中学の陸上部の顧問がよく言っていたのは、ウォーミングアップとクールダウンがどれだけ大切かということ。いきなり体を動かすのではなく、徐々に体を温めて慣らしていく。そして、使った体を最後はゆっくり冷ましていく。これができないと、結局ケガをしたり、体に無理が生じるようになる。だから、この二つの時間は、必ず設けられていました。もういいよ~と思う程。
母が一時的に退院する日が決まり、これから大変になることを想定し、心のウォーミングアップのため、一凛珈琲に来ました。辛くなった時、ここでの雰囲気を思い出せるように、目を閉じたらジャズの音楽が聴こえるように。
そして、入店すると、時々お会いする女性のスタッフさんが席に座るなり、さりげなく置かれていたお砂糖や、立ててあったメニュー表を端に寄せてくれました。多分、私がノートパソコンを開くことを分かってくれていたから。そんな小さな配慮が、こんな時は沁みます。そこに言葉は無くても、“ゆっくり書いてくださいね”そんなメッセージが聞こえてくるようで、嬉しくなりました。
「注文は後からにしますか?」と聞かれ、一瞬メニューを見てみたものの、結局私がいつものカフェオレと豆サンドを頼むことは分かっていて、それを伝えるとにっこり笑ってくれて。
“知っていましたよ。いつも来てくれていますからね”。そんな内面まで読み取れてしまう。すっかり常連さんの仲間入り。そして、他のメニューは頼めないという嬉しい悲鳴。
その後、豆サンドをガブっと噛んだ瞬間、店長さんが他のお客さんに接客をしに行く途中、私に気づき、「あっ!」と小さな声と共に優しく会釈。私にしか聞こえなかったのだけど、そんなに驚いてくれるとは。こちらも軽く会釈したこと、気付いてくれたかな。いつも窓際の席に座っているので馴染み過ぎなのと、いない時は、ふとこちらの姿をイメージしてくれているのかなと自惚れてみる。
必ず同じ席に座っている方がそこにいなくて、別の方が座っていたりすると、今どうされているのかなと勤務していた図書館の中で思っていました。なんだか、店長さんも感性が似ている気がして、同じようなことを考えてくれていたら光栄ですね。
ウォーミングアップ、できたかな。そして、母の介護をして、二度目の入院の時に、クールダウンにこよう。当分来られないかもしれないなと思うとちょっと寂しいけど、こうやっていくつもクリアしてきた。自分だけが知っているくだらない実績。
行きと帰り。登りと下り。真ん中も重要だけど、アップとダウンも自分の大切な時間。
この間、主治医のところへ行ったら土砂降りで、診察中なのに丁寧に手書きの地図を書いて、濡れない駅までのルートを教えてくれました。家に帰るまでが患者さん?そんな気持ちが、自分を大切にしようと毎回思わせてくれる。
また一仕事終えたら、一息つく為にここに来よう。天井が高いこの空間は、いつも心を満たしてくれる。カウンター奥で、忙しそうに調理をしていた店長さんに呟いて帰宅。
今度来るときも、笑って会えますように。