新幹線のお弁当

大学四年の終わり頃、父の実家である佐賀に連絡をし、もうこれで最後になるかもしれないと思い、東京で叔父に会ってから、名古屋駅で降りずにそのまま向かいました。私が卒業したら、両親は正式に別れるかもしれない、だから疎遠になる前に会っておきたかった。

祖父と祖母と久しぶりの再会、色々な思いがこみ上げる中で、三人で夕飯を食べに行きました。すると祖母から、「Sちゃんが女の子だからお母さんの味方ばかりして、お父さんを追い込んだんでしょ。余裕がないのに大学行きたいなんて言い出して。Sちゃんがお父さんを連れ戻しに行きなさい。」と思いがけないことを言わてしまい、言葉を失いました。ここで何かを言ったら、それは全て母の言葉だと思われてしまうような気がしました。そして祖母もまた、息子の孤独を感じた辛さを、孫にぶつけているだけだとも。
皆が辛い思いをしていたのだと、ぐっと堪えていたら、祖父が私の気持ちを察し、祖母に怒って制止させてくれて、その優しさに助けられました。

翌朝、祖父がビニール袋に大量の下着や生活用品を買ってきて、「Sちゃん、一緒に名古屋に行こう。」と言ってくれた途端、祖母が怒りだし大喧嘩。もう会えないと思って、二人に会いに来ただけだよ、だから両親のことで喧嘩するのは止めて。私が何とかするから大丈夫、一人で帰るから。心の中でそんなことを言いながら、二人を止めに入りました。それでも、祖父は荷造りを始め、田舎育ちで都会に出ることに慣れていないのに、一生懸命荷物を詰め込んでいて、その姿を見て、本当に泣きたくなったし、同時に親の愛を感じました。

祖母とは最後まできちんと話せず、お礼とお別れを言って、祖父と新幹線へ。席に座った後、ワゴンサービスが来て、幕の内弁当とお茶を二つずつ買ってくれて。一緒に食べながら、祖父がぽつりと言ってくれました。「Sちゃん、今まで皆の間に入って辛かったね。おじいちゃんがお父さんを説得しに行くからもう大丈夫だよ。よく頑張ったね。」その言葉を聞いて、涙が一気に溢れそうになりました。でも、ここで泣いてしまったら、祖父にもっと心配をかけてしまうような気がして、「うん。」としか言えず、ただひたすら詰まった俵型のお米を口に運んで、そっとトイレに行って、大泣きしました。
その言葉だけで十分でした。遠く離れて久しぶりに会ったのに、私の気持ちに寄り添ってくれた祖父。祖母に言われてぐっと堪えている私の姿を見て、家の中での様子を感じてくれたのだと思います。

その後、父にメールを送り、名古屋駅まで迎えに来てもらい、夜三人で父の家で話しました。祖父から父へ。「一人暮らしなんて不経済だから、あちらのお義父さんに謝って、家に帰りんさい。」
その言葉を聞いて、本当に驚きました。我が子が一番可愛いはず。父は、同居の家が居心地悪くて出たのに、そんな気持ちよりもまずは自分から謝りなさいと言った。なかなか言えることではありません。父が何も言わずに黙っていたので、もしかしたら余計に寂しくさせてしまったのではないかと思い、二人に伝えました。
「家にいるおじいちゃんもお母さんも、今は落ち着いて、お父さんも色々な気持ちがあるから、今はこの状態が家族にとっていいのだと思う。おじいちゃん、わざわざ一緒に来てくれてありがとう。」
男同士だから多くは語らないけど、父は親の深い愛をここまで来てくれて、感じたのだと思います。

俵型に詰まった幕の内弁当を見る度に、祖父の温かさがよみがえり、沢山の気持ちがこみ上げます。たったひと言が、これまでの自分を救ってくれました。
そして、新幹線もまた、思い出が詰まった特別な空間。