感動の再会

姉と会う日が決まった前夜、分かってはいたものの色んな思いがこみ上げ、なかなか寝付くことはできませんでした。そして、当日の朝、お気に入りのピンクのロングスカートを履き、お互いのちょうど真ん中あたりのカフェで待ち合わせ。4年半ぶりだよ。このサイトを立ち上げる前に一旦お別れしていたんだ。あまりにも、濃くて大きな時間でした。

睡眠不足の中で、ぼんやりとお店の前まで行くと、横から声がしました。「Sちん!」「ああ!」びっくりする時って意外と言葉が出てこないんだな。私のリアクションがあまりにも素だったからか、懐かしさと共に一緒に笑えてきて、4年半が一瞬で埋まっていくようでした。ようやく会えたね、ほっとした姉の気持ちが流れ込んできて、それだけで涙が溢れそうになりました。ふかふかのソファに対面して座り、少しだけ近況を報告し合うと改まって伝えてくれて。「最後に会った時、お父さんへの怒りをSにぶつけてしまい、沢山傷つけてしまってごめんなさい。」泣きながら深々と頭を下げてくれた姿を見て、胸が詰まりました。「正直、とても痛かったんだ。でもネネちゃん、あの時とんでもない怒りの中で、私のことをSちんと呼んだの。その怒りは、私に対する憎しみじゃなくて、ネネちゃんが抱えていた痛みだと感じた。こんなに辛い思いをしていたんだって実感として分かった。だからもういいの。」そんな私の返事に言葉を詰まらせ、ハンドタオルで涙を拭きながら伝えてくれました。「そんな変換をしてくれなくていいの。今ここで怒ってほしいよ。本当にごめんなさい。お父さんのリアクションが薄すぎて、あんたがそんなだから、私達姉妹がこんな思いをしなければならないんだって、お父さんにぶつけずSに向けてしまった。」「うんうん、もういいよ。十分気持ちは分かっているから。」「今日は会ってくれてありがとう。」堪らないよ、あの日以来、再会を待ち焦がれてくれていたんだね。

そして、姉の苦しみがダイレクトで伝わってきたので、ストレートを投げてみました。「一年間、カウンセリングに通ってみてどうだった?」「初回に、女性の心理士さんの前で号泣してしまって、どれだけ話しても、結局自分との対話だから闇が深すぎてやめたの。」「楽にはならなかった?」「虚しくなるだけだった。自己肯定感が低すぎて、どうして自分なんて生まれてきてしまったのだろうとか、子供達の前で、こんなお母さんでごめんなさいとか思ってしまうの。うちの親、私ができなければあの二人は結婚しなかった訳で、どうしておじいちゃんやおばあちゃんは出産を止めてくれなかったんだろうとか、望まれてもいないのに生まれてきたから、私は失敗作でこうなったんだよ。人のせいばかりにしてしまう自分も嫌なの。」「どれだけ悩んでもいいけど、私にはお姉ちゃんが必要だよ。」そう言うと、泣きながら言葉を繋げてくれました。「Sは大丈夫なの。両親から愛されてきたから。小さい頃にバンビのぬいぐるみをお父さんからお誕生日プレゼントで買ってもらったことがあったでしょ。」「え?あれは、おじいちゃんから買ってもらったと思っていた。」「違うの。お父さんから買ってもらってSはいつも大事にしていたの。」優しい毛並みの色で、抱き枕にちょうどいいバンビちゃんをいつも大切にしていた妹の姿を見て、姉はどんなに辛かっただろうと思うと、胸が痛くなりました。「私、お誕生日プレゼントを買ってもらった記憶がないの。ごめんね、Sにする話じゃないよね。心理士さんに、今までカウンセリングに来られなかったのは、妹の方がずっと辛い思いをしてきたからって伝えたの。Sは、いつも自己犠牲の上で成り立っていた。自分さえ我慢すればうちの家族はうまくいくってずっとそうやって生きてきたの。愛情をもらって、でもSしかいないってお母さんにしがみつかれて、お父さんは自分が発端なのに無関心だし、これ以上妹を傷つけるなってずっと思っていた。」姉のさまざまな気持ちが、ミックスされ、飲み込む私が辛くならないように、それでも堪えていた思いがいい感じで吐き出された気がしました。その涙は、心理士さんに見せた時よりも苦しくないはず。闇から引っ張り出せた、そう確信しました。「ずっと孤独だったんだ。」ようやく本音を話してくれたね。「ネネちゃん、私のカフェ巡りに付き合ってね。」「なんだか私こんなだからまたSを傷つけてしまいそうで、時間も奪ってしまいそうで会うことが怖かったんだ。でも、今日会えて嬉しかった。」どちらがどれだけではなく、お互いがお互いの辛さを抱えていたね。私達、とんでもない旅に出ていたんだね。そして、まだ終わりが見えなくて。それでも、手を繋いだよ。苦しかった景色をゆっくり塗り替えようよ。沢山時間をかけよう。義理の兄にこっそり連絡しようか、両親に本気の説教に行こうか、そんな気持ちが掠めたものの、本当に大事なのは姉と二人の時間を過ごすことなのだと明確に分かりました。何があってもそばにいる。

「一年半ぐらい前にね、R君にこどもの国で会った時、お母さんとうちの子達とお菓子を広げたの。そうしたら、息子二人は好きなものをすぐに取って奪い合いになって喧嘩したり、やっぱりこっちがいいとか言って大変だったんだけど、それが落ち着いてから、R君がそっと自分のお菓子を取ったの。そんなに空気読まなくていいよって、何もかもがSに似ていたから思わず本人に聞いてみた。我慢しているんじゃない?それはR君にとって辛くならないこと?って。そうしたら、ボクこれでいいの、それでみんなが嬉しいなら僕も嬉しいからって。子供の頃のSにそっくりだったから心配になったよ。」「ああ、大丈夫。私と二人の時は超わがままだから。その時にバランスとっているんだよ。今、色んなことを伝えていっているよ。」そう言うと、ほっとしてくれました。息子の気持ちが姉を通して届くなんてね。
「年内にもう一度会おうね!」そう言うと、「私は嬉しいけど、Sが今の私といて辛くならないか心配。」と返してくれて。「私ね、話した相手の人の心が少しでも軽くなってくれることが嬉しいの。それが分かった時、自分も元気になれるから。」どこまでも妹らしいな、そんな表情で微笑んでくれました。一緒に駅まで歩き、それぞれの電車に乗り込んでいく。お姉ちゃんの背中が、再会した時よりもシャンとしていること、本人は気づいただろうか。闇から霧へ。一人じゃないって分かった人は、強いんだ。空白の4年半を、姉が生まれた喜びを、これまで彼女が感じた痛みを、温かく包んでいく、そう誓ったあまりにも優しい再会。でっかい愛で本当に溶け出した日。