熱戦の先へ

日本シリーズが終わった翌日、何とも言えない寂しい気持ちで朝を迎えました。色々な感情がこみ上げて。息子が大好きなヤクルト、対戦相手のオリックス、どちらの球団にもそれぞれ思い入れがあり、1戦1戦全ての時間が自分の中に蓄積されていきました。第一試合、息子が何気なく伝えてきました。「オリックスってイチローがいたチームだよね?」随分前に話した内容を覚えてくれていたよう。「そうだよ。前は本拠地が神戸だったんだけど、今は大阪なの。」そうなんだ~と息子が頷き、遠い記憶が蘇ってきました。中学3年の時に起きた阪神大震災。高校受験前に、愛知にいた自宅は揺れ、朝のテレビを見ると、神戸の街はとんでもないことになっていました。愕然とし、言葉を失った15歳の冬。その後、高校生になり、イチロー選手の活躍もあってオリックスが日本一に。ユニフォームの袖に書かれた『がんばろう神戸』の文字を見る度、胸が熱くなり、感動をした学生時代を思い出しました。震災で、バスが半分近く浮いた状態で停止した映像がずっと目に焼き付き、長い時を経て、そこの近くに住んでいたプログラマーのMさんに出会いました。ご縁とは本当に不思議なものです。彼は、オリックスを応援。いい試合が続きますように。

息子とは、連日ヤクルトのバチや傘を持って、テレビの前で観戦することに。第5戦、なかなか寝ない息子を説得し、4対3で勝っている段階でなんとか寝かしつけに成功しました。すると、リリーフのマクガフ投手のエラーが絡み、敗戦。彼に翌朝なんと伝えようかなと思い、なんとも言えない気持ちでスマホを握りしめていると、東京オリンピックでのことが思い出されました。決勝トーナメントに進んだ侍JAPAN、対戦相手はアメリカで、マクガフ投手から点を取り、延長の末勝利を手にしてくれて一緒に歓喜。その試合で、マクガフ投手がヤクルトで活躍してくれている選手だと知り、どうしようもなく自分を責めてしまっている表情を見て、胸が痛くなりました。その後、侍JAPANは念願の金メダル、そしてアメリカは銀メダルに終わり、表彰式の後、マクガフ投手を真ん中に、左に山田哲人選手、右には村上選手がいる三人の笑顔がそこにはあって、その写真を見ることができ胸がいっぱいでした。もう随分行っていなかった野球観戦に、母がチケットを譲ってくれて向かった今年の神宮球場。沈んでしまいそうな数々の出来事の中で、野球の感動がまた自分を大きく包んでくれました。最後に出てきたのはヤクルトの守護神、マクガフ投手。彼が出てきてくれて本当に嬉しかった。その瞬間をずっと大切にしていました。そして、日本シリーズで6戦目もマクガフ投手のエラーが出て、点を取られた後、彼の気持ちを思うと胸が苦しく、検索をかけると東京オリンピックの内容が出てきました。決勝トーナメント初戦で日本に打たれ敗戦した翌日、マクガフ投手のスマホが鳴り、一本の動画が届いたそう。それは、通訳の方からで、ヤクルト投手陣からの激励の言葉だったよう。「ヘイ、スコット!頑張ってー」「ファインティン!」「スコット、ファイト!頑張って!」『わずが30秒足らずの短い動画。だが、若手投手陣からのメッセージの一つ一つは、マクガフの心に深く突き刺さった。落ち込んでいる自身を励ましてくれる言葉。あふれる笑顔。返信はこうだった。「みんなに会えなくて寂しい」小山通訳は言う。「みんな日本に勝ってもらいたいというのはありますけど、スコットにいいピッチングをしてもらいたいという思いもあったはずです。みんなに愛されていて、スコットをちゃかすような選手は一人もいない。だから、カメラを向ければみんなが笑顔でコメントをしてくれたんだと思います。』(サンスポの『燕番コラム』より一部抜粋、引用させて頂いたことに感謝します)その内容を読み、このチームのあたたかさを改めて感じ、胸がいっぱいになりました。暗いトンネルの中で沈み、そこから届けてくれたあまりにも優しい光。この2試合のエラーが、マクガフ投手の野球人生だけでなく、彼の人生を狂わせてしまうことにならなければいいな、仲間が届けてくれた光をどうか消さないで、持ち続けてくれたらいいなと願いました。そして、第7戦の前、たまたま目にしたのは翌日が誕生日のマクガフ投手を投手陣がお祝いしている動画でした。笑っていてくれて良かった。本当に良かった。
Dear Scott, I hope you shine on the mound again.

「今日もしヤクルトが負けたら、今シーズンの試合は最後になるから見届けようね。明日に繋がってくれたらいいね!いい試合をしてくれること、それが何よりだと思っているよ。」息子に伝えると頷きながら言ってくれました。「本当に毎日楽しかったから、今日の試合も引き分けでずっと続くといいのにね。」子供にも沢山の夢を見せてくれてありがとう。第7戦、5対1で劣勢、ランナー1、3塁でオスナ選手が打席に。みんなの願いを乗せて、ホームランを打ってくれた時、息子と叫び、泣きそうになりました。とんでもない感動を運んでくれて。諦めるな!僕達は諦めていない、そう伝えてくれているようでした。結果は5対4で惜敗したものの、ナイスゲームに感極まりそうでした。去年の今頃は、全く余裕がなくて、日本シリーズが東京ドームで行われていたことさえ知りませんでした。暗いトンネルを抜け、今年の春、息子と神宮球場に辿り着きました。そこで目にしたもの、聞いた音、嗅いだ匂いは私の中に大きな喜びをもたらしてくれました。隣にいる9歳の息子と熱狂したシーズン、きっとこれから先もこの一年を忘れることはありません。そんな気持ちにさせてくれたプロ野球の世界に感謝し、そこに集まる沢山の方達の熱と力とあたたかさをもらいながら、前に進もうと思います。

オリックス優勝、おめでとうございます。近鉄バファローズの名前、オリックスバファローズと名前が残ってくれていることに感無量です。阪神大震災で、深く傷を負った方の心が26年ぶりの優勝で少しでも晴れてくれたらと祈っています。野球が届けてくれるものは私の中であまりにも大きくて。そして、ヤクルトの底力を最後の最後まで見せてもらえて幸せでした。高津監督の悔し涙を忘れないでいようと思います。サクセスストーリーは簡単じゃないから、心を惹きつけられる。そんな過程を野球から沢山教わりました。熱戦のその先へ、来年はどんなドラマが待っているだろう。