自分にお祝い

毎年やってくるお誕生月。そういえば、今日は西武の松坂大輔投手のお誕生日で、引退を表明されたことを思い出しました。なんだか、慌ただしい毎日を送っていると感慨にふける間もなく、今こうしてパソコンに向かいようやく実感できたような気がしています。沢山のわくわくと感動と甘酸っぱさや弾ける笑顔をありがとう。そんな彼の出身校である横浜高校の甲子園初戦、すっかり忘れて息子と外にいたら、母からまさかの実況がLINEで入ってきました。『横浜高校、9回ウラでサヨナラホームランだったの!!逆転よ!最後まで何があるか分からないわね!』え~!その試合観たかった!と本気で後悔しながらも、こんな結果の知り方もあるのねと笑ってしまいました。やっぱり思い出すのは、大学在学中に二人で観た横浜高校対PL学園の激闘。それ以来、すっかり松坂投手のファンになった母は、会った時に伝えてくれて。「横浜高校のサヨナラ勝ち、良かったわ~。松坂くんの出身校よね!」初恋の相手か!と突っ込みたくなる気持ちを抑え、彼が現役を引退することを黙っておこうと思いました。これで、母の中ではずっと平成の怪物でいてくれる。甲子園を沸かせ、西武に入団、渡米をし、ソフトバンクで日本球界に復帰、思いがけず中日に入ってくれた後、古巣の西武に戻った野球少年達の憧れ。ノーヒットノーランを成し遂げた甲子園決勝を、忘れることはないだろう。

私が生まれるはずだった42年前の今日、帝王切開の日にちが決まっていた母は、陣痛が来ているにも関わらず、一晩中我慢をして翌朝を迎えました。それに気づいた祖母は大慌て。陣痛が来ているのなら、我慢したらだめだと怒られながら、慌てて総合病院へ。良く晴れた昼間の1時半ごろに無事出産。姉の時が帝王切開だったので、大事を取って二人目もその選択を医師と相談の上したらしいのですが、どうやら私は早く外界に出たかったよう。母が我慢してくれちゃったおかげで、松坂投手と同じ誕生日を逃してしまいました。誕生日が一日ずれると、運命って変わったりするのかな。それよりも、母が自力で産むことに意味があったのかも。
そんな姉妹は、波乱の家庭内でも自分をしっかり持とうと固い約束。姉が、航空会社を何社か受ける際、面接の前に慌ててガラケーに電話をかけてきてくれたことがありました。「S、今どこ?」「名古屋駅の構内にいるよ。」「そうか。外にいるのにごめんね。志望動機のことで頭がいっぱいで、首都と通貨を覚えてくるのを忘れたの。シンガポールについて分かる?」とまさかの質問が待っていて。「シンガポールの首都はシンガポールだと思うんだよ。国名がそのまま首都なんだって覚えた記憶があるから。通貨は何だっけ、リンギット?いや違う、それはマレーシアだったような。シンガポールは、シンガポールドルじゃない?」「ありがとう!助かった!」「いやいや、間違っていたらごめんね。私の珍解答でお姉ちゃんが落ちたら洒落にならないよ。健闘を祈る!!」そう言ってせわしなく電話を切りました。まだ、携帯電話がネットに繋がっていない時代、歩く地図帳だと冗談で妹のことを茶化してきた姉は、試験の前によく私に質問を投げかけてきました。“歩く”というより、バリバリ地図帳片手にカンペを見ていたのですが、そのおかげで元々好きだった世界の首都と通貨一覧を見る機会が増え、意外な形で役に立っていた影のサポーターでした。でも、地理が好きなのは父からの遺伝なんだな。その後、姉が結果を教えてくれて。「この間の面接、だめだった。協力してくれてありがとう。Sの声を聞いたらリラックスできて、いい面接だったんだよ。落ちたのは単純に私の力不足。また頑張るよ。」悔しさを滲ませながらも、なんとか自分を奮い立たせて次に向かおうとする姿勢が格好良くて。姉が決めてきたのは、シンガポールではなく大阪。妹を思う気持ちが、その場所に導いてくれた気がして、どこまでも姉らしいなと思いました。行こうと思ったら、何度でも会いに行ける場所。そして、沢山の思い出を作ってくれた特別な地。道頓堀のたこ焼きは、歩きながらハフハフするのがいいんだよね~。

姉に、焼き菓子のお礼にカフェランチをご馳走したいと連絡をすると、感激してくれて、どこでも行くよ!と返信がありました。ずっと再会を願ってくれていたんだね、そう思うと沢山の気持ちがこみ上げて。「最後は一緒に老人ホームに入ろう。そして、私はSちんに見送られるの。」「それじゃあ私は一人になっちゃうよ。」「あんたはそこでまた友達作るでしょ。紙芝居とか読んで、みんなに囲まれて最期を迎えるんだよ。簡単に想像がつくわ。」そう言って笑ってくれました。会えなかった4年半分のお誕生日会をしよう。この世に生まれてきてくれたことに、ありがとうをしよう。私の人生にあなたが必要だから会いに来た、そう言ったら届くだろうか。息子と過ごす中でずっと不思議なものを感じていた。ようやく答えが見つかった、生まれてこなかった私達の弟、そのイメージと重なったよ。そんな話をしたら、また驚かれるだろうか。「Sには不思議な力がある、それは時に自分を苦しくさせるんだけど、周りの人達を助けていくんだよ。気づかなくてもいいことに気づいてしまうから、喜び1割、苦しさ9割といったところ。それを見ているともどかしいのだけど、それでも、その1割はあんただから感じられる幸せのような気もしてね。そんな生き方を応援したくもなるよ。」丸ごと包んでくれる姉との再会は、もうすぐそこ。