気持ちが上がった

自分のことを一人称で“お母さん”と呼んでいるのに、相変わらず“ママ”と息子が呼んでくるので、こちらから再度言ってみました。「ねえ、そろそろお母さんって言おうよ。」「だったら、かあちゃん。」と思いっきり昭和に戻ったかのような呼ばれ方をしてしまい二人で大爆笑。日記にはお母さんと書いてくれるのに、実際呼ぼうとすると照れでもあるのかな。息子も私もなんとなく身が引き締まってしまうんだな。「ねえねえ、かあちゃん。」とすり寄ってきた8歳児。なんとでも呼んで。

昨晩は、猛烈に気分が悪くなってしまい、夕飯後にソファで休ませてもらいました。息子が学校からもらってきた朝顔の種を植えたので、バルコニーで一生懸命に水やりをしている姿を横目に、流れゆく雲をぼーっと見ていて。起き上がれなくてどうしようと思いながらも、うろこ雲の綺麗さに感動していると、窓の向こう側から一生懸命何かを伝えている小3男子を発見。何を言っているのかさっぱり分からん!「もうママ聞いていてよ~。朝顔の水やりやってるよって言っていたんだよ~。」見れば分かるわ!!プリプリしながらリビングにやってきたかと思うと、こちらの不調に諦めたのか、大人しく宿題を始めてくれて、大切なことを思い出しました。今の私に必要なのは、過去でも未来でもなく、今日の自分を生きること。今まさに感じているものを大事にすること。そんな気づきに微笑み、重たい体を起こしダイニングテーブルの隣に座ると、ぶつくさ言いながらも音読を始め、合格のサイン。あと何回こんな日があるのだろう、あと何回隣で笑ってくれるだろう。

この間は、母が思いがけない話をしてくれました。「あなたの手術日、お父さん病院の婦人科までは来てくれたけど、手術室の前までは行かなかったでしょ。父親なんだから、そこまで見送ってほしいと思ったよ。冷たい人だなって。」「いやいや、上出来でしょ。病院まで来ないでそのままマンションに行くと思っていたよ。私ね、元々お父さんに対してハードルが低いから、一目会いに来てくれただけで嬉しかったよ。」そう言うと、「あなたはさすがね。」とちょっと笑われてしまいました。母は元々情が深い人。自己肯定感の低さから、不安で押し潰されそうになり訳が分からなくなることがあっても、中にあるものは温かいことを知っていました。だから、その目線で父を見ると、歯がゆくなってしまうこともあるのだろうと。小学生の時、親子4人で軽井沢へ行き、ペンションに着くと、父はパチンコへ行ってしまいました。母は開き直り、姉と私を連れ、3人乗りの自転車をレンタルしてくれて、母を真ん中に山の中を気持ちのいいサイクリング。その時の母は強く優しかった。女3人で楽しむからいいわと笑ってくれました。その時聞いた小鳥のさえずりも、風を切った音も、木々の合間から差し込んだ光も、何もかも覚えている。母が真ん中で一度も漕ごうとせず、先頭の姉と後ろの私が必死に漕いで笑い転げた時間。蓄積されたものは、辛かったことよりもこんなひとときなんだ。お母さん、あなたから離れなかった理由はちゃんとあるよ。いつか、言葉にして伝えられるだろうか。

姉がまだ実家にいた頃、回し読みをしていた文庫を持ち、慌てて私の所へやってきました。「ちょっと気づいてしまったんだけど。」と開けたページには、父が綺麗な女性と自撮りのツーショットで写っている写真が。その事実にショックを受けると共に、隠す場所がないからといって、姉の部屋にあった本棚の本に隠すなんてと、二人で呆れてしまって。今思えば、ばかなんじゃないかと思う。「S、どう思う?」「どうもこうも彼女でしょ。しかも、これ多分銀行の宴会だよね?」「なんで分かるの?」「なんとなく。」「あんたのそういう勘は当たるから、きっとそうなんだろうね。」「お母さんには絶対に黙っておこう。」と二人で姉妹会議終わり。一歩間違えれば、本嫌いになるところだったというまさかの珍事件でした。その後、父の銀行へ通帳を作りに行くことになり、予め伝えておいたので父がとりあえず登場し、「うちの娘。」と伝えると、すでに聞いていたのか窓口にいた女性行員の方が優しく対応してくれました。ご挨拶をし、あ!っと小さく叫びそうになって。綺麗な方だと思ったら、写真の人じゃないか?!テレビの見過ぎなのか小説の読み過ぎなのか・・・。とても感じのいい方で、こちらのことも色々と知ってくれていて、複雑な気持ちで銀行を後にしました。姉にも言える訳ないじゃないか。

そんな前科の多すぎる父を知っているだけにハードルが低いとは、事細かに母には説明できず。「この前ね、お父さんが出向先で親しくしていた会社に一緒に顔を出したの。いつもならお前は車で待ってろって言う人なのに、その日は一緒に来いと言ってくれてね。そうしたら、妻ですって皆に紹介してくれて、こんなこと初めてですごく嬉しかった。」秘密は秘密のままでいい。ね、今を生きたら、見えないものが見えてくるかも。