届け合う野球

WBC準決勝の祝日の朝、気負ったことと気圧の影響でかなりの睡眠不足に。それでも絶対に見逃したくないと思い、息子を起こし、テレビの前に座りました。一緒に『君が代』を聴き、気持ちはマイアミへ。沢山の日本のファンが駆けつけてくれていて、その姿を見ただけで胸がいっぱいになりました。そして、いよいよプレイボール。

メキシコの勢いもすごく、アウェイの中でプレイをする難しさもあるよねと色々なことを思っていると、0対3のまま日本が追う形に。過去二回大会、準決勝で敗れた悔しさと選手達の涙をずっと覚えていました。「この壁は厚いんだ。でもだからこそぶち破ってほしい。」息子に伝えると、国際大会の難しさとその意味を感じてくれているようでした。そして7回裏、吉田選手が放った打球がライト方面へ。大きなファウルかなと思っていると、ホームランだということが分かり、息子と大騒ぎ。「ランナーが二人いたからスリーランだ!同点!!」「やった~!吉田選手、めちゃくちゃ打ってくれるね。レッドソックスに行くんだよね。本当に赤い靴下のマークで面白いね!」と後半ホームランと関係ない話まで出てくるので、二人で大盛り上がり。「今シーズンからレッドソックスに移籍だから、大変な時だと思うのに、日本の為に侍JAPANのユニフォームを着てくれたんだ。本当にその気持ち嬉しいね。これからも応援しよう。」「うん。なんだかボク、この試合難しいかなと思いそうになっていたからびっくりした!」私もすっかり目が覚めて、野球の醍醐味をまた教えてもらったようでした。源田選手(西武)は、負傷した右手の小指にテーピングを撒き、準々決勝からスタメン。満身創痍とはこういうことを言うのかな、全身傷だらけでなくとも、右手小指はプロ野球選手にとって、守備の名手である源田選手にとってあまりにも大切な体の一部。選手生命にも関わることなのに、日本の為に仲間の為に戦ってくれるその姿に涙が溢れそうでした。『源田の1mm』忘れません。その後、2点をまた取られたものの、代打で出てきた山川選手(西武)が犠牲フライを打ってくれて1点返すことができました。今大会で出場出番の少ない山川選手が伝えてくれていて。出る機会は少ないかもしれないけど、マッチさん(松田選手、巨人)のようになれたらいいと。国際大会で出番が少なくてもベンチで盛り上げていた松田選手、その気持ちもまた受け継がれているのだと思うとぐっときました。大きな犠牲フライの1点、山川選手の強い気持ちが得点に繋がってくれたのだと思っています。そして、4対5で迎えた最終回、大谷選手がノーアウトでヒットを放ち、二塁まで走ってくれた時、とんでもない気迫と大きなうねりを感じ胸が詰まりました。彼は絶対に勝ちにいくんだなと。俺と同じ温度までこい!とみんなに伝えてくれているようでした。そして、吉田選手はフォアボール、代走に出てきたのは周東選手(ソフトバンク)で祈りました。周東選手、サヨナラ勝ちのランナー、絶対にホームに帰ってきて!!その後、打席に立ったのはその試合不振だった村上選手。息子とヤクルトのバチを持ち、画面に向かって応援すると、見事な打球を外野に飛ばしてくれて、二人で叫びました。あっという間に大谷選手、周東選手がホームに帰ってきて、サヨナラ勝ち。息子と抱き合い、半泣きして喜び、感激が止まりませんでした。「村上やった~!!すごいよ。ここで打ってくれた!」と彼の喜ぶ姿を見て感無量でした。大きな壁を本当に破ってくれた。いざ、決勝戦へ。

そして翌日、なんで学校へ行かなきゃならないの?授業よりもWBCだと朝からぶつくさ言っている小学男子を途中まで見送り、Rの分まで応援するからと言って、慌てて帰ってきました。決勝の相手はアメリカ、大谷選手の様々な気持ちが伝わってきました。そして、最後の試合、プレイボール。1点を先制された2回裏の攻撃、打席に立ったのは村上選手で、1球目にホームランを打ってくれた時、一人で叫び、このホームランを息子にも見せたかったなと思いました。あなたの好きな村上選手、格好良かったよと心の中で学校にいる息子に届けてみる。少し微笑みほっとして見ていると、またランナーがたまり、ワンアウト満塁でたっちゃん(ヌートバー選手)。いつでもこしょうをひく準備はできているよと思っていると、緩いゴロを打ってくれて、ランナーが一人帰ってきてくれました。大きな打点に大盛り上がり。そして、4回裏岡本選手(巨人)のソロホームランでボルテージは最高潮。若い投手リレーで、栗山監督の想いを感じました。アメリカの大舞台で経験を積ませてあげたい、そんな親心を受け取り、日本が誇るピッチャーの方達は自信を持ってマウンドへ向かっているのではないかと。その背中にこちらの方が励まされました。相手が誰であろうと怯むことなく立ち向かう、自分を信じて、そして共に戦ってきた仲間を信じて。8回のマウンドに上がってくれたのはダルビッシュ投手(パドレス)。感謝の言葉を何度も口にしてくれたダルビッシュ投手、こちらの方こそ宮崎合宿からありがとう、ファンの一人としてそっと届けました。最後は、1点差で迎えた9回表、マウンドへ向かってくれたのは大谷選手。もうそれだけで泣きそうでした。ノーアウトのランナーをゲッツーに抑え、バッターボックスに立ったのは同じエンゼルスのトラウト選手。フルカウントまでいき、息をすることも忘れてしまいそうな最後の投球は、空振り三振!!この歓喜をこの瞬間をずっと忘れることはありません。こんなことが本当に起きるんだなと。6年ぶりのWBC、世界一奪還は14年ぶりで、どの大会も全部覚えていて、ずっとその記憶と想いと共に歩いてきました。今大会で見せてくれた数々のドラマは、一回大会から集まってきた汗と涙と情熱の全てがそこに詰まっているようで、堪りませんでした。こんな感動があるんだな。

そんな大きな感動に包まれていると息子がバタバタと帰宅。「ママ、ボクね、村上のホームラン見れたの!日本優勝したね!!」「なんで知っているの?」「授業が終わる度に先生がこっそり見せてくれたの。カーテン閉めていたから理科の実験をしていたことになっているよ。短時間だったんだけど、ちょうど村上のホームランだったの!!ボクもう感激しちゃって。優勝が分かった時はみんなで大騒ぎだったよ!」先生ありがとう、本当にありがとう。その時間は、息子の心に一生残ることでしょう。最高の理科の実験でした。息子の宿題の音読サインに、鈴木誠也選手(カブス)と栗林投手(広島)のユニフォームと背番号を描いておいたら、後日先生がその部分に花丸を付けておいてくれました。広島の大ファンである先生、宿題を通してのキャッチボール、私も覚えておきます。
トランペットの音を聴く度、マイアミでのWBCが何度も何度も思い出され、とんでもない力がその度に湧いてくるだろう。日の丸が立体的な球体に見えました。日本だけでなく世界が魅了された日本の野球、ありがとうという言葉しかもう見つからない。息子と見たシャンパンファイト、勝利の喜びを感じさせてくれたその時間を胸にまた一歩前に進みます。