真っ直ぐな道

まだかまだかと待っていた大家さんの審査。パソコンを広げて、タイピングをしようとしたらかかってきた営業の方の着信で、気持ちを落ち着かせご挨拶。「○○さん、大家さんの審査も通りましたよ!」「良かったです~。なんだかもう全然落ち着かなくて。ありがとうございました。」そう正直に話すと一緒に笑ってくれました。そうですよね、本当に良かったですね、僕も嬉しいです、そんな心の声が聞こえてきました。「引っ越しの日にちをずらしたいということだったので、そちらも交渉になると思うのですが、大家さんに伝えますか?」「はい、すみません。お願いしてもいいですか?」そう言うと、快く引き受けてくださり本当に気持ちのいい方だなと思いました。彼に恩返しができるとしたら何ができるだろう。気持ちのいい借主でいること、そして顔を上げる姿を見せたら、きっと私のような方をまた彼が助けてくれる。

別居をしたいと言い出してから、夫の中で沢山の思いが渦巻き、辛そうにしているのを感じていました。同じ空間にいて私も辛くなり、それでも三人にとっていい選択なのだと思うと、迷いはなくなって。今回、正式に入居が決まりほっとしたのと同時に、これで良かったのだと思えたらお腹が空き、自分に笑ってしまいました。長い戦いだったのかな、どうなんだろう、振り返る間もなく息子との冒険が待っているから、引っ越し先でようやく落ち着いた時に考えてみることにしよう。初めてマンションを見に行った時、自分でドアを開ける前に、先に入った営業の方がドアを開けてくれたと同時に光が射し込み、胸がいっぱいになったことを思い出しました。リビングに続く真っ直ぐな廊下に明るい色が目に入り、何とも言えないいいものを感じて。直感を信じて良かった。諦めなくて良かった。何度も掠めた姉の言葉。「お母さんが抱えている心の障害は素人のSがどうにかできることじゃないの。“死にたい”っていう言葉で娘を繋ぎとめて、私は許せないし、それはもう専門家に委ねるしかないんだよ。Sじゃだめなの。」現実を受け止めなさい、今どれだけ苦しくても、離れることはお母さんのためでもあるの。そんな姉の気持ちが裏側から聞こえてきました。夫が抱えている心の障害、それは母と少し種類が違うものなのだけど、この選択が彼の未来を照らしてくれると願っています。最後の話し合いの時、爆弾を落とした後に伝えました。「私はあなたのある気質に気づいた。一人になってどうしようもなく辛くなった時、もし良かったら連絡してきて。」そう話すと、微かに頷いてくれました。今伝えたところで反発にしかならないだろう、でも、打ちひしがれてどうにも前に進めなくなった時、光を探してくれるんじゃないかなと。男だからというプライドが邪魔をする気もして、プログラマーのMさんにも伝えておきました。「友達としていくらでも話は聞くからと、前に飲んだ時に伝えてあるから。」そう言われ、泣きそうに。こんな彼の優しさに支えられこのサイトは土台が作られているんだな。

両親と息子と4人で旅行に行った帰り道、ふと母が車の中で聞いてきました。「そういえば、K君元気?」と。急に話題に出すのでちょっと驚いていると、伝えてくれました。「あの子がよく行っていたゲームセンターにSと顔を出したら、山盛りのメダルをくれて楽しくてね。本当にいい子よね!」そんなことあったっけ?!とこちらがすっかり忘れていた話をされびっくり。「K君ってだれ?」と息子。「お母さんの友達なの。みんなに優しいんだよ。名古屋の友達。」こんな言葉では語り尽くせないマブダチなんだ。大学を中退して、ふらふら車の旅に出たかと思ったら、またゲーセン通い。そこの店長さんに気に入られ、気が付くとアルバイトをやっていて、制服を着て働いているものだから大笑い。メダルが使い切れずお店に預かってもらい、後日やりに行くと、少量だったはずのメダルはバイトのK君の手により、カップに一杯入れられ渡されました。「こんなに無かったよ。」「うるせえな。店長に怒られんだろ。早く行けよ!」そう言って知らん顔をされ、身分が変わってもどこまでも彼らしく嬉しくなりました。その後、お客さんにも気に入られ、あっという間に就職が決まっていて。K君がいつも大事にしている“人”。危なっかしいのに、ご縁はいつも彼の味方で、そんな姿を見る度、世の中捨てたもんじゃないなって笑わせてくれます。卵巣がんの疑いが出た時、死ぬことが怖いんじゃなかった。自分を大切に思ってくれている人達が、辛くなってしまうことが悲しくて。薬物療法がようやく終わり、今度は元の体質に戻る為にホルモンバランスを崩し、摘出した卵巣のあたりがまた少し痛み出しました。異変を感じたらすぐに薬物療法に戻るよ、婦人科の先生と交わした約束。取捨選択の連続。自分を大切にするんだよ、体が全力で教えてくれたことだから、サインを逃さず日の光を浴びながら進もうと思います。

幸せって何色なのだろうと改めて考えてみました。それはもしかしたら私の中で白なのかなと。真っ白でいられたら、色んなものを純粋に取り込める気がした雪が舞い散った日。息子の誕生日である立春まで、あと少し。