で聞いて頂き、ほっこりしました。「こんにちは!元気です~。この間はお野菜をありがとうございました。美味しかったです。」「今日はじゃがいも持っていく?」そう言われ、爆笑してしまって。住職さんを慕い、お届け物をする方がきっと絶えないのだろうと。そのお気持ちを私が何度も受け取らせて頂く訳にはいかないと思い、丁重にお断りをさせてもらいました。すると、いつものように縁側のような場所に腰を下ろす住職さん。私との長話はもう自然なことなのか、嬉しくなりました。ふんわり大きな方、今日もその世界へ、そして道が繋がった。

こちらが、住職さんがこれまでどう歩いてこられたのか、少し学んでから来ていることを知り、いろんな話をしてくださいました。そして、四国の話になり、足摺岬で盛り上がり、ちょっと待っててねと言われ、地図帳を持って戻ってこられるので笑ってしまって。日本地図にはいろんな印が入っていて、大学4年の教育実習で使った地図に似ていたので、胸がいっぱいになりました。そして、鎌倉時代や明治維新の話にもなり、もし日本史専攻だったと話したら、きっと喜んでくださるだろうなと。それから、なぜか畳の匂いを思い出し、ああ!と記憶が蘇ってきました。私が行っていた幼稚園は、確か仏教系でした。理事長先生は、時々袈裟を身に纏っていらっしゃったとぼんやり思い出して。初めての教育機関でも、仏教に触れていたなんてね。住職さんのことをもっと知りたくて、質問をすると、またいなくなり何やら中でごそごそ。「この本に書いてあるよ~。」とご自身が過去に執筆された本を手渡され、思わず伝えてしまいました。「え?頂いてもいいんですか?」と喜ぶと頷いていらっしゃって。普段なら言わないことを口走っていて、自分でも驚きました。貸すつもりで渡されたのかもしれない、でも受け取った本は新品でした。手垢の付いた本なら住職さんが日々大事にされているもの、おそらくこれはプレゼント用なのではないかと勝手に解釈してしまって。司書だった自分が思いっきり顔を出し、どさくさに紛れて伝えていました。「サインを頂けませんか?今、ボールペンならあります。」「ははっ。筆があるからそれで書いてきてあげるよ。」そう笑って、また退散された時間。どうしてここに来ると、こんなに時が柔らかくなるのだろう、そう思いました。そして、達筆な字で仏教の言葉を記して頂き、ご丁寧に判子も押されていて。インクが隣のページに移らないように、ティッシュペーパーも添えてもらい、大学図書館で勤務していた頃に扱った、貴重書を思い出しました。白い手袋をはめ、大事に大事に取り扱っていた20代の頃。この本が、自分の手に渡るのにはやっぱり何かがあるのではないかと。我が家に貴重書として大切に保管させていただきますね、心の中でそっと届けました。2回目にお会いした時だったか、戦争の話になり、祖父も戦地に行っていたと伝えました。「捕虜になり、大変な中でも帰還してくれました。祖父がもし諦めていたら、今の私はいません。だから、今日という日を、今この時を大切にしています。」そう話すと、ほんの一瞬住職さんの目が見開かれました。私の中にあるものを、感じ取ってくださったのだろうと。ちょっと不思議だけど、自分に関心を持ってくれて面白い人だな、そう思いながら接してもらっていることを喜びに感じています。実は、元々司書で、社会科の教員免許も持っていると話したら、さらに笑ってくれるかもしれない。

今思えば、生後一週間で亡くなった母の兄、伯父さんは私の中でいつも話し相手でした。家族がみんな別の方を向く、壊れる寸前、伯父さんどうしたらいい?伯父さん、会いたいよ。いつも一人で抱え、でも一人じゃないような気がしていました。そこには祖母もいてくれて、見守ってくれている優しさを感じていて。そして、息子の出産前、陣痛室でへその緒を首に巻いてしまったことに気付いた助産師さん達は、医師と相談し、最善を探してくれていました。出入りの激しかった陣痛室で、痛みと戦いながら一人になると、伯父さんを感じて。「伯父さん、あのね、陣痛が来たらおじいちゃんの生があと少しだと感じてしまったの。息子はへその緒を巻いてしまって、命の危険がある。おじいちゃんにひ孫を見せてあげたいの。男の子を熱望していた。どうか、最後に夢を叶えてあげて。」心の中で届けると、涙が溢れました。生と死がこんなにも近くにあるなんて。おじいちゃんの息子は、私と息子を助け、祖父の最後の夢を叶えてくれました。生後3か月の息子を抱え、帰省し会いに行った深夜の病院。ひ孫を見て、「世代交代だ。」と言ったおじいちゃん。わしの役目は本当に終わった、そう言いたかったんだね。住職さんと出会い、お話をさせて頂く中で、やはり伯父さんが助けてくれたのだろうと思いました。一期一会、全然違う道を歩いてきたのに、お会いすることができた。そんな巡り合わせにやはり感謝したい。頂いた1冊の本、この中にある大事なメッセージに気付くことはできるだろうか。