北海道を歩いた日

機内でりんごジュースとぶどうジュースを飲み、ぬいぐるみ達に景色を見せ、ご満悦な息子。そして、いよいよ着陸態勢に入りました。悪阻が酷く、行けなかった北海道。授かった命が、こんな無邪気な男の子に成長し、その子と共に北海道の地に降りることができるなんて。急降下する機体、もくもくの雲を抜けるとそこには緑の雄大な大地が広がっていて、感極まりそうに。本当に来られたんだ。そして、ゴーという音と共に着陸。「R、着いたよ。北海道!」「やった~!」と二人でわいわい。順番に降り、CAの方達にバイバイ。旭川空港内に入るとすぐに、荷物の受け取り場所があり、それを見た息子が、「回転ずしみたい!」と言うので、私と同じ発想だと笑ってしまい、懐かしい記憶を連れてきてくれました。

そこはカナダ。大学4年の9月、姉の留学先であるカルガリーに母と呼んでくれた日。9.11の後、まだ世界が大混乱している中、姉の用意してくれたチケットを握りしめ、初めての海外へ飛び立ちました。テロの標的になっていないか入念に飛行機の確認が行われた為、フライト時間は大幅に遅れ、ようやく機内に乗り込めた時にはへとへと。長時間のフライトを終え、バンクーバー空港に降りると、何をしたらいいのかさっぱり分からず、とりあえず流れに乗って行こうと思い、前の人に付いていくと、回転ずしの状態でスーツケースが並んでいて笑ってしまって。これを取ればいいのね!と思いながら、適当過ぎる英語でなんとか乗り換えを済ませ、あと5分遅れていたらカルガリー行きの便に乗り遅れていたという珍道中でした。ようやく、姉とホストママに会えて、感激の対面。「お姉ちゃん、もうちょっと海外旅行について説明しておいてよ~。入国審査ってなに?とか本当にもうそんな状態だったんだから。」そう話すと笑いながら、ホストママにも説明を始めたので、「訳さんでいいわ!!」と伝えると、ママも状況を理解し一緒に笑ってくれました。初めて降り立った海外の地バンクーバー空港、そして姉が待っていてくれたカルガリー空港、その時のことが旭川空港で思い出され、優しさに包まれました。乗り換えでアメリカの便に乗って行く方達の悲しい背中を、忘れることはありません。

そんなことを思っていると、回転ずしが動き出し、自分達のスーツケースを発見し、バスの時間が迫っていたので近くにいたスタッフさんに声をかけました。「すみません、旭川駅行きのバスってどこですか?」「出口を出て左になります。」日本語が通じるって本当に有難いなと思いながら、慌ててバス乗り場へ。滑り込みセーフで間に合い、バスはゆっくり発車しました。飛行機の中から見た田園地帯を揺られながら眺めると、嬉しい気持ちがこみ上げてきて。そして、街の中心部、旭川駅へ到着。スーツケースを受け取り、観光センターに入ると、息子がぬいぐるみに一目ぼれをしてしまいました。「ママ、このシマエナガほしい!」「何それ?」「鳥だよ~。北海道で有名な鳥なの。」「なんでそんな事知っているの?」「動物図鑑で見たの。」「へえ~。明日旭山動物園に行ってから考えよう。また来るから。」ととりあえず丸め込み、道を聞いて、ホテルに向かいました。すると途中から雨。慌ててフロントに入ると、温かく迎えてくれた男性スタッフの方。濡れてしまったので、ほっこりしました。その後、お部屋に入ると息子が歓喜。二人で泊まるには広すぎる程のスペースを二か月前から予約。辛い思いをさせてしまった、だからその気持ちが少しでも和らいでくれたらと願い、取った部屋でした。「R、北海道を楽しもう!」そう言ってハイタッチ。どうか、この旅が何年経っても、お互いの心を包んでくれますように。そんな感慨にふける間もなく、息子は走り回り、連れてきたぬいぐるみ達を案内し、そこはもう二人のホームでした。その後、本に載っていた旭川ラーメンのお店へ。雨はすっかり止み、中に入るととても綺麗で、しょうゆと味噌ラーメンを注文。あまりの美味しさに感激してしまい、息子と大盛り上がり。「ボク、人生で食べた中で一番おいしいラーメンだった!」「それは良かった!お母さんもそうかも。」そう言って、満たされながら夜の街を歩き、なぜかローソンのからあげクンが食べたいと言い出し、夜食を買って帰宅。夜ものんびり過ごし、一緒に眠り、なかなか寝付けなかったものの、朝のブッフェに二人で張り切って行きました。息子の好きなマグロや甘えび、旭川ラーメンやメロンなどが置いてあり、テンションはMaxに。ホルモン治療で食欲はなく、睡眠不足で体調はすぐれず、それでも目の前で喜んで食べている彼の笑顔は何よりのビタミン剤でした。全行程無事に終えられますようにとひたすら拝んだ朝の時間、メロンでチャージしたからきっと大丈夫。そんな和みの中、50代の女性スタッフさんが声をかけてくれました。「そのぬいぐるみ、なんの動物かなってずっと気になっていたんです。」「カワウソ親子なんです。神奈川県のズーラシアで買ってお気に入りで。今日は旭山動物園に行ってきます。」「そうだったんですね!シロクマのゆめちゃんに会ってきてくださいね!」ゆめちゃん大人気だなと思いながら、息子と手を振りお別れ。柔らかい一日の始まりをありがとう。

その後、ゆっくりと準備し、バスで旭山動物園へ向かいました。その時、シェアオフィスで桜の木を作ってくれた女性スタッフさんのアドバイスを思い出して。「もぐもぐタイムがあるから、ぜひ見て来てください!」彼女と過ごす明るい時間が蘇り、入園。アザラシのもぐもぐタイムに間に合い、色々な動物を見た後、息子が教えてくれました。「ユキヒョウのユキくん(我が家のぬいぐるみ)、今日は旭山動物園でバイトしてた!」「え~!うちから飛行機に乗ってきたの?」「うん、5時に帰るって。」9時5時かい!!と心の中で突っ込みながら、待ちに待ったシロクマの所へ。すると、ママに添い寝されながら、気持ちよく眠っているゆめちゃんを発見。その光景は微笑ましく、私もお母さんを頑張ろうと思いました。そして、他も周り、最後にもう一度ゆめちゃんを見に行くと、無邪気に泳いでいる元気な姿を見ることができ、感動の対面でした。本当に会えたんだ。「ママ、テレビで見た時よりも大きくなっているね!」「そうだね~。かわいい!」そう言ってずっと二人で見ていました。それから、百獣の王であるライオンと、お腹がマグネットのシロクマとホワイトタイガーを買い、仲間が増えたと本気で喜び帰りのバスへ。旭川駅に着き、昨日見つけたシマエナガは自分のお小遣いで買う!と言い、なかなか北海道に来られないからねと思い、快諾。次に来られるのはいつだろう、それを思った時、目に映る全ての景色が輝いて見えて堪らない想いになりました。空が、街が、緑が、人が、優しく流れていく。目的が達成できた日、旅の終わりまであと少し。