春を連想

今年の節分当日、相変わらず事務的なことに追われ、ようやく息子のお迎えに行き伝えました。「今日は節分だから、豆と恵方巻を買ってくるね。自宅に帰ったら短時間だけお留守番していて。」「分かった。ボク、鬼の金棒を作っておくよ!」そんなに本格的じゃなくていいんだけどな~と思いつつ、楽しそうにしていたので半笑いでお別れ。そして、自転車を走らせると、反対側の歩道から母に呼び止められ驚きました。「偶然ね~。最近運動不足だから、遠回りして市役所に行こうと思っていたの。」「なんで市役所?!」「あのね、そこのサバの味噌煮定食が美味しいのよ~。」となんだかウキウキの様子で、母の笑顔がくすんでいないことにほっとしながら笑ってしまいました。「それは良かった!明日Rの誕生日で、一緒にブッフェに行く約束をしているから、お母さんも行く?」と誘うと大喜び。私の心にホールができると、母に偶然会うことが不思議。今は大丈夫だと、プラスの引力が働いてくれているのかもしれない。

その後、鬼の役を交互に行い、息子と豆まきは終了。恵方巻を食べながら、質問攻めが待っていました。「ボクはまだお腹の中にいたの?」と。「そうだよ。陣痛といって、もうすぐ出るよ~というサインが赤ちゃんの方から送られてくる痛みがあって、あまりの痛さで病院に行ったんだけど、その痛みが弱くなってしまい、陣痛室にいたの。全然食欲なかったんだけど、助産師さん達がなかなかのスパルタで、食べないと元気な赤ちゃんが産めないでしょ!って言われて、痛みと戦いながら節分豆をポリポリ食べていた。だから、Rもへその緒を通して食べているよ。」「へえ~、大変だったね。」他人事か!!息子の胎動を聞かせてもらいながら、最後の力を振り絞ったんだ。2月1日は祖父の誕生日。その翌日の深夜に陣痛がきた。祖父の命が薄れていくことを感じながら食べた節分豆、その味を忘れることはないだろう。
そして翌日、昼過ぎに母が登場し、三人でお誕生日会をすることに。すると、息子が嬉しそうにおばあちゃんに伝えてくれました。「ボクの誕生日、立春なんだよ。ママが教えてくれたの。」毎年伝えていたような気もするのだけど、今年ははっきり意味が分かり喜びもひとしおだったよう。「Rが春をもたらしてくれたの。」言葉にしたら、涙が溢れそうでした。長かったこの一年、ようやく春が来たのね。その後、プレゼントにもらったマリオのゲームを楽しみ始めてくれたので、母と少し話すことに。調停の詳細は、両親へメッセージを送っていたので、そっと見守っているスタンスに安堵し、こちらから質問を投げかけてみました。「今、戸籍のことで色々と動いているのだけど、実家にいた時の本籍が気になってね。それって、おじいちゃんの実家だったっけ?」「そうだよ。おじいちゃんが生まれた本家。」そう言われ、私達家族は祖父に守られ、大きな柱だったのだと改めて思いました。戦後、無傷で帰還した祖父は、体の弱かった祖母と結婚。警察官として働き、仕事が合わなかったのか辞めてから荒れてしまいパチンコ三昧。名古屋市内の小さなアパートで、母が幼少の頃に家にあるものを質屋に売ってしまい、そのお金でパチンコに行くので何もなかったと話してくれました。それでも、祖母が母の服を縫ってくれてそれが嬉しかったと。その後、見かねた祖母の親族が安い土地があるからと声をかけてくれて、身内に借金をして家を建てることになったんだとか。そのことがきっかけで、祖父は改心し会社員として真面目に働き始めてくれました。その家は、私が育った場所で、祖父の本家はそれ程離れていない所にあり、自分が思っていたよりもずっと、おじいちゃんが築いてくれたものは大きかったのかもしれないなと改めて思いました。祖父の歴史を、遺志を私が継がなければ。「お墓の件なんだけど、お姉ちゃんとゆっくり話し合っているからもう少し待っていてね。どこが一番いいだろうと考えているんだ。」祖父と一番深い所で言葉を交わしてきたのはきっと私。名古屋の地から離れない方がいいか、思い切って関東に連れてきた方が寂しくないか、心の声をもう一度時間をかけて聞いてみようと思います。おじいちゃんが元気な時に、最後に会ったのは小田原駅。新幹線乗り場の近くで握手を交わし、涙が溢れてしまったその時のことが、私の中で大切に刻まれているんだ。特別な地になった。その小田原も候補に上がっていると言ったら、喜んでくれるだろうか。手のぬくもりを思い出す度、情景が鮮明に蘇ってくる。

「ママ、ボクが生まれたのが夕方の5時9分だから、もうお腹からは出たね!」母が席を立っているブッフェの席で、せわしなく食べていたらふと息子が伝えてきました。「本当だね、すっかり時間が過ぎていた~。改めてお誕生日おめでとう!Rが元気に生まれてきてくれたこと、それがお母さんの幸せ。元気が良すぎてへその緒を首の辺りまでぐるぐる巻きにしてしまうから、病院の先生達と一気に出そうということになって、あなたが生まれる時は沢山のお医者さんや助産師さん達が取り囲んでくれていたの。沢山の人達があなたの命を守ってくれた。そのことを忘れないで。生まれてきてくれてありがとう。」そう伝えると、にっこり笑ってくれました。大きな春が目の前にいる。その後も、三人で盛り上がり、わいわい帰り、ようやく息子を寝かせるとネネちゃんからメッセージが入っていました。『Rくん、お誕生日おめでとう。いっぱいいいことありますように。Sちんもママ10周年よく頑張りました~』こうやって年を重ねていくんだね。最愛の姉へ、心を込めてありがとう。